忍者修行は楽じゃない?!〜普通ライフを送るために修行せざるを得ませんでした〜

フユヤマ

46話 エンターテイナー

 
   俺たちは魔王城の門前まで辿り着いた。だが、ここに来て問題ができた。
   目の前にはいかにも固く分厚そうな扉が高くそびえ立っていた。

   「なぁ、こういうのって近くまで来たら勝手に開いてくれたりするんじゃないの?」 
   「そんなわけないだろ。大体は魔法によって固く閉ざされている。相当強力な物理攻撃を与えない限りこの扉は壊れないだろう」
   「そういうのはもうちょっとファンタジーで良かったのに」
   「 なら……はぁぁ!!」

   話を聞いていたのだろう。リンは剣に手をかけ、抜刀の構えに入っていた。

   「……離れとくか、ハイドラ」
   「あぁ」

   溜めに溜めたのか、リンは素早く抜刀し扉に一閃を入れる。
  
   「リン!ちょっと早いって、ブヘェ!!」
   「ドワァ!!」

   リンの一閃は、人を吹き飛ばすほどの衝撃波を生み出し扉は崩れ落ちた。

   「ごめんごめん、2人とも!それじゃあ、行こー!」
   「よし行くか」
   「お前はなんで何も無かったかのような態度とってんの?一緒に吹き飛ばされてたよね?お前、リンにペコペコしてる時点でカッコいいキャラなんて成り立ってねぇこと忘れんじゃねぇぞ?!」
  「うるせぇ!これでも俺は100年以上も生きてんだぞ?!お前らより遥かに年上だぞ?!少しは態度を改めろ!」
   「でも、取る行動が伴ってないよね」
   「……」
   「プフー!リンに言われてやんのー!」
   「お前はいつか殺す……!」

   そんな緊張感のない、いつもどおりの会話んしながら崩れた扉の上を飛び越え魔王城の中へと入っていくのだった。

 ---

   「さて、俺は先に行く。後はお前たちで行けるな?」
   「あぁ、ハイドラも気をつけてな」
   「ここは俺の家みたいなもんだ。心配すんな、じゃあな」

   ハイドラは俺たちに手を振りながら、先に行ってしまった。
   どうやら魔王の前に会いたい奴がいるみたいだ。

   「じゃあ、私たちも行こっか!」
   「おう!」

   カチッ!
   気合を入れて一歩踏み入れた矢先、一部分地面が凹みそんな不気味な音を立てた。
   すると、ゴロゴロと地面が揺れだし徐々にその音が大きくなってていく。

   「これって……」
   「浩介……」
   「ごめんなさぁぁああいい!!!」

   俺たちは後ろから転がってくる巨大な鉄の球に追いかけられながら魔王城の中へと深く入っていくのだった。

 ---

   どれくらい走ったのだろうか。
   横から飛んでくる矢、迫り来る棘付き壁、落とし穴と様々な罠を躱していった。
   そして、俺たちは大きな広間に辿り着いた。

   「ここで……ちょっと……休憩っ!!」
   「だはぁーっ!疲れたねー!」 
   「そういうのは、汗の一つかいてから、言ってよ!」

   リンは清々しい笑みを浮かべながら仁王立ちしていた。俺だって毎日のように走っていたのに、結構疲れた。なのに、リンは余裕そうにしていた。

   「レディ!アンドジェントルマ〜ン!ようこそ魔王城へぇぇ!!」

   すると、どこからともなくそんなはっちゃけたような声が響き渡る。
   すぐにリンは警戒態勢に入った。顔が険しくなっており、どれだけの相手なのかが物語っている。現に俺の脳にビンビン来ているので危険なのは確かだ。

   「あなた達はこれからある者に挑戦していただきまぁす!あ、失礼、紹介が遅れました。魔王様親衛隊隊長のホウルドです、以後お見知り置きを」

   ホウルドは地面からスルリと出てきて綺麗にお辞儀をし、ニヤッと不気味な笑みを浮かべた。その笑みを向けた瞬間にぞくりと背筋を凍らされた。殺意だった。
   ホウルドは真っ青な肌と八重歯が特徴的なヴァンパイアだとすぐに分かった。

