異世界でもプロレスラーになれますか?
第16話 リースとシルフィ
「プロレスがしたい……」
勇者の1人、エルドとの戦いから数日が経過した頃、俺は宿の自室で切実に思い悩んでいた。
この世界にはプロレスというものが存在しない。にも関わらず俺の職業はプロレスラー。つまり、この世界でプロレスラーは俺1人ということになる。
まぁ俺の職業がプロレスラーという事は他にもプロレスラーがいるという可能性も無くはないのかもしれない。
しかし、俺の職業が判明した時のギルド職員や周りの反応を見る限り、まさに未知の職業という感じだったようだし、他に俺と同じ職業の人がいる可能性は限りなくゼロに近いのだろう。
「する事もないし散歩でも行くか〜」
俺は自室を後にし、玄関へと向かう。途中食堂の横を通ることになるので同じく宿に泊まってる人達に挨拶をしておく。結構馴染んできたなぁ。
「さてどこ行くかな」
正直この街に来てからは大して出歩いておらず、ギルドや鑑定所以外ほとんど行った事がない。いい機会なので色々観光がてら回ってみることにした。
「へ〜ここは武器や防具を売ってるのか、剣とか鎧とかなんか憧れるなぁ」
男なら誰しも一度は憧れるだろう。
俺はプロレス脳だが、決してそういうものに興味が無かったわけじゃない。まぁあの平和な日本でそんな物つけてるのはせいぜい戦国時代までだろう。
それからしばらく道なりに歩いていると……。
「お兄さんちょっと寄ってかないかい?いい体つきしてるねぇ」
うおっ!
見るからに妖艶な雰囲気を漂わせる魔族のお姉さんだ。褐色の肌にツノが2本。出るとこは出ていてスタイル抜群。この辺りは娼館が多いのか。
「ははっ、また今度……」
そそくさと俺はそこを離れていく。流石にこういった店に行く勇気は俺には無い。チキンと言われようが無理なもんは無理だ。
そんなこんなで色々なところを見て回っているとどうやら街の端まで来てしまったので引き返すことにした。
帰り道また娼館のお姉さんに絡まれたが丁重にお断りした。チキンで悪かったな。
「もうすぐ宿だな、ん?」
向かって左側の路地。俺がこの世界に来て初めて魔族に絡まれカツアゲされたところ。その路地に見た顔の3人。1人はギルドで話したシルフィの友達のリース。他の2人はあの時俺に絡んで来た魔族の2人だ。
「おい嬢ちゃん、俺らと遊ぼうぜ」
「3人で楽しもうぜ」
相変わらずあいつらは。しょうがねぇ……ん?
「あはっ、いいよ〜遊んであげる♪」
なんだ……空気が変わった……
「リース!」
俺の呼びかけに気づきリースとチンピラ2人はこちらを見る。
「あ〜竜平!」
「あ、あいつはこの間の!」
「やべぇ逃げるぞ!」
チンピラ2人は背を向けて走り去っていった。この間は逃げようとしてシルフィに逆エビかけられ……あ、シルフィに聞くの忘れてた……。
「あ〜、行っちゃった〜。残念……」
リースがしょんぼりしている。余計な事したのか。でもあの時のシルフィは何か危ない予感がした。なんていうか明らかな殺気をあの2人に向けている気がした。
「あーなんかごめんなリース。あいつら前に俺が絡まれた奴等だからてっきりリースも絡まれてるのかと……」
「うん、別に大丈夫だよ〜。絡んで来たのは本当だけどこっちも試したい事があっただけだからね〜」
試したい事?
「何を試そうと思ったの?」
「あのね〜最近シルフィと一緒に格闘術の練習してるんだ〜。それであの2人で試してみようと思ってね〜」
格闘術!?リースは盗賊職だから分からなくはないけどシルフィは魔法使い職だ。格闘なんて必要無いと思うけどな。
つまりあの時の逆エビ固めはリースとの練習で編み出したものだったのか。
「でもなんで格闘術を?リースはともかくシルフィは魔法使いなんだからそんな練習しなくてもいいと思うんだけど」
シルフィがプロレス技をやっている姿は正直言って違和感しか感じない。初めて見たときは感動を覚えたものだが改めて思い返して見るとどうかと思う。
「私とシルフィはね〜、ある共通の目的があるんだ〜」
「なんだいその目的っていうのは?」
もしかしてこの間シルフィが言おうとしてた事と何か関係があるのか?
「う〜ん、あんまり私の口からは言えないんだけどね〜、私とシルフィはとある王国の出身なんだ〜。その王国で催される武道大会に出場するためにこうやって格闘術を覚えてるの」
とある王国…… シルフィとリースは人間だからつまりは勇者領の王国だよな。その国の武道大会に出場する為にこうやって鍛えていると。
「ちなみにその大会は武器は使えるの?」
「ううん、使ったら反則負けだよ〜、まぁ警備が厳重だから持ち込む事も出来ないと思うけどね〜」
なるほど、つまりお互い素手での格闘戦になるわけか。
「そうか、でもリース。あんまり言いたくないけどやめといた方が……」
そう言いかけたところ……
「リース〜!やっと見つけた!あれ?竜平も一緒だったの?偶然だね」
いいタイミングでシルフィがやってきた。この際2人には言っておくか。
「シルフィ、リース。少し話があるんだけどいいかな?」
「うん?いいよ。あ、そうだ!竜平、この間の約束!甘いもの奢るって言ったよね?それじゃあそこのカフェで話そ!そうと決まればレッツゴー!」
あぁ、そういやそんな約束したっけな。すっかり忘れてた。
次回、シルフィとリースの過去が明らかになります。
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