異世界でデスゲーム~この世界で神になる~

流転

流れた月日

 創造主・ルフの発言により開幕したデスゲーム。
 初めは困惑をしつつも四ヶ月も過ぎれば何かと慣れて来る。
 この世界……ヘルプによればアザルカンドだったか。
 なんだよ、この神話にとって付けたような名前。絶対、ノリで付けたろ。

 アザルカンドには、月日と言った概念が無いのか四季に一定の法則が無い。
 それこそ、急変する事は無いが変化は激しい。

 なんて事を、思い返しながら長い月日借りている宿の柱に印をまた一つ付けた。

「あのッ、マスター。前から思って居たのですが、コレは何をなさっているのですか??」

 すぐ隣から、今となっては聞き慣れた微風の如く自然で優しく甘い声が聞こえた。
 まあ、説明しても分からないとは思うが、言わないと言わないで面倒臭い。
 コイツは……天使・ララエルはそう言った奴だ。
 故に、面倒と全面的に出しながら言う。

「ああ。コレはな、日付けを付けているんだ。見る限り、この世界には暦が存在しない。だから、来た当初から毎日毎日俺は『正』と言う文字の線を1本つつ付け足し書いているんだよ」

 我ながら、なんてお人好しなんだ。人と接しなさ過ぎて気が付かなかったが、俺結構モテるフラグあんじゃね。
 なんて事は無い。優しさだけで人は好きになったりしない。俺みたいな、筋力パラメータも平均・身長も平均。細長い目がコンプレックス故に目が隠れる程、伸びたくせっ毛。こんな男を誰が好きになると言うのだろうか……。
 あれ、何だろ……。目尻から冷たい雫が……。

「ああ! なるほどですよ! マスター」

 俺の悲観に満ちた人生なんか知らずに、隣りのダメ天使、略し駄天使は手をポンと叩き明るい声で言った。

 やれやれと胸元程度の身長しかないララエルを見やる。すると腰程に伸びた長くピンク色をした髪の頭部に生えたアホ毛をピコンピコン揺らしながら俺を見ていた。
 当然、目が合って堪らず視線を伏せる。

 べ、別に女性と目を合わせるのが慣れてないとか恥ずかしいとかじゃないんだから!!
 ただ、そう、これは……。

「純粋な迄の眼差しに、黒く染まった俺には眩し過ぎたんだ」

「へ? 何を言っているのですか? マスター。それは流石に意味が……」

 チラリと見ると、桜色の瞳をしたララエルは顔を引き攣らせて視線を落とした。
 何ですか、その理解出来ない私が悪いんですみたいなオーラ。辞めてもらえますか。
 故に言った。感情をさらけ出し、本音を。

「だぁぁ!! 分かってるよ! 意味なんかねぇんだよ!! そもそもな!? お前の、その服装が」

「んあ? 服装??」

 言い過ぎた。つか、口を滑らせてしまった。
 そう、全ては駄天使であるララエルの服装自体が視線を狂わせる。
 美しさが罪ならば、艷麗えんれい足る容姿と言うのは大罪なのではないだろうか。

 自前の羽か知らんが、真っ白い羽で出来たタイトなドレスに身を包み、膝上程のフリルがついたレースのスカートから覗かす白く綺麗な足は細い。
 胸元は、恥じらいもなく開いており多少なりある胸からは女の魅力を醸し出す。醸し出しすぎている。
 正直、控えめに言って突っつきたい。

 ──くそ! 静まれ、我が煩悩。

 それに、美しいまでの鎖骨。コイツが日本に居たのならモテない訳が無い。
 そう、絶世の美女に該当する。

 つまり、性格より、今のご時世は外見から入るという事。故に、優しさだけじゃ何も生みません。育みません。

 くたばれ! クソッタレ!!

