異世界でもプロレスラーになれますか?

大牟田 ひろむ

第13話 毒手使い

 俺のスキルはそれこそ腐るほどあるがそのほとんどがプロレス技である。魅力的な技名が並んでいてどれを使おうかと迷ってしまうほどだ。しかしそのスキルリストの中に1つ、『アビリティブースト』というスキルがある。
 俺の予想が正しければこのスキルは……。

「アビリティブースト!」

 使ってみてすぐに自覚した。自分の身体能力が大幅に上昇したのを。このスキルは自身の身体能力を一定時間向上させるスキルだった。
 この感じなら……。

「試してみるか」
「どうしたの竜平?」

 離れたところからシルフィが言う。
 俺は残り1体のゴーレムに向かって走り出す。そして近くまで行くと1つの技を使った。走りながらゴーレムの顔のあたりめがけてジャンプする。そのままゴーレムの顔を両足で挟み、バク転をするかのような形で回転し脳天から突き落とした。
 不安はあったがパワーもかなり上がっていたようで上手く出来たようだ。
 ゴーレムはというと完全に頭から地面に突き刺さり動かなくなっている。

「……竜平今の何!?あんな怪物を足で持ち上げなかった?」

 正確には持ち上げたのではなく、ゴーレムの走る勢いを利用して投げ飛ばしたという方が正しいだろう。

「今のはフランケンシュタイナーって言ってな、相手を脳天から地面に突き落とす技なんだ。身体能力を上げるスキルを使ってみたら出来そうな気がしてな。試してみたんだ」
「よくわからないけど凄いのは分かったよ。とりあえずゴーレムは全部倒したね。さすが竜平」

 9体いたゴーレムは全て倒した。レベルも結構上がったと思う。帰ってから確かめるのが楽しみだ。

「ね、ねぇ竜平、あのね?ちょっと聞いてほしい事があるんだけど……」
「悪いシルフィ、話はこの戦いが終わったら聞かせてもらうよ。今はハイルさんの方を……」

 気になってハイルさんとエルドの方を見る。そこで俺達は目を疑った。

「「ハイルさん!」」

 目に飛び込んで来た光景は信じられないものだった。
 ハイルさんがエルドの前に倒れ込んでいた。あの強いハイルさんが何で……。
 今にもエルドがハイルさんを殺さんと攻撃を仕掛けようとしていた。


 竜平とシルフィがゴーレムと戦い始めた頃、俺は即座にエルドに向かって拳打を繰り出す。そのことごとくを同じく素手でさばいていくエルド。

「懐かしいなぁハイル。昔はこうやってお互い拳を交えてたよなぁ」
「へっ、俺は懐かしいなんてこれっぽっちも思っちゃいねぇがな。ありゃ人生の汚点だくだらねぇ」
「まぁそう言うなよ。もっと拳で語り合おうぜ!」

 エルドは俺の拳を躱し、腹部目掛けてパンチを繰り出した。

「がはぁっ」

 血反吐を吐き出した俺にエルドは容赦なく追撃を加える。

「おらおらどうしたよハイル?昔のおめぇはもっとギラギラしてただろう?いつのまにこんな腑抜けになっちまったんだ、あぁ?」

 俺の顔面へと向けられたエルドの拳を躱し、俺はカウンターでエルドの脇腹へと蹴りを入れようとした。だがそれはできなかった。
 俺は身体の力が抜け、地面へと倒れこむ。これはやはりあれか……。

「だいぶ回ったみてぇだな、毒がよ。成長しねぇ奴だなハイル。俺の「毒手」には昔から手も足も出なかったよな」

 「毒手」エルドが保有する固有のスキルである。自らの腕に毒を付与し戦い、その毒に侵された者は神経性の麻痺毒により、身体が麻痺してしまう。つまり俺は今、こいつの毒に侵されて身体が麻痺してしまっているのだ。
 しかしこいつの毒手には欠点がある。使いすぎると自身に毒が回ってしまうのだ。
 恐らくこいつはこの場所に来て俺に不意打ちかました時にかなりの毒を使ったのか、先程から毒は使っていない。

「けっ、つまらねぇな。こんなあっさり終わっちまうとはよ。もういいや、さっさと死にな」

 エルドが手刀で俺の心臓を貫こうとしたのを間一髪、力を振り絞り回避する。

「悪あがきすんじゃねぇよ!」

 エルドは俺を蹴飛ばし、いたぶるように追撃をする。
 
「おいハイル、あんまり手間かけさせんなよ。親父がお前を始末しろって言うからわざわざこんなとこまで来たってのに何ですぐにくたばらねえんだ雑魚が!俺だって暇じゃねぇんだよ」

 んなこと……知ったこっちゃねぇんだよ。

「ま、どうせもう動けやしないだろうからな。何か言い残すことはあるか?俺は優しいから最後に聞いてやるよ」
「……んなもんねぇよ。あってもてめぇなんかに言うと思ってんのか。反吐がでるぜ……」
「そうかよ。じゃあ死ね」

 エルドはうつ伏せに倒れるハイルさんに手刀を振りかざした。



「ハイルさん!」

 すぐにでもエルドを止めなければハイルさんはやられてしまう。だがどう考えても間に合わない。
 それなら……

「アクアフォール!」

 エルドの頭上にチョロチョロと水が滴り落ちる。
 するとエルドは攻撃の手を止めた。

「おい小物。てめぇ何してくれてんだよ。ハイルをやった後ちゃんとお前らも殺してやるから大人しくしてろや」

 くそ。時間稼ぎにもならないか。どうしたら……
 その直後……

「なっ……」

 突如エルドはその場に倒れ込み、身動きが取れなくなっていた。意味がわからない。一体何が起きたのだろうか。

「ふぅ、危ないところだった」

 するとさっきまで身動き1つ取れなかったハイルさんが何事も無かったかのように立ち上がる。

「ハ、ハイルさん?どうして……」

 いきなりすぎてどんな言葉をかけていいのかわからないシルフィ。当然のリアクションだ。俺だって頭が混乱して言葉も出てこない。

「おい竜平!お前手ェ出すなって言っただろうが。こいつの毒に侵されたらいくらお前でも勝ち目はねぇぞ?」

 え?俺の心配?さっき俺の問題だから手を出すなって言ってなかったか。

「俺はあえてこいつの毒を身体に回らせるために攻撃をわざと受けたんだよ。この機会を待ってたのさ」

 言っていることが何一つわからないんだが……
 そもそも毒を回らせたなら何でそんなに元気でエルドは動けなくなってるんだ?

「そういやエルド、お前知らなかったよな?俺の固有スキル」

 ハイルさんの固有スキル。それがこの状況を作り出したのか。

「昔はまだスキルを自覚してなかったからな。どんな能力どころかスキルを持っているのかすら定かじゃなかったしな。つーことで俺のスキルを教えてやるよ。俺のスキルはな……」

 ハイルさんはニヤリと笑った。



第1章完結までもう少しです。

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