異世界でもプロレスラーになれますか?

大牟田 ひろむ

第44話 竜と虎?




「という訳なの」

 シルフィの話を聞き、俺はまず真っ先に思った事を口にする。

「シルフィ、悪いんだけどこの後エリオットの妹を治療してやってくれないか?もしかしたらこいつの妹も同じ毒を盛られているかもしれないんだ。場所はエリオットが案内する」

 シルフィのスキルがあれば多くの人が救える。毒に苦しんでいる人もまだいるだろう。
 なら助けないわけにはいかない。

「それは大丈夫だけど竜平は?一緒に行かないの?」

「悪いけどそろそろ戻らないと。もうすぐ準決勝が始まる時間だからな」

「そっか。そういえばリースは?私、戻ってきたら休憩になってたから何も知らないんだけどリースも勝ち残ってるよね?」

 シルフィは知らないのか。リースとヴィルフリートの戦いの結末を。
 嘘をついてもすぐにバレる事だし、俺は正直に話した。

「……そうなんだ。リース、負けちゃったんだ」

「あぁ、試合自体はリースがおしていた。ヴィルフリートはギブアップをしようとしていたんだ。けど、そこで急に雰囲気が変わった。あれが恐らくキールなんだと思う」

「私の為に凄く頑張ってくれたんだね、リース」

「リースの治療もしてやって欲しいところなんだけど……もう変身も解けちゃってるし、グランのおっちゃんと鉢合わせる訳にもいかないよな……」

 と、離れた所に待機させていたエリオットが耐えられなくなったのか、いつのまにか俺たちのそばに来ていて口を挟む。

「ねぇお兄さん。この人お兄さんの彼女さん?」

「なっ!?ち、違うわよ!私と竜平はただの仲間!それだけよ!」

 顔を真っ赤にしながら全否定するシルフィ。
 そこまで否定することないじゃないか。ちょっと落ち込むぞ俺……。

「なぁシルフィ。今回の件なんだけど……」

 考えてみればエリオットも同様に被害者なのかも知れないんだ。真相を知る権利は充分にある。
 俺たちは事の顛末をエリオットに説明することにした。



「……とても信じられない話だけど、お兄さん達、嘘をつくような人には見えないからなぁ。分かった。信じるよ!」

 話を聞き終えたエリオットは案外あっさりと話を信じてくれたらしい。

「良いのか?会って間もない俺らの事信じて」

「だってお姉ちゃん、妹の事助けてくれるんでしょ?毒かもしれない薬をいつまでも飲んでるくらいならお姉ちゃんを信じてみたい!」

 満面の笑みを浮かべるエリオットを見てシルフィは俯く。

「良かったなシルフィ。こんなにも純粋に信じてくれる奴がいて」

「うん……」

 俺の言葉にシルフィは小さく返事をした。

「と言うことは悪いのはシュナイデル王国の勇者様って事なんだよね?なんだか腹がたってきたなぁ」

 急に恐い顔をしてそんな事を言いだすエリオット。
 まぁ恐らく両親が毒で殺された事、そして妹にも同じ毒を飲ませている事に怒っているのだろう。

「エリオット、怒る気持ちも分かるが何かやらかすなよ?仮にも勇者なんだからお前にどうこうできるとも限らんしな。それにキールはいずれ俺が倒す予定だから」

「分かってるよお兄さん。せいぜい国に帰ってある事ない事噂を広めまくるだけだから」

 そんな事を言いながら悪い顔をするな。お前まで悪人に見えてきちゃうぞ。

「そ、それじゃ俺は試合あるから。エリオット、シルフィを妹のところまで案内してやってくれ」

「頑張ってね竜平!勝って明日ヴィルフリートとキールをボコボコにするんだからね!」

 シルフィもなかなか酷いこと言うな。確かにヴィルフリートと戦わなきゃいけないけどそこはキールだけでいいだろうに。
 そこでシルフィとエリオットに別れをつげ、俺は会場へと向かった。



 会場の前へと戻ってくると俺の周りにはまたしても観客達が群がってきた。
 「頑張ってください」だの「マスク取って!」だの色々言われたが、なんとか宥めつつ、俺は会場の中へと入った。
 そういえばここにはもうリースもグランのおっちゃんもエリオットもいないんだよな。話し相手もいないのはなんだか少し心細い。
 だけどみんなの仇を取るためにも俺がしっかりしなきゃな。

 会場内を歩いていると、前方から歩いてくるイケメン、ヴィルフリートが目に入った。
 試合終盤にキールに体を乗っ取られていたのだが今の人格はどちらなんだろうか。

「おぉヤシマ・ドラゴンじゃないか。記憶にあるぞ?なかなかの強さだ。決勝の相手はお前かな?楽しみにしてるぞ、はっはっは!」

 それだけ口にしてそのまま歩いて行ってしまった。
 どうやら中身はキールのようだな。あと俺はドラゴン・ヤシマだ。間違えんなこの野郎。

『皆様にお知らせいたします!まもなく準決勝第1試合を執り行います!』

 会場について一息つく間もなくアナウンスが流れた。

 ◆

「いよいよか」

 まずはグランのおっちゃんの敵討ちだ。
 あの袋を被った変人。実力は今までの相手とは比べ物にならないだろう。
 試合が始まったらあいつの袋をひん剥いてやろうかとも考えたが、あいにく俺はヒールレスラーになろうとは考えていなかった。
 したがって正々堂々真っ向からあいつを叩きのめしてやる。

『これより準決勝第1試合を始めます!まずは東ゲート!もはや紹介する必要もないでしょう!ドラゴンのマスクを被り、相手を圧倒してきたこの男!鬼畜レスラー、ドラゴン・ヤシマ選手入場です!』

 ……うん、もしやと思ったけどやっぱり言うのねそれ。もう聞かなかったことにしよう。

『そして西ゲート!こちらも圧倒的な強さで勝ち上がってきた謎の男!ヤシマ選手とは違い、ただ袋を被っているだけの奇人!ミスターフクロ選手入場です!』

「よぉ、逃げなかったみてぇだな」

「お前こそ、なんだそのフクロは。馬鹿にしてんのか?」

 見れば奴が被っているフクロにはそれはそれは可愛い猫さんの顔が描かれていた。

「随分可愛らしくなったな、良くお似合いの猫フクロだ」

 俺がそう言うと、奴は不敵な笑みを浮かべた。

「ははっ!お前にはコイツが猫に見えるか!そうか!」

 いやどっからどう見ても猫にしか見えないんだが。なんなら他の何に見えるのか教えてほしい。

「まぁ、猫っつってもあながち間違いでもねぇか、なんせ同じ猫でもこれは虎だからなぁ!」

 え?虎?タ◯ガーマスクとかそんなとこ?見えねぇよ!

「さぁ始めようぜ!竜虎の闘いを!」

 そんな残念な虎との闘いが今始まる。
 
 



 
 




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