ストラーンヌィ

ノベルバユーザー162581

一章 久三郎誕生


 波荒れる島…ウミガメが産卵を終え、蒸し暑い日々が続く屋久島。そんな七月の中頃、ある赤子がこの地に生を落とした。彼の名は久三郎。屋久島の地侍、日高義時の三男として生まれた。義時は地侍ながら屋久島で農業をしている。ここ屋久島では地侍は少なく農民や漁師ばかり。特に身分はあれどその壁は薄く地元住民みな穏やかで和気藹々としている。久三郎もそんな地で伸び伸びと過ごしていた。そんな平和な屋久島だが人々が入ることを禁止している場所がある。その地には神ではなく妖が住み着いていると言われている。屋久島の西南に位置する大川の滝…。大川の滝は実は滝の奥に洞穴があり、その先に妖がいると昔から言い伝えられている。久三郎はその洞穴の存在を知っていた。父義時からもきつく言われていたが久三郎が十五の時、好奇心に我慢できず大川の滝に行ったのであった。


久三郎「ここが大川の滝か…目の前まで来たのは初めてだな。この滝の奥に妖が住んどるんだな」

菅四郎「なぁ兄者。こっから先は本当にやばいって。引き返そうぜ」


2つ下の菅四郎は久三郎を止めようとするがその声が聞こえなかったかのように久三郎は洞穴の中に入って行った。菅四郎は追うことができずただただ久三郎が洞穴から出て来るのを祈って待つしかなかった。
ポチャン…ポチャン…(水が滴る音)


久三郎「ったく奥まで着いちゃったよ。妖なんかどこにもおらんやないか。所詮はおとぎ話か…」
(???「誰がおとぎ話だって」)
久三郎「!?。誰だ!?」

妖「誰とは無粋な。主はここが誰の住処だと思って足を踏み入れたんじゃ?このままいきて帰れると思うなよ。まずはお前を殺し、今日の飯の足しにするぞ。」

久三郎「待て!お前が妖だな。少し話がしたい。」

妖「ほう…わしのこの姿を見て話がしたいとな?面白いガキじゃ。なんじゃ言うてみよ。」

久三郎「実はわしには夢がある。この日ノ本の国を統べたい。そしていずれは日ノ本を出て海外の国に行ってみたいだ!しかしわしは三男…家を継げるわけでもなく、そしてこんな島に住んでたじゃ出世することもできん。ならば軍功を上げるしかない!だが島津家に出向いたところで世は秀吉の世…戦もあるかわからない。だから妖!お前の力を貰い受けたい!わしが戦の対象になり、わしの力で島津!豊臣を滅ぼし、新たな日ノ本をつくりたあげたいのじゃ!」

妖「ほう…なかなか気の狂ったガキじゃな。よかろう。わしの力をお前に授けよう。ただし条件がある。わしの身体をお前に授けるがわしの身体は人を喰らわないと朽ちてしまう。つまりお前は今日から化け物となり人を喰っていかないとならない。その覚悟はあるか?」

久三郎「わしが天下を統べるためじゃ!受け入れよう」


…ニヤとした妖はそのまま久三郎の口から体内へと進入していった。身体はバキバキと変わってゆきあまりの体の熱さに意識がもうろうとし、そのまま洞穴を出ていった。意識が戻り気が付いた時には大川の滝の前で寝ていた。周りには人の気配はなく、菅四郎の姿もなかった。あるのは誰のかわからない人間の片腕だけがそこに落ちていた。


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