異世界でもプロレスラーになれますか?

大牟田 ひろむ

第39話 リースVSヴィルフリート(後編)

 大爆発を起こした私の魔法の影響で会場中に煙が蔓延してしまっている。
 もはやヴィルフリートがどうなったかなど、誰にも分からない。

『おぉーと!!マスラオ選手のとんでもない魔法により、闘技場の様子は確認出来ません!皆さま!煙が晴れるまで今しばらくお待ちください!それにしてもヴィルフリート様は無事なのでしょうか!?』

 そんなの、まともにあれを受けたら無事じゃ済まないよ。常人なら骨すら残らないレベルの魔法だしね。

「うっ……」

 流石に魔力を使い過ぎた。正直立っているのも結構しんどい。だけど、これでもう試合は終わり。殺してしまったならそれで良い。試合は失格だが、勝負には勝ったんだからね。
 次第に煙が晴れていき、闘技場の様子が露わになる。

「なんで!?」

 目の前の光景を目の当たりにして、私は狼狽する。
 そこにヴィルフリートの姿が見当たらない事に。
 常人なら跡形もなく消え去ってしまうほどの魔法を放った。しかし相手は魔法耐性に秀でた勇者ヴィルフリートであるならば、最悪死んでいたとしても肉体は残るはず。

「危ないところだった、流石に死ぬかと思ったよマスラオ殿……」

 突如背後から聞き覚えのある声がして、私は即座に距離を取る。そこにいたのはほとんど無傷のヴィルフリートの姿だ。

「咄嗟に水の魔法で体を守らなければ死んでいたかもしれないな。しかし、これも真剣勝負。私は全力で勝ちに行く!ここからは私の番だ!行くぞ、マスラオ殿!」

 毒の影響が無くなったヴィルフリートは長剣を手に私の方へと迫る。
 私は足元の地面に突き刺さった2本のダガーを手に、迎撃の体勢をとった。

 ガキィィィン!!

 ヴィルフリートの振り下ろした長剣をダガーで防いだ私だったが、見た目だけが変化した私の腕力では到底防ぎきれるものでもなく、ましてや魔力を使い過ぎたせいで、思うように力も入らない。
 そのまま私は闘技場の端まで吹き飛ばされた。

「くっ……かはっ」

 血反吐を吐き地面に倒れた私をヴィルフリートは見下ろす。

「どうやら限界のようだね。あれだけの魔法を使ったのだ。魔力などほとんど残っていないのだろう。降参したまえ。弱った相手に手を加えることなどしたくはないのでね」

「ふっ、お断りだ。死んだって降参なんかしない」

「そうか、それならば仕方ない」

 不本意そうな表情を浮かべ、ヴィルフリートは私の手を掴みあげようと手を伸ばす。今だ!

「なっ!?」

 私は一瞬の隙をつき、ヴィルフリートの足をかけ、うつ伏せに転ばした。
 私に出来ることはもはやこれしか残っていない!
 シルフィと一緒に練習して編み出したこの技。
 ヴィルフリートの両足を脇の下に抱え込み、跨ぐようにして腰を思いっきり反らした。

「逆エビだぁぁぁぁ!!!」

 そう、竜平が言っていた。この技の名前は逆エビ固めだと。この技ならギブアップを取ることが可能だと。
 私は全力で体重をかけ、ヴィルフリートを追い詰める。

「ぐぁぁぁっ、くっ、何だこの技は!」

 動こうにも激痛のあまり、力が入らず悶え苦しむヴィルフリート。

「降参しろぉぉぉぉ!!!」

 私は全力で叫び、ヴィルフリートの降参を促す。転瞬で逃げる事も可能だろう。だが、ヴィルフリートはそれをしない。それほどまでに騎士としての誇りを大切にしている。ふざけんな!この国を乗っ取った奴がどのツラ下げて騎士としてとか言ってんだ!
 そう思ってますます力が入っていき、遂にヴィルフリートの口からその一言が漏れようとしていた。

「ま、まいっ……」

 勝った!

「転瞬」

 勝ちを確信した瞬間、とてもヴィルフリートのものとは思えないほどドスの効いた声がした。
 その瞬間、ヴィルフリートは姿を消し、私は逆エビの体勢をとっていた反動で、そのまま仰向けに倒れこんだ。即座に立ち上がったのだが、それがいけなかった。

「くだらん」

ヴィルフリートは長剣の柄で私の腹部を突く。

「がはっ……」

 意識が……、私、負けちゃったんだ。ごめんねシルフィ。仇、とれなかったよ。
 私はそのまま前に倒れ、意識を失った。
 ヴィルフリートは私の安否を確認することもせず、早々に退場していった。



『勝者!ヴィルフリート様!とんでもない試合となりました!過去、これ程までにヴィルフリート様を追い詰めた者がいたでしょうか!?マスラオ選手!惜しくも敗退となりましたが、どちらが勝ってもおかしくありませんでした!会場の皆様、両選手に盛大なる拍手をお願いいたします!』

 会場中からは拍手の音とともに黄色声援が飛び交う。
 俺は改めて、リースの覚悟を目の当たりにした。最後の逆エビ。あれは悪あがきでも何でもない。勝つ為の最善の一手だった。
 それでも奴はその上を行ったんだ。だが、最後の奴の声。とてもヴィルフリートの声とは思えないほど背筋が凍りつくような声音だった。

『えー、警備兵の方。マスラオ選手を救護室までお願いします』

 まずい!

 リースは意識を失って姿が元に戻っている。
 俺は咄嗟に闘技場へと飛び降り、リースの元へ駆け寄る。すると何事かと警備兵数人が俺たちの元に駆け寄ってきた。

「すいません、こいつ俺の仲間なんで、俺が救護室まで運びます!」

 流石に準決勝まで勝ち上がったマスクマンは目立つし、そう警戒もされなかった。
 俺はリースに持ってきていたフードを被せ、肩に手を回し、退場する。
 シルフィも姿が元に戻っているだろうけど、念の為、最初からフードは被らせておいたから平気だろう。

「……よく頑張ったなリース。あとは俺に任せておけ」

 入場待機場所へと戻って、リースを椅子に座らせる。

「やはりリースだったんじゃな……」

「……おっちゃん」

 治療を受け、意識も取り戻したグランのおっちゃんは途中から試合を見ていたらしい。

「あのポイズンダガーはワシが作ったもんじゃ。この世に1つしかないからのぉ」

 そうか、おっちゃんは鍛治職人でもあるんだよな。

「おっちゃん、リースの仇は俺がとる!もちろんおっちゃんの仇もこれからとってきてやるからな!」

「おう!期待しとるで!」

 そう言っておっちゃんはリースの治療の為、一旦家へと帰っていった。

『会場の皆様にお知らせいたします。準決勝は1時間の休憩を挟んでからの開始となります。今しばらくお待ちください』
 


 

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