異世界でもプロレスラーになれますか?
第25話 信じる者達
勇者自らの出場———そんな事が耳に入り、俺たち3人は呆然と立ち尽くしていた。この大会に優勝し、現国王であり、勇者のヴィルフリートへ一騎討ちを申し込む予定であったのだが、これは流石に想定外だった。
「……まぁ、これはこれでチャンスなんじゃないか?わざわざ勇者がトーナメントに出場してきたんだ。これなら優勝して指名する必要もないしな」
今回の目的は勇者打倒。出来れば勇者の化けの皮を剥いで奴を捕縛したいところだが、シルフィの手前、それは黙っておいた。俺は密かに考えていたのだ。この大会に優勝し、勇者を国王の座から引きずりおろしてやろうと。その後、この王国はどうなるかは正直分からない。シルフィの生まれ故郷だ。今までのいざこざを解決し、国民の誤解を解きたいところだが、残念ながら俺にはそこまでの知恵も力もない。ならばせめて、俺の出来ることをやるまでだ。
するとシルフィは儚げな笑みを浮かべ口を開く。
「……そうだね」
シルフィの表情は先程とは一転して変わってしまった。仇であるヴィルフリートが大会に出場するというのに、自分は他人に任せて見ていることしか出来ない。きっとそれが辛いのだろう。やるなら自分の手で倒したい。その為に今まで頑張ってきたのだ。だが、自分では勝てないのはシルフィ自身が1番分かっているだろう。悔しくて仕方ないのだ。
そんなシルフィを見てリースは優しく声をかける。
「シルフィが気にする事なんてないよ。あいつは私と竜平で倒してくるからさ」
「リースの言う通りだぞ。シルフィ、1人で抱え込まなくていいんだ。シルフィには俺やリース、ハイルさんにグラジオラスの皆がいるんだ。だから困った時は言ってくれ。絶対助けるからな」
シルフィの目から涙が零れおちる。
「2人ともありがとう……」
やはりシルフィは無理をしていたんだな。不安は今でも拭えないだろう。だが、そんな時こそ今は楽しまなきゃな。
「さ、まだまだ美味しいもん沢山ありそうだし、もっと回ってみようぜ。ほら、あの店なんか凄い美味そうなもんあるぞ」
俺が指差した先にはリーフィルという看板があり、その店の前では50代くらいの夫婦が甘く香ばしい香りがするアップルパイのようなものを売っていた。
「あ……おじさん、おばさん……」
「知り合いか?」
「……うん、昔はよく来たことあったんだ。お父様に連れられて来たこともあったし、王宮で怒られて落ち込んだりした時とかも来てたんだ。あの店のパイはとっても美味しくてね、どんなに落ち込んでても食べると凄く元気が出たんだ」
そうか、シルフィにとってあそこは思い出の場所でもあったんだな。
「それじゃちょっと行ってみようか」
「え?でも……」
「大丈夫大丈夫、今は姿を変えてるんだし。そのパイも食べてみたいしな」
俺はシルフィの手を引き、リーフィルの前へとやってきた。夫婦は優しい笑みを浮かべると「いらっしゃい」と声をかけてくれた。
「すいません、そのパイ3つください」
「はいよ、3つで450ゴールドだけど、お嬢さん可愛いから400ゴールドにまけたげるよ」
おじさんの粋な計らいで50ゴールドまけてもらえるようだ。確かに今のシルフィは美人だけど、素のシルフィはもっと可愛いんだぞ?
