忍者修行は楽じゃない?!〜普通ライフを送るために修行せざるを得ませんでした〜

フユヤマ

30話 決着

 
   『な……んでだ…?この俺が……?』

   ドサッ! っとその場で悪魔は仰向けに倒れた。
   予想通り、悪魔は再生しなかった。

   俺は悪魔の胸を貫き、その後地面を勢いよく擦りながら紗由理が縛られている場所に行き着いていた。

   「……浩介…」
   「紗由理、今助けるからな…」
   俺はすぐに立ち上がり、紗由理に駆け寄る。
   どうやらマナの力で縛られていたようだ。俺が触れるとマナを吸い込んで消えていった。ずっと縛られていたせいで紗由理は俺の方に倒れる。それをしっかりと受け止める。

   「浩介……無茶しちゃ駄目って言ったのに…」
   「そんなこと言ったって、紗由理、殺されかけたじゃねぇかよ」
   「でも、こんなにボロボロに…」
   「こんなの、あの時に比べたら大したことないよ」
   「私、浩介に酷いこと言ったのに…」
   「でも俺はもっと酷いことした。紗由理と約束したのにそれすら忘れていた。俺は自分が情けなくて仕方なかった、本当にごめん…」
   「でも、私……」
   「それに、酷いことしたとはいえ親友を助けるのに理由なんていらないだろ?」
   「っ……!」
   「ヒーローは遅れてくるもんだからな!」
   「調子の良いこと言っちゃって……ぐすっ…」
   「……紗由理?」
   「あり…がとう…!助けて…くれて!ありがとう…!そして……ごめんね…!怖かった…怖かったよぉ!浩介ぇえ!」
   「紗由理…」

   恐怖から安心に変わり、緊張感がほどけたのか紗由理は子供のように泣きだした。無理もない。あの時のは確実にトラウマになっていたろう。それなのにそのトラウマがもう一度起きてしまったのだ。
   俺は紗由理が落ち着くまで頭を撫でてやった。

   『なぜだ…?なぜお前は俺に勝った…?』
   「「っ?!」」

   悪魔が死にものぐるいで問いかける。
  
   『なんで、てめぇみてぇな雑魚が俺なんかに…!』
   「そんなものもわからないのか…?」
   「師匠?!」

   師匠は自分が気絶していた場所からスタスタと歩いていた。さっきまでの流血が嘘のようだ。

   「師匠?!大丈夫……なのか?」
   「あぁ、あの気絶は嘘だ。あの血は懐にしまっていた血糊で再現したものだ」

   そう言うと、師匠は懐から血糊が入ったペットボトルを出していた。
   ……なんのために気絶したフリなんて?

   「悪魔。お前が負けた理由は浩介の『可能性』に危惧してなく、調子に乗ったからだ」
   
   師匠は倒れている悪魔に淡々と告げる。
   
   『可能…性?』
  
   「そうだ、お前が紗由理を殺そうとした時。あいつはお前と同じように『覚醒』をした。お前が紗由理を殺そうとしたことに対する怒りと、私を戦闘不能にしたことに対する怒りによってな」
   「俺……覚醒してたのかよ…?!」
   「あぁ、私はお前のマナが吸収されたことでもしかしてなと思ってな。賭けは成功のようだ」
   「もし失敗したら…?」
   「その時は封印してたからどちらにしろ大丈夫だ。まぁ、修行も兼ねてやらせたことだ」
   「なんて人だ…」

   俺の師匠は本当に修行のさせ方あってんのか?不安になってくるんだが……。
   
   『それだけで……俺を越したのか…?』
   「お前の覚醒と浩介の覚醒は違う。お前は自分がコケにされたことで覚醒した。けど、浩介は大切な人を守るために覚醒した。お前は自分のことしか考えてないんだよ。浩介と違って」
   『……くそっ…』
   「まぁ、後浩介の頭の回転が早かったからだな。瞬時にあの作戦が思いつくなんて普通はできない。それも覚醒のおかげなのかもしれないがな」
   
   俺もあれは賭けのようなものだった。あそこで俺があいつのマナを吸収できるということを思いついてなかったら、絶対にやばかった。

   『再生……できねぇ…!』
   「ふっ……浩介がお前の胸を貫ぬこうとして触れたその瞬間にすべてのマナが浩介がエンチャントしていた拳に移ったんだな。お前が吸収できるなら浩介も吸収できて当然だしな。それにしてもマナで再生していたんだなやっぱり」

   気づいてたのか。流石だな、師匠は。

   「師匠、そいつはどうすんだ?」
   「こいつは……封印しようと思う。そしてボスのところに持っていく」
   「……そうか」

   俺的には殺してほしいところではあるが。まぁ異質らしいしな、また殺しそびれたら大変だし仕方ないか。

   「それじゃあ…」

   師匠は懐から何か黒い布を取り出すと、悪魔の体全体を覆い隠す。

   「………封印っ!」

   布に手をかざし、マナを送りそう唱えると悪魔の姿は無くなっていた。
   なんか呆気ないな……。

   「これは『封印布』と言って、特殊だったりする悪魔を封印する布だ。数が少ないため重宝している」
   「へぇ〜……はっ!そうだ!どうすんだよ、師匠?!」
   「ん?……あぁ、そういうことか。うーん」

   俺の心の中を読みとったのか、師匠は顎に手を当て考えだす。
  
   「ボスに話してみる。お前たちは家に帰れ」
   「わかった」

   師匠はそう言い残すと、すぐに消えてしまった。と思ったらまたサッ!と戻ってきた。

   「ぅお!?ど、どうしたんだ?」
   「浩介……そのなんだ…ありがとうな、私を助けようとしてくれて。まぁ、紗由理がいたからだと思うんだがな…?それでも、その…ありがとう」
   「師匠…」

   師匠にも素直なとこあるんだな。可愛いな、おい。

   「用件は済んだっ!わ、私はボスのところにいく!しっかり休め!明日の修行は厳しくいくぞ?」
   「そりゃねぇよぉ!」

   師匠は顔を赤らめながらサッ!とまた消えてしまった。

   「………」  
   「さ、紗由理…?」

   紗由理がジーっとこっちを睨んでくるんだが。

   「師匠と良い雰囲気じゃん…」
   「そんなんじゃないからやめて?!」
   「ふふっ…浩介からかうの面白い」
   「あのなぁ……」

   紗由理に余裕が出てきたようだ。良かった。これで一件落着かな。

   「じゃあ、帰るか…」
   「…うん!」

   俺たちはボロボロになりながらも帰路に着いたのだった。

   
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  『さて、面白いことになったなぁ。僕もそろそろ……』

   神様はそう微笑を浮かべながら、浩介と紗由理の後ろ姿を見つめていた。

   
   
   
   
   

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