異世界でデスゲーム~この世界で神になる~

流転

目覚め

 暗い、冷たい……。
 ああ、そうか。混濁した世界ってこの事を言うのか。
 何も無い世界。何も見えない世界。何も知らない世界。それでいて、何かを欲して、何かを掴みとりたいと思った世界。
 ここが俺の終着地点なのだろうか。
 結局、俺は前居た世界と何も変わっちゃいない。琉璃が、どんな気持ちで踏みとどまっていたのか、ララエルがどんな気持ちで慕っていたのか。何一つ考えずに、正義である事に憧れ、救った時の賞賛に惹かれ……。そう、結局は下心だったんだと思う。

 しかし、なんだろう。この懐かしい暖かさは。忘れちゃいけない、優しい声は……。

「はぁ、はあ、ララ……エルか?」

 霞む視界に写るのは間違いなく彼女だった。本当に良かった、と、思える。心残りだった事が解消され、自然と頬が緩む。

「な、なんだ貴様! 気安く私の名を」

「良かった、無事で……。ごめんな……俺、もっと強くなるか……」

 そうだ。俺は強くならなきゃならない。別に主人公にならなくたっていいんだ。目の前にある大切なものを守れる強さを目指そう。
 変な正義を騙るのは弱者のする事なんだ。だから、俺は──。

 ****

「痛ッ……」

「ふむ、どうやら目が覚めたようじゃな」

 この、幼くも凛とした声は琉璃か。だが、姫ともなれば気品があるのも当たり前か。

 まだ、体は痛むがそれでも当初に比べたら比較的楽ではある。何せ、全身を駆け回る痺れと吐き気が今は収まっているのだ幾分か気持ちにゆとりは出来た。

 しかし、ここまで状態が良くなるって事はどれだけ寝てたんだろうか。と、重たい瞼を持ち上げた。

 広がる黄昏に、自分が仰向けになっている事を把握しつつ目だけを左右に動かす。

「そうか、琉璃も……無事だったんだな」

 正座をしてる琉璃は、獣人化はしているものの見る限り外傷は無い。

 ほっと、短い息を吐き出し心中を吐露した。

「俺は、酷い事を……取り返しのつかない事を」

 自分を咎める事でしか、会話が出来そうにない。
 責められて当然であり、故に責めて欲しかった。しかし、琉璃は責めるどころか俺の額に指を添えて落ち着いた様子で口を開く。

「今は、そんな事どうでも良い。それよりも、じゃ……。お主、ララをどうするつもりじゃ?」

 そうだ、ララエル──あいつは今何をしているんだ。
 咄嗟に起き上がり、俺は絶句を余儀なくされた。
 目の前に居るララエルは、姿を変え、苦しみの余り悶えていた。
 こんな時、なんて声をかけるべきなのか。寧ろかける事がそんなに大事なのか。頭で考えるより、体は素直に行動していた。

「なんで……こんな……」

 力が入っていない為にズッシリとした重さは以前背負った時の倍はある。

 あの時、疲れていながらも体重をかけまいと気を使っていたのかよ、馬鹿野郎……。

 だらける頭を腕で固定し、冷たく、力がない手を握り話をかけるので精一杯だった。

「ララエル、ごめんな……本当に……」

 体は熱く火照り、吐息は荒い。髪の毛は綺麗な桜色をしていた筈が半分から上は銀髪となりツートンカラーとなっていた。加えて、翼も片翼が消え去っている。

 気を失っていた自分が憎い。彼女の経緯を何も知らない自分が憎い。

「クソッ……クソッ……」

「自分を咎めるのは勝手じゃが、今は先に何を優先すべきか考えるんじゃ、ぬしよ」

「そんな事言われたッ──!! いや、何でもない。琉璃の言う通りだ」

 感情的になっては、駄目だ。今は、冷静に何をどうすべきか考えなければ、

「救いたい……ララエルを救いたい」

「ふむ。ならば、どうすべきか決めるんじゃ。先に進むか、戻るか、ここで様子を見るか。消去法で考えて出た答えこそ」

「そう、だよな」

 落ち着いた様子で俺達を憂いてくれている。けれど、琉璃だって悔しくて悲しくて泣きたいはずだ。だからこそ、膝上で握った拳は小刻みに震えてる。
 俺なんかより、よっぽど辛いはずなのに。

「琉璃、強く有ろうとするなよ」

「ういは、強く有らねばならぬのじゃ」

「それは、苦しいな……」

「だとしても、それが姫足る尊厳じゃろ」

 淡々と答える中に、しっかりと琉璃の気持ちが伝わってくる。感情的になって、見えていなかった事が今なら分かる、気がしたんだ。
 だから、

「琉璃の、背負っているモノを少しでも俺は預かりたい」

「あほう」

「アホでもいい。それでも、俺達は仲間なんだ。仲間を考えない事なんか、あってはならない。だから」

 こんな目にあった元凶。全ては、俺が招いてしまった事態。

「償いたいんだ……」

「ぬしは、変わっておるな? まだ、知り合って数時間しか経っておらぬというのに」

「違う、信頼に時間なんか関係ないんだ」

 俺は嘗て、友と呼べる、呼ぶに値すると思っていた男子が居た。いつも、一緒に行動し、笑い、怒り、感情をぶつけ合う毎日。
 ああ、これが心友なんだとその時は思っていた。だが、あいつは俺を裏切った。縁が切れた時、あいつは笑ってたんだ。見下し、貶し、蔑み、地元の先輩と一緒になって俺を……。

「人間なんか、力ある者に従い寄って集って弱気者を弄ぶ生き物なんだ。心を開くだけ無駄。けれど、ララエルや琉璃は違う。助けてくれた、それだけで俺は二人を信じる事が出来た」

 きっと、俺が街を救ったのもアイツになりたくはないと言う一心もこもっていたのだろう。

「ういは、裏切るかもしれぬぞ」

「そん時はそん時だ。琉璃の提示する等価に俺がなれなかっただけの話さ」

「だから、先へ進もう。後戻りは、今までの行為を無駄にしかしない」

 俺はもう、後戻りは出来ない。先に、ひたすら先に進むんだ。
 この、焼け焦げたアーテルからリーフへと。

「そうじゃな。まずは、そこから話を進めるとするかの。なら、その先を真っ直ぐ歩いておれ。ういも、スグに追いつくでの」

 琉璃が既に俺ではなく違う場所を見ている事は、感じなくなった視線から分かる。
 だが、理由を尋ねるのも野暮だろ。俺は鈍感にはなりたくはない。

「うん。分かった。ゆっくりで、いい、からな?」

「うぬ。すまぬな」

 この時だけは、過ぎ去る風が優しいと感じた。
 さっきまでの、湿っぽく生温い風ではなく、悲しみを包むような静かで強かな風。

 木々も、ゆっくり、ゆっくりと揺れて惨憺たる出来事を憂いて歌う。

「じゃ、俺は行くぞッ?」

「うぬ」

 ララエルを背負って一歩を踏み出す。もう、こんな思いをしないと胸に秘めつつ。

「父上。ういは、生きていて良いのじゃろうか……。いんや、言うまでもないの。
 星となり、ういを見守っておってくれ。大好きな……大好きな……」

 琉璃は、顔を仰ぎ、黄昏に微かにひかる星を、みつめながら小さく口にした。
 誰も見る事の無い表情は、いつもの凛々しさは無く、目は波紋を描き口元は歪む。

 蹲り震え、鼻を啜る。

「父上……。父……上……」

 姫の立場と子の立場。
 狭間で苦しむ琉璃は、ただ泣いた。星にも負けない宝石を一杯に頬から伝わせながら。


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