なんて思っていると奥から奥さんが現れ、おじさんの頭を叩きながら言う。
「全くあんたって人は。ごめんね、お嬢さん。この人決していやらしい意味で言ってるんじゃないの。落ち込んでそうな人を見るとどうしても気にかけちゃうのよ」
別に謝ることではないが……。おじさんなりに気を遣ってくれてたんだな。一目シルフィを見ただけで察したのだろう。
おじさんはパイを渡しながら俺たちに言う。
「はははっ、なんかお嬢さん見てると昔よく来てた子を思い出してなぁ。その子は落ち込んだりするといつもうちに来て毎回美味しい美味しいって言いながらそのパイを食べてたよ。その時の笑顔が忘れられなくてなぁ。今じゃお尋ね者だけどね」
シルフィは今にもここから立ち去りたいのだろう。先程から顔を伏せてしまっている。大好きだったおじさん達にまで恨まれているのだと思うととても耐えられない。これ以上シルフィを苦しませるわけにはいかないと思い、俺は店を後にしようとしたが……
「おじさん達はその子の事をどう思ってるんだ?」
突然、リースはおじさん達に詰め寄る。いきなり何を言いだすんだ。これ以上シルフィを追い詰めるような事は……
「私はあの子を恨んでなんかいないよ」
……予想外の返答が返ってきた。
「世間じゃ、あの子の一族が国を大混乱に陥れてた事になっているだろう。でも私たちは前国王やあの子達があんな事をするなんて到底思えない。それに今の国王は表向きは良い顔してるが、何か裏がありそうでねぇ。あまり信用出来ないのさ。私はあの子を信じてる」
女性の感は鋭いと言うがこれは流石と言わざるを得ない。おじさんの方はどうなのだろうか。
「おじさんもあの子を信じているよ。前国王様とは何度もお話したことがあるが、とても謙虚で国民思いの素晴らしいお方だった。うちに寄ってくれた時はいつも言っていたよ。国民の為、娘の未来の為にこれからもこの国を守っていくと」
シルフィは俺の手を強く握りしめている。俯いていてはいるが、その目からは涙が滴り落ちているのがわかった。嬉しかったのだろう。故郷のみんなには恨み疎まれてしまっていると思っていたのだから。
「お嬢さん!大丈夫かい?」
奥さんが心配してシルフィに声をかけてくれたが……
「……だ、大丈夫です、その……このパイが凄く美味しくて……」
「そうかい?嬉しいねぇ。なんだかお嬢さんはあの時の子に似ている気がするよ。またいつでも食べにおいで。その時はまたサービスするから」
「……はい」
おじさん達にご馳走さまと言い、俺とリースはシルフィの手を引き、店を後にする。
「良かったなシルフィ。信じてくれている人がいて」
「……うん」
ようやく泣き止んだシルフィの顔はとても明るく喜色満面の笑みを浮かべていた。
「……まぁ、これはこれでチャンスなんじゃないか?わざわざ勇者がトーナメントに出場してきたんだ。これなら優勝して指名する必要もないしな」
今回の目的は勇者打倒。出来れば勇者の化けの皮を剥いで奴を捕縛したいところだが、シルフィの手前、それは黙っておいた。俺は密かに考えていたのだ。この大会に優勝し、勇者を国王の座から引きずりおろしてやろうと。その後、この王国はどうなるかは正直分からない。シルフィの生まれ故郷だ。今までのいざこざを解決し、国民の誤解を解きたいところだが、残念ながら俺にはそこまでの知恵も力もない。ならばせめて、俺の出来ることをやるまでだ。
するとシルフィは儚げな笑みを浮かべ口を開く。
「……そうだね」
シルフィの表情は先程とは一転して変わってしまった。仇であるヴィルフリートが大会に出場するというのに、自分は他人に任せて見ていることしか出来ない。きっとそれが辛いのだろう。やるなら自分の手で倒したい。その為に今まで頑張ってきたのだ。だが、自分では勝てないのはシルフィ自身が1番分かっているだろう。悔しくて仕方ないのだ。
そんなシルフィを見てリースは優しく声をかける。
「シルフィが気にする事なんてないよ。あいつは私と竜平で倒してくるからさ」
「リースの言う通りだぞ。シルフィ、1人で抱え込まなくていいんだ。シルフィには俺やリース、ハイルさんにグラジオラスの皆がいるんだ。だから困った時は言ってくれ。絶対助けるからな」
シルフィの目から涙が零れおちる。
「2人ともありがとう……」
