イセカマジックストーリー《異世界×オカマ×魔法》
29進歩は無く
「さて、とりあえずこの街ね。」
先を歩いていたネロが振り向いてそう言った。
彼女の後ろにはゲートがあり、そこには『ようこそペリギアへ』と日本語で書いてある。
ペリギアという街のようだ。
そういえば、この世界に来てから日本語しか見ていない。共通言語なのだろう。
「エナスもいい?結局あなた、ずっと着いてきたけど。」
森を抜けてもなお共に行動していたエナスはまだネロを警戒しており、ぷいとそっぽ向く。
それを見て溜め息と共に肩を落とすネロの顔は、苛立ちを通り越して呆れていた。
「…それ何度目よ。どーせサラが聞けば頷くんでしょ?」
エナスは森を抜ける途中や抜けたあとも、このような態度をネロに向けていたのだ。
最低限の問いにすら答えず、ネロは少々苛立っていたが、なんとかウィルが抑えていたという感じだ。
そしてその後、サラが同じ問いをすると、満面の笑みで頷くのだ。
何故ネロにだけなつかないのか、一度聞いてみたがハッキリとした答えは返ってこなかった。
サラが聞くと、今回も例によって頷いた。
「じゃあ、決まりね。とりあえず一泊かしら。」
それを聞いて、ウィルと同時に口が開いた。
「「一泊!?」」
顔をくしゃくしゃにしてネロは肩をビクつかせた。
「当たり前でしょ!軍も動いてるに決まってるし、ここに来られるのも時間の問題なの!今日は日が落ち始めてるから仕方なく泊まるけど、本当はもっと進んでおきたいのよ!」
しっかりと論破されたがために、喉から言葉が出てこない。
どうやら甘んじて受け入れるしかないらしい。
思わず溜め息をつくと、ネロにギロッと睨まれた。
「す、すみません…。」
ネロの顔は笑顔に戻り、よろしいと言ってギルドへ向かった。
並んで歩いていく姿は、まるでカルガモの親子の様であった。
「おい!この顔に見覚えはないか!」
王都では赤い髪の青年が人探しに精を出していた。
その顔には焦りの色が伺える。額に滲む汗が、それをより一層強めていた。
尋ねられた見張り役は、青年の手に握られた似顔絵を凝視して眉をひそめている。
少しして言葉が返ってきた。
「ま、間違いねぇ。俺が昨日ここから出した女だ。」
その言葉を聞くと、青年の額には血管が浮き出てきた。
歯を食い縛り、似顔絵の端にシワが寄る。
「何をしている!コイツは黒属性魔法を使用した魔女だぞ!どこへ向かった!?覚えていることを全て話せ!」
見張り役へ一歩寄ったため、青年の唾が正面にある顔に数滴飛んだが、それを気にすることができないほどの緊張感が、二人の間に流れていた。
見張り役は昨日の多くはない出来事を、震えながら詳細に青年に伝えた。
「結局収穫は無しか!」
酒場のカウンター席で、一人の青年が机を叩いた。机にあった皿やジョッキが音を立てて震える。
「落ち着け、グレン。奴らが王都に来ていたことは分かった。恐らく冒険者登録でもしたんだよ。それに、向かった方角も大方分かったんだ。それだけでも収穫は十分だろ?」
隣に座っているのは彼の同僚だ。諭そうと努めているが、それはグレンには届かない。
「早く、一刻も早く捕まえないといけないんだ!こんな所に留まっている時間が勿体ない!これでは、リーナが……。」
溜め息を漏らすしかない同僚の気持ちは、俯くグレンには理解できないだろう。
同僚はグレンの肩を擦って、空豆を1つ口へ放った。
「…リーナのことは俺も残念に思うが、そろそろ前に進めよ。もう戻って来ないんだ。忘れるのがいちばんいい。」
ガタッ
大きな音を立てて椅子が倒れた。
同僚よりも目線が高くなったグレンは、彼の襟を両手で掴んで持ち上げる。
「俺に向かってよくそんな事が言えるな!リーナは!リーナは……」
グレンは周りの客からの視線に漸く気付いたのか、口を閉じた。
数秒周りを見た後、静かに椅子を立て直し、顔を伏せて腰を下ろした。
「今日はもう休もう。また明日からだ。」
伏せて見えなくなったグレンの顔に光るものが現れたのを、同僚の目はハッキリと捕らえていた。
二人の男は酒場を出ると、暗くならない王都の夜に姿を消していった。