   「親衛隊?魔王は単独行動と聞いていたんだけど?」

   俺は少し上ずった声で問いただす。リンはさっきからずっと険しい顔のままだった。

   「隊と言っても私1人ですよ。まぁ、魔王様に色々いじくられてしまいましてね。こうして服従の身となってしまったのですよ」
   「「……」」

   ホウルドは丁寧に説明するが一切耳に入らない。俺はどうやったらこの場を凌ぎ、先に進めるかを考えていた。
   
   「この先は魔王様が居ります玉座の間となっています!さて、あなた達はこの者に勝てるのか?!いでよ!メスブタ!!」
   「ブヒヒッ!」

   そう高らかに叫ぶと、ホウルドと同じように地面からスルリと巨大なブタが現れた。
   それにしてもメスブタって酷いネーミングセンスだな。

   「なぁリン、このモンスターは何?」
   「メスブタは超危険モンスターだよ。鼻の穴から魔法でメスっていう手術器具を一気に何本も飛ばしてきて……」
   「どんなブタだよ?!」
   「ブヒヒーッ!」

   驚く暇も無く、メスブタは鼻の穴から大量のメスを俺ら目掛けて飛ばしてきた。

   「うわちょっ!……ってリン!避けろ!」
   「…………」 

   俺は間一髪で避けるが、リンは避けずにその場に剣を構えたまま立っていた。このままじゃメスに突き刺さるかと思った。しかし、

   「出力最大!光魔法、セイクリッドランス!!」
   「ブヒッ……!」
   「「なっ?!」」

   突風が巻き起こるほどに自身を回転させ、メスブタ目掛けて超スピードで飛んでゆく。そのまま飛んでくるメスを全て弾き飛ばし、メスブタの脳天に風穴を開けた。
   一撃だ。そのまま大きな音を立てながら、メスブタはその場に倒れた。
   俺は冷や汗をかき、呆然としていた。
   ホウルドに関しては口を大きく開け唖然としていた。
   しかし、リンは脳天をぶち抜いたことではスピードは収まらなかった。むしろ加速し、そのままホウルドに向かって飛んでいった。しかし、これは後ろに飛び避け躱す。

   「まさか1発とは。中々の力、少し舐めてました。では、私が直々に相手してあげましょう!!」
   「その相手!ゼーハーゼーハー……俺が引き受ける!」

   すると、後ろから聞こえてきたのはハイドラの疲れ果てた叫び声だった。
   ハイドラは壁に手をつき息を整えていた。

   「ハイドラ、もしかしてお前」
   「言うな!それ以上言ったら本気で殺す……!」
   「ふむ、どうやら道に迷っていたようですね。ハイドラ」
   「うるせぇ!!てか、ホウルド!俺と勝負しろ!」
   「うるさいですね、。私の相手はこの人たちなのです」
   「知るか!俺と勝負しろぉ!!」

   ホウルドはハイドラの言葉を無視し俺たちに向き直る。

   「では行きますよ!私を倒せますかね?」
   「!?」

   瞬間、ホウルドは上へ飛び上がり魔法で生成した剣を力強く振り下ろす。
   しかし、それを防いだのは同じく魔法で剣を生成したハイドラだった。

   「「ハイドラ!」」
   「お前達は先に行け!ここは俺に任せろ!会いたかった奴はこいつなんだ!」
   「あなたもしかして、そういう趣味だったのですか……?」
   「お前はこういう時でも余裕そうだな!」

   俺たちはこの場をハイドラに任せ、奥にある道に向かって走る。
   だが途中で足を止めた。

   「ハイドラ!1つ言っとく!」
   「なんだ!」
   「そういうの死亡フラグだから気をつけろ!」
   「余計なお世話だ!早く行け!」
   「おう!」

   俺たちは魔王のいる玉座の間へと向かって走り出した。
  

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