忍者修行は楽じゃない?!〜普通ライフを送るために修行せざるを得ませんでした〜

フユヤマ

50話 『死』という現実

 
   リンが、死んだ。俺の目の前でいとも容易く死んだ。
   仰向けになって、胸や口から血を流している。心臓が止まっている。体温が下がり始めている。肌が徐々に白くなっていく。
   リンは、死んだんだ。もう動くこともない。死んだ。なんで?誰のせい?……俺だ。俺のせいで、早く気づいていれば。

   ……俺のせいで死んだんだ。 

   「あの忌々しい女は死んだ。……次はお前だ」

   そう言って魔王は俺の方に指を差し、さっきの魔法を放つ準備をしている。
   脳内で今まで以上にビンビン反応している。頭が痛いほどに。
   そして魔法が放たれた瞬間、ビィィイイン!と強く反応し、反射的に体外にマナが大量に放出され魔法をかき消した。
   放出されたマナは高く柱のように登り続けている。
   そして額から禍々しい角が2生えてきた。

   「ぁ"ぁ"ぁ"あ"あ"あ"!」
   「?!」

   俺の目の前でリンが死んだ。俺のせいで死んだ。死んだ死んだ死んだ死んだ死んだ死んだ死んだぁぁ!!

   「なんだ、これは?」

   魔王は計り知れない気配を感じ、少し後ずさる。
   すると、すぐに気配を感じそちらに目を向く。
   
   「目を覚ませ」

   気配を感じたその場所から女が出てきたかと思うと剣を抜き、力が暴走した異世界人を斬った、かと思いきや異世界人の力が一瞬にして消えた。
   魔王は急に色んな事が起きすぎて、情報収集に時間がかかっていた。

   「……!!……俺は……」
   「……」
   
   いつの間にか来ていた師匠は、倒れているリンの脈を取り、そして動いていない事を確認すると、リンの目を閉じさせ、抱き上げ玉座の間の端に寄せる。
   意識が飛んでいたかのようにさっきまで何が起きたのかわからない。

   「いや、お前は意識が完全に飛んでいた。リンが死んだという現実を受け止めきれなかったのか、極度の覚醒を引き起こした」
   「ッ……!」
   「自分のせいだと思ってるんだろう?守ることができなかったって」
   「…………」
   「そういう考えやめろ、気持ち悪い」
   「……なんだと?」
   「だから、気持ち悪いからそういうのやめろって言ってるんだよ」
   「俺は!……俺がもっと強くなっていれば良かったんだ……!」

   俺はリンが死んだ悲しみと、リンを守れなかった悔しさが入り混じり、その感情が膨らみ、涙が出てきた。涙が止まらなかった。

   「俺はぁ……どうすりゃ良かったんだ!」
   「……」

   俺は頑張った。頑張って頑張って、家族や家族のように思う友人を守ろうと頑張って頑張ってきた。なのに、何が足りなかった?何をどうすれば良かった?

   「お前にはまだその気持ちが足りなかったんじゃないか?」
   「……」
   「でも、リンが死んだことで守るとはどういう事か分かったんじゃないのか?」
   「……あぁ、十分というほどにな」
   「じゃあ、その気持ちを忘れるな。その気持ちは自分を強くする。誰かを倒す、誰かを越すという気持ちよりも。……誰かを守る。その気持ちを真に知ったお前なら更に強くなる」
   「……」

   師匠の言葉が胸に突き刺さる。師匠と歳は変わらないはずなのに何故か説得力があるような気がした。
   確かに俺にはまだ守るという気持ちが足りなかったのかもしれない。
   お母さんは元忍者だから妹たちを守ってくれるだろうとか心のどこかでそう思ってる節はあった。
   
   「私がここに来ている理由はお前が合格だということを伝えるためなのと、魔王があんなに強くなってるとは思ってなかったから、だ」

   眼光が鋭い。殺気とマナが溢れ出ているのが分かる。
   魔王も処理という言葉に反応し、ピキピキと額に筋を浮かべる。
   「急に出てきて処理だと?……相当死にたいらしいな」
   「相当死にたいのはお前の方だろ。私のを殺したんだ。それ相応の覚悟ができているんだろうな?」
   「私の優秀な部下がそいつに殺られたんだ。当然の結果だろ?」
   「じゃあ、友達を殺されたから殺し返す。当然の結果だろ?」
   「「…………」」

   殺気と殺気のぶつかり合い。今にでも失神しそうな程に迫力がある。
   それにしてもリンと師匠が友達だったとは思わなかった。てことは、師匠も一度この世界に来たことがあるってことなのか。

   「いいか浩介。気になってると思うから闘いながら私とリンの関係と、こいつの処理の仕方を教える。先に行っとくと、こいつの処理にはお前の覚醒の力が必要だから一応立って、いつでも闘える準備をしとけ、いいな?」
   「は、はい!」

   つ、つい敬語が出てしまった。本当に同い年とは思えないんだが。
   
   「さっきからこいつだとか、処理だとか……。目にものを見せてやる!地獄であいつと仲良くやっているがいい!」
   
   怒りに頂点に達した魔王は、手に黒い炎を纏い戦闘態勢に入る。
   師匠はスッと、刀を引き抜いたかと思うといつの間にか魔王の後ろにスタッと立っていた。

   「地獄に行く準備をしてやろう……」

   魔王の両腕が落ちる音が玉座の間に静かに響いた。
   
  

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