先を歩いていたネロが振り向いてそう言った。
彼女の後ろにはゲートがあり、そこには『ようこそペリギアへ』と日本語で書いてある。
ペリギアという街のようだ。
そういえば、この世界に来てから日本語しか見ていない。共通言語なのだろう。
「エナスもいい?結局あなた、ずっと着いてきたけど。」
森を抜けてもなお共に行動していたエナスはまだネロを警戒しており、ぷいとそっぽ向く。
それを見て溜め息と共に肩を落とすネロの顔は、苛立ちを通り越して呆れていた。
「…それ何度目よ。どーせサラが聞けば頷くんでしょ?」
エナスは森を抜ける途中や抜けたあとも、このような態度をネロに向けていたのだ。
最低限の問いにすら答えず、ネロは少々苛立っていたが、なんとかウィルが抑えていたという感じだ。
そしてその後、サラが同じ問いをすると、満面の笑みで頷くのだ。
何故ネロにだけなつかないのか、一度聞いてみたがハッキリとした答えは返ってこなかった。
サラが聞くと、今回も例によって頷いた。
「じゃあ、決まりね。とりあえず一泊かしら。」
それを聞いて、ウィルと同時に口が開いた。
「「一泊!?」」
顔をくしゃくしゃにしてネロは肩をビクつかせた。
「当たり前でしょ!軍も動いてるに決まってるし、ここに来られるのも時間の問題なの!今日は日が落ち始めてるから仕方なく泊まるけど、本当はもっと進んでおきたいのよ!」
しっかりと論破されたがために、喉から言葉が出てこない。
どうやら甘んじて受け入れるしかないらしい。
思わず溜め息をつくと、ネロにギロッと睨まれた。
「す、すみません…。」
ネロの顔は笑顔に戻り、よろしいと言ってギルドへ向かった。
並んで歩いていく姿は、まるでカルガモの親子の様であった。
「おい!この顔に見覚えはないか!」
王都では赤い髪の青年が人探しに精を出していた。
その顔には焦りの色が伺える。額に滲む汗が、それをより一層強めていた。
尋ねられた見張り役は、青年の手に握られた似顔絵を凝視して眉をひそめている。
少しして言葉が返ってきた。
「ま、間違いねぇ。俺が昨日ここから出した女だ。」
その言葉を聞くと、青年の額には血管が浮き出てきた。
歯を食い縛り、似顔絵の端にシワが寄る。
「何をしている!コイツは黒属性魔法を使用した魔女だぞ!どこへ向かった!?覚えていることを全て話せ!」
見張り役へ一歩寄ったため、青年の唾が正面にある顔に数滴飛んだが、それを気にすることができないほどの緊張感が、二人の間に流れていた。
見張り役は昨日の多くはない出来事を、震えながら詳細に青年に伝えた。
「結局収穫は無しか!」
酒場のカウンター席で、一人の青年が机を叩いた。机にあった皿やジョッキが音を立てて震える。
「落ち着け、グレン。奴らが王都に来ていたことは分かった。恐らく冒険者登録でもしたんだよ。それに、向かった方角も大方分かったんだ。それだけでも収穫は十分だろ?」
隣に座っているのは彼の同僚だ。諭そうと努めているが、それはグレンには届かない。
「早く、一刻も早く捕まえないといけないんだ!こんな所に留まっている時間が勿体ない!これでは、リーナが……。」
溜め息を漏らすしかない同僚の気持ちは、俯くグレンには理解できないだろう。
同僚はグレンの肩を擦って、空豆を1つ口へ放った。
「…リーナのことは俺も残念に思うが、そろそろ前に進めよ。もう戻って来ないんだ。忘れるのがいちばんいい。」
ガタッ
大きな音を立てて椅子が倒れた。
同僚よりも目線が高くなったグレンは、彼の襟を両手で掴んで持ち上げる。
「俺に向かってよくそんな事が言えるな!リーナは!リーナは……」
グレンは周りの客からの視線に漸く気付いたのか、口を閉じた。
数秒周りを見た後、静かに椅子を立て直し、顔を伏せて腰を下ろした。
「今日はもう休もう。また明日からだ。」
伏せて見えなくなったグレンの顔に光るものが現れたのを、同僚の目はハッキリと捕らえていた。
二人の男は酒場を出ると、暗くならない王都の夜に姿を消していった。
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