異世界でデスゲーム~この世界で神になる~

流転

報酬・旅立ち

「いやはや、最近の若い女子おなごは刺激が強いのう」

 いや、えと、感心してるんだが何だか知りませんが顎鬚を撫で付ける前に額から流れる血をですね。

「ははは。相変わらず、女には目がねぇんですな? それに、隠形おんぎょうの才も衰えを知らないと来たものだ。
 一杯食わされましたよ、まったく」

 カリュハさんは、ご老人に対しても気さくに振る舞うが……『隠形』。

「確か、それは自分の身を隠す呪術だったような……」

 このご老人は一体何者なんだ。見た目は、長く伸びた白髪を後ろで結き。
 白く太い眉。垂れた瞼で目は狭まり、チラリと覗く黒い瞳は何も感じない。それこそ、力強さとか弱さとか、正に虚無。
 プロは目を見て思考を読み取るとも言うが、ご老人に対しては意味を成さないだろう。そんな気すらしてならない。

 手を携える顎鬚は程よく伸びていた。
 顔だけで考えるとタダの老人。

 それに、灰色の着物から見える四肢も痩せこけて今にも折れそうだ。
 転んだりしたのなら、間違いなくポッキリといくだろう。

 いや、待てよ……。

 なら、何でララエルに蹴られて尚も平然としていられる。

「神楽さんは嘗て、黒翼の覇者王と対等にやり合った実力の持ち主なんだぜ」

「覇者王??」

「もう、かなり前の話よ。孝介だったか? そー人を見た目で判断するでないぞ? 自分が見たモノが真実かそうでないか……それこそは他人しか知らぬものぞな。ッて、そんな事はどうでも良いか」

 指を鳴らすと蝋燭に火が灯り、部屋はオレンジ色に染まる。

「これを主等に渡そうと思っての? 代々伝わる家宝・明星ノ一雫みょうじょうのひとしずく、と言うやつじゃ」

 袖に手を入れて取り出したモノは漆塗りが施された小さい箱だった。

 手のひらに収まる程度の箱は丁寧に紐で結いてあり、大事にされていたことが良くわかる。
 きっと神楽さんにとって、これは大切な物に違いない。

 そんな大層なモノを貰える事をした覚えもないし。

「そんな、頂けませんよ」

「なあに、ワシ等に代わりアルディアを護ってくれたではないか」

「いや、でも」

 別に報酬目的でやった訳でもないのに、家宝を貰うだなんて出来るわけがない。

 躊躇っていると、カリュハさんは俺の肩を叩いて言う。

「貰ってやってくんな。これも立場ってやつなんだろーよ。この街にとって、コウスケは御客人みたいなものだ。
 その、御客人に街を救われた。アルディアの長にとっては感謝を示さなきゃイケナイ場なんだ」

 本当にいいのだろうか。
 手を伸ばす神楽さんも、嫌な顔一切見せずに笑顔を保っているし、後ろにいるララエルも賛同する様に頷いている。

「えっと、なら有難く頂きます。ありがとうございます本当に」

 受け取り感じるのは微かな重みと暖かさ。
 何がこの中に入っているのだろうか。中身を見たいが、今見るのは流石に無礼だろ。

「ララエル。ちょっと、持っててくれ」

「あ、はい! 分かりました。マスター」

 頼まれたのがそんなに嬉しいのか、ララエルはとても明るい笑顔で応えてくれた。

 神楽さんは、袖の中に腕を入れながら優しく呟く。

「ふむ。良い良い。それで、汝等はこれからどうする気じゃ? なんなら、この街に──」

「あ、いえ。お気持ちは有難いのですが。リーフを目指そうかと……」

 そう、俺達はルフに会うべく旅に出なくてはならない。名残惜しいと言えば名残惜しい。
 それに、あの時感じた何かの気持ち。引っかかる何か……。気になる事は気になるがしかし、決めた事を一転二転させてるようじゃ前と変わらない。

「なるほど、の。リーフに」

「つー事はお前は」

「はい。塔を目指します」

 ****

「なあ、一ついいか?」

「何ですか? マスター」

「ん? なんじゃ??」

 神楽さんと、カリュハさんと別れて俺達はキアラ街道に居る。朝の不穏な香りが嘘のように清々しい。
 降り注ぐ日差しは心地よく、鳥や虫は喜びを歌にして表現していた。

 門兵に話を聞くと、ドミヌス・ボアは手傷を負いつつも逃走。結局、倒せず終いだったらしい。
 多分、アイツは討伐対象では無かったのだろう。
 良くゲームである、一定のダメージを与えると逃走や、助けが来るイベントの一つ。
 でなければ、あれだけの人数でリンチをしたのだ、逃げれるはずもない。

 悔しさを顔に出す異世界転移者とすれ違うなかで平野に伸びる一直線の影は三つ。



「いやな? 何故に獣耳幼女が付いてきてるんだ?」


 フードを脱ぎ、耳を可愛くもピンと立てながら獣耳は得意げな表情で言う。

「ふむ。感謝するがよいぞ? ういが力になると言っておるのじゃ。うい達は恩を作りはしない。が、作ってしまえば忘れぬ。
 故に、ういは主等について行くと決めたのじゃ!! ふふふん」

 その自信は一体何処から来るというのだ。
 モンスターだって、これから大量に出くわすと言うのに。
 正直、守り切れる自信は無い、故にアルディアに置いていきたかったし神楽さんや、カリュハさんも承諾してくれた。
 にも関わらず、この子はそばを離れようとはしなかったのだ。

「あと、ういは白狐びゃっこ一族の琉璃るりと言うでな!よろしく頼むぞいッ」

「いや、だから──」

「うあわ!! るりちゃんですね? 宜しくお願いしますッ。とっても、毛並みが柔らかいのですね! ふにゃあ、ずっと触っていたいですぅ」


 あめーりかん!!

 尻尾に抱きつく天使、いや駄天使!
 お前、本当緊張感の欠けらも無いのな!!

 だが、まあ、こうなってしまっては仕方が無い。取り敢えず、検問へと向かうとするか……。

「二人共、そろそろ行くぞ」

「あの……。マスター、それが……です、ね」

 鼻白むララエルの表情は血色が悪い。
 すげぇ不安になる仕草に、恐る恐る訪ねた。

「ど、どうした……んだ?」

 体調を崩したのか。
 確かに、あの連戦は大変ではあった。

「忘れました……」

「ん? 忘れた?」

「はい……」

「え、何を?」

「神楽さんから頂い」

「──ッ!? ちょ! おまっ! ふざくんな!! クソッたれ!」

 走った。ひたすらに走った。

 旅立ちした筈の俺はカッコ悪くもリーフに背を向けアルディアに向かって全力疾走で。

「もう、勘弁してくれぇ!!」

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