ナイモノネダリ

茶々抹子





騒ぎだす生徒、単語帳を繰り返す生徒、
スマホから目を離さない生徒、

高校の入学式から10日たった今日も、私は教室の端の席で孤立している。
勘違いしないで欲しい、好きで孤立しているのだから。

「渡辺 玲」という名前では、どこのクラスになっても、1番後ろの目立たない席なので、友達作りも曖昧で、私はどこのグループにも属せない人間となってしまった。
同じような人間で集る気もさらさら無いのだけれど。






もうすぐ5月に入ろうとしていた時期で、桜が散って緑の葉が少しずつ見えてきていた。


クラスメイトに、いきなり声をかけられた。

「ねぇ!渡辺さんって、芸能活動してるの!?」

短いスカートを履いた、いかにもJK感を醸し出す女の子だ。

仮に彼女をクラスメイト、A子としよう。

A子がそう言った瞬間、全員が私という存在を見た。
あんな人このクラスにいたんだって声も聞こえた。

「あっ、内緒だったならごめんね?」

空気の読めない子だなぁ。

私は精一杯の息を吐いて言った。

「げ、芸能活動って、い、いえるものでも無い…。」

「えっ、聞こえないんだけど…
    渡辺さんって話し方、なんか変じゃない?」

だから声が大きいんだって…。

私の触れて欲しくないところを突いてくるA子。






あれは、小学3年生の2月の頃で、家が近所の同い年、美鈴とすごく仲が良かった。


ーあの事件が起こるまでは。ー


「あんたがB君に好きって言ったんでしょ!!」


小学生に良くありがちな、好きな人を取られたと勘違いされた些細な喧嘩なはずだった。


「玲は何もしてないよ!」

本当だった。
B君に告白されたのだけど、美鈴を思って断った。

「嘘つかないでよ!B君が玲に告白されたって言ってたんだよ!!」

そう美鈴に言われた瞬間、誰かが私を突き飛ばした。

世界がスローモーションに見えた。




『あぁ、嘘だらけの世界に殺される。』



教室には椿の花が綺麗に飾られている。
椿の花の花瓶が乗っている棚に、不快な音を立てて私は、ぶつかった。椿はひらひらと散り、花瓶は見事に私の頭の上に落ちてきた。

まるで絵に描いたような綺麗な花だった。


頭をバットで打たれたような衝撃が走った。

その後の記憶は無く、目を覚ますと小学校からすぐ近くにある病院のベッドに寝ていたー。

頭に花瓶が突き刺さり、血だらけだったそうだ。
医者によると、生きていたのは、奇跡だと言うことだった。


あれは、人殺し。



誰が何のために、私を殺そうとしたのか。
美鈴と私の間に永遠に戻ることのできない傷が出来た。


美鈴は責任を感じ、精神的な病気になってしまったそうだ。

私はあの事件で、声を失ったのだ。

顔の傷は中学生の頃に完治した。
二度と戻ることの無い私の声、いくら願ってみても
微かな息音がするだけ。



私の声を奪ったのは、
美鈴に嘘をついたのは、



誰だ?










「渡辺さん、ちゃんと喋ってよ!
   ねぇ、からかってんの?」

「は…?」

伝わらない言葉をはく。


「言いたい事があるなら、言葉にしなきゃ分からないじゃん!!」



私はA子に絶望した。


なぜなら彼女は小学3年生の頃、私と同じクラスメイトで、高校で唯一、同じ小学校に通っていた人間だった。



A子は私が声を失ったことも知っている。

私が喋れない事を利用して、嫌がらせでもしようとしているのか。

それとも、何か企んでいるのか…。









私は寝る前にこうやって、今日あった出来事を自分の中で振り返って、少なからず日記を書いている。






ー4月25日ー


今日はA子に話しかけられた。
高校に入ってからはA子が初めて私に話しかけた。

A子は私に突然、芸能活動をしているのかと聞いてきた。
どうして、そんな事を聞いてきたのかは分からなかった。

私は芸能活動をしているのでは無い。
声が出ないから。SNSを利用して、私の事を文字にして色んな人に発信しているだけ。
私と同じような人の希望になりたい。

小学3年の頃の事件の犯人はA子では無いかと、
私は密かに思っている。

なぜなら、あの当時A子に、私と美鈴が仲良くしているのを気にくわなさそうに見られていたのを覚えている。

元々、美鈴と仲が良かったA子は、私に美鈴を取られたと思ったのではないだろうか。


今日はなんとか過ごしたが、
明日、学校に行くのが
なんとなく、憂鬱な気分だ。





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