異世界でもプロレスラーになれますか?

大牟田 ひろむ

第29話 初戦

 こいつがヴィルフリート……全ての元凶か。見た感じあんま悪そうな奴には見えないんだが、国民の信頼を得ている以上、表では良い顔して、裏では悪い顔してるんだろうな。
 綺麗なサラサラの金髪イケメンとかいかにも女受けしそうな野郎だ。

「今大会、私の発案により、武器の使用及び魔法やスキルの使用も可となった。だが、相手を殺してしまった場合、即失格とする。試合は30分の中で相手が動けなくなるか、ギブアップをするまで続けてもらう。それでも決着がつかない場合、両者失格とさせて頂く」

 武器の使用を認めるだけならここで文句を言っていたところだが、まぁスキルも使えるって事ならいいかな。むしろ俺の場合、スキルの数々が武器のようなものだし。

「それでは早速試合を始めるとしよう。いつまでも観客を待たせるものではないからな」

 そう言って国王———ヴィルフリートは通路の奥へと消えていく。どうやら国王専用の観覧場所へ行くようだ。いい身分だな。
 すると早速アナウンスが流れた。

『皆さん、大変長らくお待たせいたしました!試合を開始致します』

 ウォォォォォォ!!!

 会場のボルテージは最高潮だ。さて、受付横で確認したトーナメント表によれば俺は第2試合。初戦の相手は確か「パンク・ブルーザー」。どんな奴か分からないが初戦から手こずるわけにはいかない。
 まずは第1試合の選手を見ておかなきゃな。勝った方は2回戦で当たる事になるんだし。
 と、思ったそばから試合が始まるみたいだ。
 
『第1試合、東ゲートからはこの男、エルフォード王国のギルドにて、酒癖の悪さで知られているが、実力は本物———グラヴィル・ロウの登場です!そして西ゲートから現れたのは———今年で3年連続出場にして2年連続初戦敗退。今年こそは1回戦突破なるか、隣国ヴァージェス王国出身———セドル・アストル!』

 実況の様な選手紹介が終わり、試合が始まった。グラヴィルの方は体のデカいチンピラみたいな風貌。武器は棍棒を1本、基本的に体術をメインとして戦っており、隙を見つけては棍棒を使うスタイル。武器の扱いは素人同然の様だ。
 対するセドルの方はグラヴィルとは真逆の様で、体術はからっきしの様子。だが、剣の扱いがなかなかのもので体術メインのグラヴィルは攻めあぐねている。
 だがグラヴィルは一瞬の隙をつき、セドルの剣を躱し、鋭い頭突きを炸裂させセドルは失神。第1試合はグラヴィルが勝利した。

『勝者———グラヴィル・ロウ!』

 ウォォォォォォ!!

 会場の盛り上がりから俺は身体がうずうずしている。この世界に来て初めての試合。プロレスではないが、この高揚感はあの時と同じだ。
 俺がプロレスラーとしてデビューした日。あの日と同じ感覚だった。

「やっと……試合が出来るんだな……」

 今までに溜まっていたものを全てこの大会にぶつけよう。デビュー戦での後悔、シルフィを泣かしたヴィルフリートへの怒り、そして今戦える事への最大限の感謝を込めて……。

「よっしゃ!行ってくっか!」

「頑張れよ竜平!初戦なんかで負けたら承知しないぞ」

「そうや竜平!ワシと戦うまでは死んでも負けは許さんぞ!」

 リースとグランのおっちゃんに激励の言葉をもらい、俺は入場ゲートの待機場所に向かった。

『それでは第2試合を始めます!東門、猪突猛進が如く今まで多くの強者を真正面からねじ伏せて来た男、四年連続出場にして最高実績はベスト4———パンク・ブルーザー選手入場です!』

 ベスト4か。なかなか骨がありそうだな。

『続きまして西門、遅れて来た核弾頭にして正体は謎。ドラゴンに似たマスクなるものを被り、鍛え上げられた肉体からどんな攻撃が繰り出されるのか!初出場、今大会のダークホース!ドラゴン・ヤシマ選手の入場です!』

 俺はドラゴンのマスクを被り、ガーゴイルの素材をふんだんに使ったロングタイツを履いたスタイルだ。
 流石にマスクマンなんてものはこの世界にはいないだろうからかなりの注目を集めている。

『それでは試合……開始!』

 ゴングの様な音が鳴り、試合が始まった。

「ドラゴン・ヤシマと言ったか。誰かは知らんが棄権するなら今のうちだぞ?」

 試合が始まって早々に棄権を促すブルーザー。勿論棄権なんかする気は無い。最初はとりあえず様子を見るか。

「棄権するくらいなら最初から大会なんて出て来やしないさ。ほら、かかってこいよ」

「後悔するなよ!」

 そう吐き捨てるとブルーザーは真正面からショルダーアタックの要領で突っ込んで来た。どうやら初戦のブルーザーは武器を使わない選手の様だ。これは逆に燃える。
 勢いを増したブルーザーのタックルを俺は正面から受け止めたが、見た目通りなかなかのパワーで、3メートルほど後ろに引きずられたところで停止する。

「ほぉ、これを止めるとはな。少し侮っていたかもしれん。だが次は止められんぞ!」

 そう言ってブルーザーは先程より距離を取り、さらにパワーとスピードを増して突っ込んで来る。
 よし、ぼちぼち反撃といくか。

「行くぜぇぇぇぇ!」

 俺は気合を入れ、ブルーザーと衝突する直前、ひらりと躱し、相手の背後に回り込んだ。ブルーザーの右脇に頭を潜らせ、腰を両手で抱え込み、そのまま後方へと反り投げた。
 投げられたブルーザーは地面にめり込んでいる。すぐに追撃の体勢に入るが……あれ?

『な、なんだこの技は!?ブルーザー選手、動くことが出来ません!ブルーザー選手、戦闘不能につき、ドラゴン・ヤシマ選手の勝利です!』

 ウォォォォォォ!!!

 会場中が熱気に包まれている。
 まさかあれで終わってしまうとは。まぁよくよく考えたら俺攻撃と防御の数値だけ異常なんだよな。しょうがない。
 俺は綺麗なバックドロップ———岩石落としとも呼ばれるこの技で初戦を勝ち抜いた。
 ちなみに俺がデビュー戦で死んだのもこの技だったな。
 

 


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