異世界でもプロレスラーになれますか?
第19話 決闘
翌朝、俺はシルフィの部屋を訪ねた。
コンコンとシルフィの部屋のドアをノックしたが返事はない。いつもならとっくに起きている時間だ。
「シルフィいるか?その、昨日は悪かった。話があるから出てきてくれないか?宿の前で待ってるから」
そうして俺は宿の前でシルフィを待つ事にした。
シルフィを待つこと20分くらいか。リースが起きて来たが暇だからと一緒に待つ事になった。
さらに20分ほど経った頃、ようやくシルフィが来てくれた。やはりまだ怒っているのだろう。だが俺は昨日言ったことを曲げるつもりは毛頭ない。
「おはようシルフィ」
「おはよ〜」
俺とリースが挨拶するとシルフィは小さな声でおはようと言ってくれた。少しは機嫌なおしてくれたのかな?
「それじゃ行こうか」
◆
街を出て少し行ったところにある高原。そう、俺とシルフィがマッスルロックゴーレムと初めて戦ったところだ。
「こんなとこに連れてきて一体何するのよ?」
「シルフィ、今から俺と決闘してくれ」
唐突過ぎるがこの際ハッキリ言ってしまおう。
「え?何?何で私が竜平と戦わなきゃいけないのよ」
「シルフィ、これから俺と戦って俺が勝ったらシルフィは武道大会に参加しないと約束してくれ。シルフィが勝ったら俺は今後一切この事に口を出さない」
「は?そんなの武闘家職の竜平相手に勝てるわけないじゃない。勝手に決めないでよ」
まぁ当然の意見だよな。だが、俺はそうは思わない。
「勝てるわけない?本気で言ってるのか?シルフィがこれからやろうとしてる事と何が違う?俺なんかに苦戦してるようじゃ優勝なんてとてもじゃないが無理な話だ」
実際、俺のステータスは少し異常だ。ガーゴイル戦のあとステータスを確認したがかなり伸びていて驚いたほどだ。なのでもし俺に勝てるようなら優勝なんて目じゃないかもしれない。だがシルフィに諦めさせるにはこれくらいは言っておかなきゃな。
俺の言葉に頭にきたのか、シルフィは声を荒げる。
「好き勝手言ってくれるじゃない!上等よ。やってやるわよ!後で吠え面かくんじゃないわよ!」
「あぁわかったよ。危険だから俺はスキルは使わないから安心しな」
今の言葉がシルフィに火をつけたようで、真正面から突っ込んできた。簡単に挑発に乗るようじゃまだまだだなぁ。
走りながら拳を俺の顔面めがけてふるったシルフィだが、俺は軽く躱して足を引っ掛ける。シルフィは盛大にすっ転んでそのまま前に倒れこんだ。
「避けてんじゃ無いわよ!それでも男なの!?とんだ腰抜けね!」
なんていう分かりやすい挑発だ。こんな見え見えの挑発に乗るのも癪だが、避けてばっかじゃプロレスラーの名が廃るし受けてやるか。というかグーパンチは普通に反則なんだけどな。まぁレフェリーはいないしなんの問題も無いのか。
「良いだろう来いよ!受け切ってやるからよ!」
「言ったわね、後悔しないでよー!」
再び正面から突っ込んでくるシルフィ。さっきと同じとか成長しないな。こんなんじゃ避けられるどころかカウンターを食らうぞ。そしてさっきと同様シルフィは拳を握って俺の右頬を狙い殴ろうとした時、ぶつかる寸前拳を止め、くるりと回転し、裏拳を繰り出してきた。
「ぐはっ」
流石に素人丸出しだったのでそんな警戒もせず、もろに裏拳を受けてしまった。力こそそんなに無かったが、当たりどころがちょうど顎のあたりだった為、頭がクラっとした。
「どうよ竜平!私だってやればできるんだから!」
フラついた俺にシルフィは拳を繰り出し、俺の顔面にヒットする。そのまま回転しながら体勢を低くし俺の腹に蹴りをいれ、俺は地面に膝をついた。
「……」
「これで決めるわよ!」
シルフィに足を取られ、俺は見事に逆エビ固めを決められてしまった。
「さぁどうするの?ギブアップしないとどんどん痛くなるわよ!」
正直な話、俺にダメージは無い。体が反らされてはいるがほとんど力は入れていないのだ。つまり、純粋なパワーでは魔法使いのシルフィにはどうやっても負けることはない。にも関わらず俺が力を入れていないのは、この感覚が久しぶり過ぎて余韻に浸っているのだ。
こんな時に何考えてんだと思うが実際この世界に来て初めてくらったプロレス技であった。正直泣きそう。
だがそろそろ終わらせないとな。泣いてる場合じゃない。俺は逆立ちをする要領で力を入れそのまま足を掴んでいるシルフィを俺の前にぶん投げた。
「ああっ!」
尻餅をつきながら仰向けに倒れたシルフィに俺は馬乗りになり、シルフィを押さえつけた。
「勝負ありだ。シルフィ、君の負けだよ」
「……どうしてよ」
シルフィの目から涙が溢れる。
「どうして勝てないのよぉ、私、一生懸命頑張ったのに……あんなに努力したのにどうしてよ!」
きっとシルフィはずっと我慢してきたんだろう。両親や姉を殺し、そして国を乗っ取ったヴィルフリード。すぐにでも復讐してやりたいと思っていた。だが今の自分では到底敵う相手ではない。だから必死に練習を重ね、ここまで強くなったんだろう。俺はシルフィの上から離れた。
「シルフィ、約束だ。これで武道大会には参加しないと約束してくれ」
「くっ……」
悔しさからか、シルフィは唇を噛み締め肩を落とし、座り込んでいる。
「それともう一つ。頼みがあるんだが聞いてくれるか?」
男と女の決闘なんて書きたくなかったですが、進行上どうしようもなかったので書きました。
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