異世界でもプロレスラーになれますか?

大牟田 ひろむ

第14話 勇者の誤算



「俺のスキルはな、『リヴァーサル』ってんだ。触れている対象の相手と自分の状態異常、疲労、ステータス等を反転させる。しかしこのスキルは自分より強い相手には効果がないらしい。使えるとすりゃあ、相手よりダメージを食らって弱らなきゃ意味ねぇからな。使い所の難しいスキルだぜ」

 なるほど。確かに自分より劣った相手に使うようなスキルじゃない。そんな相手に使おうものなら勝ちを譲るようなものだ。

「お前が不意打ちこいて毒なんざ使わなきゃ、こんなスキル使うことも無かっただろうよ。まぁお陰でお前はこの有様だ」

 今のエルドはまさに先程までのハイルさんだ。毒が全身を回り、体力も奪われた状態。自分に毒を使ったようなものだ。

「てめぇハイル……雑魚の分際で……」
「だからよぉ、このスキルが発動したって事は俺はお前より強いって証明なんだよ。いい加減理解しろや。ま、お前の情けねぇ姿も拝めたし満足かな。安心しろ、殺しゃしねぇよ。お前は魔王のところに連れて行く。恐らくは一生牢獄暮らしかもな」

 するとエルドはニヤリと笑う。

「ははっ……、これで終わったと思ってんのか?俺にはまだとっておきが残ってんだよ……」
「何?」
「ガーゴイル・ディザスター!」

 突如、空より舞い降りた異形の怪物。人型をしたそいつは羽根が生えており、大きさは推定2〜3メートルほどだ。今まで倒したゴーレムに比べたらさほど大きくはない。
 だが俺は感じている。こいつはあのゴーレムどもとは比べものにならないくらい強い。対峙しているだけで冷や汗がでてくる。

「ガーゴイルの中級種か。面倒なもの連れてきやがってよ」
「ハイルさん!あいつは一体……」
「あいつはガーゴイル・ディザスター。ガーゴイルの中級種だ。ガーゴイル種の中でもかなりの強さを誇る。下級種のガーゴイル、中級種のガーゴイル・ディザスター、その上には上位種であるガーゴイル・ハザードってのもいるが俺はまだ見たことがねぇ」

 話を聞くだけで身震いがする相手だ。今の俺で倒せる相手なんだろうか。正直勝てる気がしない。

「なぁ竜平。あいつ倒してくれや。俺、リヴァーサルの影響でかなりステータス下がってて正直勝てる気がしないんだわ」

 な、なんですとぉぉぉ!?

「お、俺があいつを倒すんですか!?正直向き合ってるだけでもきついくらいなんですが……」

 ハイルさんの言葉に戦慄が走る。
 するとシルフィが
「大丈夫よ竜平。骨は拾ってあげるから構わず突っ込みなさい!」

 えぇ……、また投げやりすか……。
 まぁハイルさんが勝てない以上、俺がやるしかないよな。女の子に戦わせるわけにもいかないし。

「わかったよ!やってやる!」
「それでこそ竜平ね、応援してるから頑張って!」

 しょうがない、やるとしますか。

「オラァ!」

 俺はガーゴイルに逆水平を叩き込んだが、軽く躱されてしまった。動きが速いな。この動きをなんとかしなければ。するとガーゴイルは羽で空に飛び上がると俺の方に急降下し鋭い爪で引き裂くように腕をふるった。

「おっと、危ねぇ」

 俺が間一髪ガーゴイルの攻撃を回避すると、再び飛び上がったガーゴイルはもう一度俺に向けて突っ込んでくる。

「あの動き、どうにかならないもんかな……」

 攻撃しては空へ飛びそしてまた空に戻ってしまう。これではこちらから仕掛けたくても仕掛けられない。恐らく魔法の力を付与した技で遠距離攻撃を放ってもあのスピードなら避けられてしまうだろう。
 俺はスキルリストを見て1つの技を見つけた。

「素早い動き……それなら!」

 動きが速いなら動けなくしてしまえばいい。問題はあのスピードに対してこの技をかけられるかどうかという事……そっか。ならこっちも速くなればいい。

「アビリティブースト!」

 俺の身体能力は飛躍的に上がった。スピードも相当のものだろう。これなら……。

「こいやぁぁぁぁ!」

 ガーゴイルは俺に突進してくる。ここが勝負だ。
 俺はガーゴイルの爪を避け、そのまま背後に回り込んだ。そして素早くガーゴイルの首元に腕を回し首を絞める。

「うおぁぁぁぁぁ!」

 ガーゴイルは俺に首を絞められたまま空へ飛び上がる。ここで手を離してしまえば一巻の終わりだ。絶対に離すまいと俺はガーゴイルにしがみついている。
 するとしばらくしてガーゴイルの動きが鈍くなってきた。そしてそのままゆっくりと地面へと降下していき、地面に落ちる頃には意識は朦朧としていてほとんど動かなくなっていた。
 俺が今使った技はスリーパーホールドという。
 主に頸動脈を締める技であり、脳への血流を止め、相手の意識を奪う事を目的とする技だ。

「なんとか上手くいったようだな……」

 手を離すとガーゴイルはぐったりしている。よし、これで決めてやる。
 俺はガーゴイルの背後から腰を両手で抱え込んだ。

「そりゃぁぁ!」

 俺はそのままブリッジをする要領でガーゴイルを後ろに反り投げ地面へと叩きつけた。

「カウントォォォ!!」

 俺の頭の中には1、2、3とカウントが鳴り響いていた。
 ゴングの音も聞こえてくるぜ。すると

「竜平何言ってんの?」

 頭上に?が浮かぶシルフィが意味が分からないと言うような顔で俺言った。

「あぁ、なんでもないんだ、気にすんな」

 ここまで綺麗に決まったので少し残念だったな。レフェリーもいないし観客もいない。やはり異世界でプロレスは無理なんだろう。
 まぁガーゴイルは倒したんだ、今回はそれでよしとしよう。

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