邪神と一緒にVRMMO 〜邪神と自由に生きていく〜

クロシヲ

閑話 たった一つの咎と、何百もの善

7章 あゝ神よ


それが、悲劇の始まりだった。

投げつけられた剣は魔獣の腹へと突き刺さり、その一撃で魔獣は倒れこみ、絶命した。

「大丈夫?」

彼はそう声をかけるが、幼馴染の少女はある一点を見つめている。
その身体はブルブルと大きく震えており、瞳は今にも飛び出してきそうな程に見開かれている。

そこには剣の突き刺さった魔獣が転がっていた。
村民が何よりも大事だと言う祠の残骸の上に・・・・・・・
彼はそうなることを知っていた。
自分の行いでそれが、神が住まうとされる祠が壊れることを知って、その上で幼馴染を助けるために剣を投げた。
神もただの祠より人命を優先しろとおっしゃるはずだ。
何より僕は、彼女を救いたい。
最早修繕の手立てはない。
そう無言で告げているかのように、吹き飛んだ魔獣の体によって祠は完全に粉砕されていた。

「?」

幼馴染の少女がいなくなっている。
ようやく魔獣に襲われた状況から戻ってきたようだ。
祠を壊してしまったが、助けられてよかった。

そんなことを思い、彼は魔獣の駆除をこなしながら下山していった。

山を降りると、信じられない光景が広がっていた。
村民が武装し、ブルブルと震えながらもこちらに刃先を向けている。

「お前は神様の居られる祠を壊した!よって、神山行きじゃ!」
「まってくださ
「何を待つっていうんだ!」
「祠を壊したくせに!」
「彼女を助けるためで
「嘘をつくな!」
「彼女からはお前が祠を剣で壊し、魔獣の死体を使って魔獣がやったように見せかけたと聞いたぞ!」
「きっとこれまでも何かやってやがったんだ!」
「そうだ!そうに違いない!」
「おかしいと思ってたんだ!」
「こんな良い奴!いるはずがない!」

助けた幼馴染にむけて助けを求めた視線は侮蔑と嘲り、そして隠しようもない喜色で返され、彼は救いなどないことを理解した。

「はい、分かりました」

「村長!気をつけろよ!俺らを油断させようとしてるに違いねぇ!」

なにも、信じてくれない。
真実ほんとう虚構ウソに塗りつぶされる。

そして彼は、山の山頂、極寒の極地に作られた牢獄へと幽閉された。

もちろん食糧などない。
が、虫はいた。
爬虫類はいた。
そして何より、牢獄は広くて、魔獣もいた。

それを喰らって過ごし、ただひたすらに暗闇の中で解放を願う。

檻の前に咲く白百合の花はこちらを向かずに枯れ落ちた。

そんな頃、食糧が尽きた。
だが、彼は生きのびた。
自分の腕を喰らったのだ。

それは、「執念」
生きたいの願う、常軌を逸した執念。

彼は恨んでいた、村民を、だが、同時になにか理由があってあんな酷いことをしたのだと、自分は悪いことをしてないのに。
祠を壊したなんて嘘だ。自分は魔獣を倒しただけなのに。

そして数十年が過ぎた。

もう彼は全てを恨んでいた。
自分を救わなかった世界を、村民を。
ありとあらゆるものが憎悪の対象となっていた。
が、殺そうなどとは思っていなかった。
憎悪はあれど殺してしまっては彼らと同類になってしまう。
残った良心と憎悪がせめぎあい、彼の心を蝕んでいく。

そんな折、絶望の牢獄にそれは現れた。
漆黒に染められた。黒い泥のような何かを吐き出している小さなゴブレット。

おぞましいそれに、何故か彼は引き寄せられたかのようにふらふらと近づき、その骨と皮だけになった手で、触れた。


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