やはりシルフィは無理をしていたんだな。不安は今でも拭えないだろう。だが、そんな時こそ今は楽しまなきゃな。
「さ、まだまだ美味しいもん沢山ありそうだし、もっと回ってみようぜ。ほら、あの店なんか凄い美味そうなもんあるぞ」
俺が指差した先にはリーフィルという看板があり、その店の前では50代くらいの夫婦が甘く香ばしい香りがするアップルパイのようなものを売っていた。
「あ……おじさん、おばさん……」
「知り合いか?」
「……うん、昔はよく来たことあったんだ。お父様に連れられて来たこともあったし、王宮で怒られて落ち込んだりした時とかも来てたんだ。あの店のパイはとっても美味しくてね、どんなに落ち込んでても食べると凄く元気が出たんだ」
そうか、シルフィにとってあそこは思い出の場所でもあったんだな。
「それじゃちょっと行ってみようか」
「え?でも……」
「大丈夫大丈夫、今は姿を変えてるんだし。そのパイも食べてみたいしな」
俺はシルフィの手を引き、リーフィルの前へとやってきた。夫婦は優しい笑みを浮かべると「いらっしゃい」と声をかけてくれた。
「すいません、そのパイ3つください」
「はいよ、3つで450ゴールドだけど、お嬢さん可愛いから400ゴールドにまけたげるよ」
おじさんの粋な計らいで50ゴールドまけてもらえるようだ。確かに今のシルフィは美人だけど、素のシルフィはもっと可愛いんだぞ?
なんて思っていると奥から奥さんが現れ、おじさんの頭を叩きながら言う。
「全くあんたって人は。ごめんね、お嬢さん。この人決していやらしい意味で言ってるんじゃないの。落ち込んでそうな人を見るとどうしても気にかけちゃうのよ」
別に謝ることではないが……。おじさんなりに気を遣ってくれてたんだな。一目シルフィを見ただけで察したのだろう。
おじさんはパイを渡しながら俺たちに言う。
「はははっ、なんかお嬢さん見てると昔よく来てた子を思い出してなぁ。その子は落ち込んだりするといつもうちに来て毎回美味しい美味しいって言いながらそのパイを食べてたよ。その時の笑顔が忘れられなくてなぁ。今じゃお尋ね者だけどね」
シルフィは今にもここから立ち去りたいのだろう。先程から顔を伏せてしまっている。大好きだったおじさん達にまで恨まれているのだと思うととても耐えられない。これ以上シルフィを苦しませるわけにはいかないと思い、俺は店を後にしようとしたが……
「おじさん達はその子の事をどう思ってるんだ?」
突然、リースはおじさん達に詰め寄る。いきなり何を言いだすんだ。これ以上シルフィを追い詰めるような事は……
「私はあの子を恨んでなんかいないよ」
……予想外の返答が返ってきた。
「世間じゃ、あの子の一族が国を大混乱に陥れてた事になっているだろう。でも私たちは前国王やあの子達があんな事をするなんて到底思えない。それに今の国王は表向きは良い顔してるが、何か裏がありそうでねぇ。あまり信用出来ないのさ。私はあの子を信じてる」
女性の感は鋭いと言うがこれは流石と言わざるを得ない。おじさんの方はどうなのだろうか。
「おじさんもあの子を信じているよ。前国王様とは何度もお話したことがあるが、とても謙虚で国民思いの素晴らしいお方だった。うちに寄ってくれた時はいつも言っていたよ。国民の為、娘の未来の為にこれからもこの国を守っていくと」
シルフィは俺の手を強く握りしめている。俯いていてはいるが、その目からは涙が滴り落ちているのがわかった。嬉しかったのだろう。故郷のみんなには恨み疎まれてしまっていると思っていたのだから。
「お嬢さん!大丈夫かい?」
奥さんが心配してシルフィに声をかけてくれたが……
「……だ、大丈夫です、その……このパイが凄く美味しくて……」
「そうかい?嬉しいねぇ。なんだかお嬢さんはあの時の子に似ている気がするよ。またいつでも食べにおいで。その時はまたサービスするから」
「……はい」
おじさん達にご馳走さまと言い、俺とリースはシルフィの手を引き、店を後にする。
「良かったなシルフィ。信じてくれている人がいて」
「……うん」
ようやく泣き止んだシルフィの顔はとても明るく喜色満面の笑みを浮かべていた。
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