「いや、それよりも本当に分かったのか??」

「えっと……? 分かったとは……何が、です?」

 逃げる様に言うと、顎に指を付いて首を傾げる。

 コイツは、物事を整理し思考が追いつくまで時間が掛かる。

 流石、レア度がHRの存在。カードゲームで言うと単なる『ハイレア』。

 この世界は、レアリティと言った概念に縛られている。それも全てゲネシスで見る事が可能であり、ルフによって舞い降りた天使のレアリティも全てランダム。

 レアリティは全部で七種類あるらしい。

 ・N『ノーマル』

 ・NR『ノーマルレア』

 ・HR『ハイレア』

 ・SR『スーパーレア』

 ・UR『ウルトラレア』

 ・LR『レジェンドレア』

 ・??『伏せられている為わならない』

 だが、前者二つは主に食材などのレアリティ。
 つまり、皆が血眼になって欲している武器としての類でララエルはハズレキャラに該当してしまう事になる。要するに、初期段階で強い天使を手に入れたやつは正に『俺TUEEEE』『俺氏無双』になる訳だ。
 実によく出来ている。ルフが何に影響されたんだが知らんが、マジでソシャゲに偏り過ぎだろ……。


 まあ、俺には関係が無い事だけどな。

「だから、な? この柱に書いている文字の意味だよ」

 指を指しわかり易く言うと、ララエルは思い出したのか小さい顔でより目立つ、大きい目を見開き艶やかな唇を動かした。

「あ!! そーです、そーです!! 要するコヨミなんですよね!!」

「だから、暦の意味をだな……」

「ふへ??」

 駄目だコイツは……。脳内がバグを起こしてんじゃねぇのか。起こしすぎて逆にチートなんじゃねぇーの。ウイルス的な何かで。

「だからな? あのな?? 簡単に言えば、そうさなあ……」

 何故、俺がここまで悩まねばならぬ……。

「日記みたいなものだな」

 あってるか知らんが、ま、いいしょ。

 再び、静かな六畳一間の古臭い木造の部屋に手のひらを叩く音が響いた。と、同時にアホ毛が動く。

「おお!! なるほどです!! 流石、マスターは優しいです! 私、嬉しさの余り涙が……オロオロ」

「ちょ!! 涙を声で表すな! つか、本当に泣いてんじゃねぇよ!」

 小さい机の上に遠慮気味に飾ってある観葉植物の脇にあるテッシュを素早く手渡す。
 もう、コイツが泣くと本当にテッシュがすぐ無くなる。
 まあ、俺もテッシュはご愛用だけれど……。

 ララエルは、鼻頭を真っ赤に染めて鼻を啜りながらソファーに腰掛けて見つめる。

 いや、だから潤んだ瞳で見つめないでよ。

「それはそれとして、早く私を武器に変化させてくださいよ。マスター」

「は? 何で??」

「いや、何でって……。皆様は、私達をそう使って居られるじゃないですか……。そして、バベルの塔の天辺を目指しているのですよね??」

 そう、ララエルが言う事は表面的観念から見れば間違いでは無い。

 ルフが姿を消し、野放しにされた飼い犬の如く困惑する中で皆が行った行動。
 本能的と言っても過言では無い行動。
 それは、天使に手を翳し強く念じて武器を顕現けんげんする事だった。

 所詮、人間は定められた秩序の中でしか生きられない弱い生き物。
 俺自身はそれを思い知らされた瞬間でもあった訳だが。

「そもそも、俺はそれ自体が間違いだと仮定している」

「へ??」

「いや、お前……バカだとし」

「バカとかひどいです!! マスター!」

 はい、スルー。

「ても、一応はルフの使いっ走りなんだろ……。何で、何も知らねぇんだよ」

「使いっ走り?」

「ああ。だって、天使だろ?」

 まだ、察してないのかスカートをキュッと掴み、眉頭を顰め思い悩む様子を見せる。

「はい、そうですけど……」

「天使ってよ? 天に使えるって書いて天使なんだよね。漢字だとさ?だからな? 要するにパシリ」

 ララエルは口を尖らせ、不服の意を申し立てる。
 さながらリスに見える姿に覇気はなく、代わりに愛らしさすら感じかねない。

「パシリとか、意味は分からないですが! なんか嫌な感じです!! マスター!!」

「ま、分からんでも良い。それと、いい加減マスターと言うのはやめろよ……。毎回言っているが、俺には相葉孝介あいばこうすけと言う名前がだね……」

 プイッと、感情に物言わせるララエルは顔を背ける。え、なに、その胸……じゃなくて、頬突っつきたい。

「ダメです!! マスターは、マスターなのです!!」

「あー分かった分かった。まあ、聞けよララエル。俺が俺なりに解釈した、この世界の有り様を」

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