異世界破壊のファートゥム

蒼葉 悠人

55話 3章マリドス編 新たな目標

あれから何日が経ったのだろうか。
2日?
5日?
10日?
もしかしたら1ヶ月が経っているかも知れない。
数えることすらしていない。
あれがいつの出来事だったのかも記憶にない。

フードの男との一戦以降、穏やかで平和な日常生活が続いている。
なにもなく、虚しく、やる気の無い。静かで、止まっていている生活。

 「俊哉さん、そろそろ。」

 「あぁ、そろそろ行くよ。
いつまでも現実世界にいてもやること無いしね。」

 「だめだよー、ダスピクエット。
俊哉くん大好きだった子に忘れられてショック受けてるんだから。今は気分がなおるまで放置だよ。」

 「うるさいぞ!キテラ」

そんな話をしていると、突然先生に当てられる。

 「俊哉、この問題わかるか?」

 「すいません。ポケーとしてて聞いてませんでした。」

教室の皆の笑い声。
後ろの席の啓吾からのいじり。
先生からの注意で教室がざわついた。

 「キテラ、お前が変なこと言うから。」

フードの男との戦いから変わったことと言えば今の状況だ。
キテラが言うには、そもそも契約者とパートナーはいつでも話せるように意識さえすれば現実世界でも話せるようになっているらしい。
矢澤がいた事で俊哉という意識とのリンクが曖昧になっていて、鴻上に話そうとしても矢澤とリンクしてしまう。などの障害が合って話せなかったらしいのだが、矢澤が消えたことにより俊哉という意識が一つだけになり話すことが出来るようになったらしい。
リンクが完璧になったとか。正直よくわかってない。
今では、キテラがよく授業中に話してくるようになり若干鬱陶しいとも思っている。

 「俊哉さん、異世界の事もそうですが、優花さんの事はどうするのですか?」


時はいくらか前に遡る。
フードの男との戦いを終え俊哉と優花が意識を取り戻したあと、皆でバグローズに戻る事になった。

 「どういう事だよ!
何で優花の記憶から俺の事が消えている。」

やっと果たせると思っていた約束がまた果たせなかったと、ピリピリしている俊哉に鈴華が状況を説明する。

 「リッカが言うには脳にショックがいくほどの怪我はしてないと言っていた。だから、怪我ではないと思う。」

俊哉が、鈴華に何を言いたいのかを聞こうとしたその時颯真が話を始めた。

 「優花が倒れている側で運命のアルカナが落ちていたが何かわからないか?」

鈴華が真剣な顔で何かを考え始める。

 「颯真、そのアルカナは優花さんから見て正位置だった?それとも逆位置だった?」

颯真が必死になりその時の事を思い出す。
そして逆位置だった事を伝えた。

 「やっぱり。
アルカナには、正位置と逆位置で効果が違うのよ。
そして、運命の逆位置の意味の一つ、別れ。
おそらくその能力で優花さんの記憶から俊哉の記憶が消えたのよ。」

解決方法を聞こうとする俊哉を止め、再び真剣に考え始める鈴華。

 「でもおかしい。アルカナは自分を対象に効果を発揮する。
俊哉が優花にアルカナを使ったのならまだ分かる。
でも、どうして関係のないフードの男が使って俊哉の記憶が消えたの?」

ぶつぶつと小さい声になりながら独り言を続ける鈴華。

「他人を対象に使う方法が実はあるとか?
私たちが知らないだけ?
もしくは、俊哉に触れさせてから使ったとか?」

鈴華の考察は止まることがなかった。

 「ごめん鈴華。お前が何を言ってるのかよくわからないが、とにかく、どうしたら優花の記憶が戻るのかを教えてくれ。」

 「簡単よ。別れの反対、出会いのアルカナを意味する魔術師のアルカナ所持者を見つけて能力を使ってもらう。」

俊哉があることに気づき優花のそばに行く。

 「魔術師のアルカナなら俺が持ってる。
これを使えばいいんだな。」

優花に魔術師のアルカナを使う俊哉。
突然涙を流し一同を困惑させた。
何度も謝罪を繰り返す優花に、お前のせいではないといい続け謝罪の言葉が収まるのを待った。

 「無理よ、俊哉。
あんたの魔術師の能力は意思を読みとることだけ。アルカナの意味で言う意思しか使えないってこと。
本当のアルカナ所持者に頼まないと魔術師の持つ意味の全ては使えないのよ。」

再び罪悪感に押し潰される優花。
それを壊れた心を隠しなだめる俊哉。

 「ありがとうございます。
優しいんですね俊哉さんは。」

再び俊哉の中で何かが砕ける音がした。

時は進み授業中へと戻る。

 「ダスピクエット、今日にでも異世界に行くよ。
やることは決まったから。」

ダスピクエットとキテラが嬉しそうに笑う。

 「魔術師のアルカナ所持者を探すんですね。」

 「いや、それはついでだよ。」

授業中の俊哉の顔が殺気に満ちる。

 「あの、腐った世界を壊す。
俺に理不尽なほどに試練を与えるあの腐った世界を!」

ダスピクエットが大きな声で俊哉を呼び俊哉の思考を止める。
我に返った俊哉は今自分が何を考えていたのかを振り返り怯える。

 「俊哉さん。あまり染まってはダメですよ。戻ってこれなくなりますよ!」

ダスピクエットの忠告。
久しぶりの忠告。
それだけ危ないんだと実感した。

授業を終え家に帰り寝る時間と同時に異世界に向かう。
朝沢山話したと言うのに精神世界に呼ばれてしまった。
目の前にはキテラがいた。

 「俊哉くん、ちょっといいかな?
前に異世界に行けば現実世界では二週間がたつって言ったと思うけど…。リンクが完璧になったから往復の時間も短縮されて一日で現実世界に戻れるようになったよ。
だから、沢山異世界に行っといで。
あ、あと…。」

突然近づき顔を耳元に持ってくるキテラ。
近くにダスピクエットがいることから聞かれたく無いのだろう。

 「矢澤が最後に言い残した協力者って私の事だから。」

それだけ言って異世界に飛ばされた。
もちろんこちらの意見する時間はなかった。
毎度思うがキテラは自由すぎる。
異世界につき、宿を出るとそこには颯真とリッカがいた。

 「俊哉、まさか1人で行く気かい?
何のために君の仲間になったと思ってるの?」

颯真の後ろで頷くリッカ。
もうこれ以上心を傷つけたくないと1人で行こうとしていたが、仲間には筒抜けだったらしい。

 「西の国に向かう!」

 「了解です。俊哉さん。」

 「んじゃ向かおうか。
西の国フルフィー王の治めるアイスウェイへ。」

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