忍者修行は楽じゃない?!〜普通ライフを送るために修行せざるを得ませんでした〜

フユヤマ

21話 合体



「やぁ!『凍』の中にいた式神、雪女のマシロだよ!よろしくね、マスター!」

着物を着た、黒髪のストレートで前髪が若干ぱっつんで、俺より少し年上な感じの色白美人さんが軽快な挨拶をしてきた。
ていうか、式神に歳とかあるのか?

「………え?」

俺たちは呆けていた。
仕方ないよ、何もないところから人が出てきたら硬直するでしょ。

「…あれ?やぁ!ややややぁ!マシロだよ?」
「……近い近い近い!てか寒っ!?」

マシロは挨拶を連発しながら俺に近寄ってきた。
本当に近い!ていうかこのお方から冷気を感じるんですが……?

「そりゃだって私、雪女ですから!」
「いや、堂々と言われても……」

ほら見ろ!師匠なんか何が起きたか分かんないみたいな顔でずっと硬直してるぞ?
ていうか、雪女ってもっと清楚って感じがしてたんだけど……。随分な元気っ子だな、おい。

「私はあなたが持ってるその刀、『凍』に組み込まれてた式神なの。んで、その式神の名称が『雪女』。でその雪女の名前が『マシロ』。分かる?」
「そんぐらい、バカでもわかるわ!」

突然すぎて、テンパっただけだっつーの。
師匠は未だに目を点にしてるけど。

「要するに、あなたは私のマスターになったってこと!でも、まさか出てこれるとは思わなかったけどね」
「え、自由に出てこれないの?式神って?」

師匠に聞こうと思ったがまだ思考停止状態のようだ。と思ったら、頭を横にブンブン振り回して目を覚ました。

「……ごほんっ!…あぁ、式神は普通は出てこれない。だが、恐らくお前の器に反応したのだろう。そのせいで組み込まれていたマナの術式が破壊されたんだと思う」
「……え、俺のこの器ってそんなに影響及ぼすの?」
「実際、私が手に取られた時、マスターの手から出てくるマナがとっても美味しかったし、体が勝手に疼いて出てきちゃったんだもん」
「……なにその薬みたいな効果…」

俺の器というより、俺のマナが悪魔にとっては美味のようだ。
……あれ、こんなんで悪魔倒せんの?

「大丈夫だ。実際悪魔にマナをぶつけなくても、見ることができれば刀などで直接攻撃を与えればいいだけのことだ」
「なんだ、それなら良かった」

これで悪魔は倒せませんとか言われたら、今までの修行が全て無駄になるところだった。

「そういうことだから、よろしくね!マスター!」

そうはにかんで、雪女ことマシロが手を差し伸べてきた。

「マスターってなんか照れるけど、……まぁ、よろしくな!」

俺達は握手を交わした、が……

「あ、私の能力、触れた物や周りの物とかを凍らせる能力だから!」
「………」

俺はマシロに触れた途端に氷漬けにされてしまった。
それ先に言ってくんね…?
ちなみに、マシロの後ろにあるテレビもよく見たら氷漬けになっていた。これは修理にださないと駄目だな…。
……ってそうじゃなくて!まじで凍え死ぬっ!!

「ちなみにこうやって……パチンって指を鳴らせば、元通りになるよ」
「はよやれよ!」

いきなり現れたやつに弄ばれる俺、情けねぇ……!
掌と膝を床につけて四つ這いのポーズをとってしまった。
っと、その時俺の後ろにあった2つの刀、『焔』と『樹』がそれぞれ輝きだす。
……まさか、これって…
俺が恐る恐る振り向くと、そこにはものすごいサイズの瓢箪(ひょうたん)を背負っている赤色の髪が目立つ女の子と、鼻の長い面を顔半分に装着していて、左手には扇子をもつ、銀髪の女の子が立っていた。

まぁ、予想通りなんだけどさ……。

「………っ!!?」

師匠はいつでも抜刀できるように構えているが、カタカタと手が震えている。
ビビりすぎでは……?なんだか新鮮だな…。

「なにやってるの、マシロちゃん……?良いマナの匂いがしたと思ったら体が疼いてきたから外に出てきたけど……って、知らない人がいる?!」

ピンクの髪の子が口を開いたかと思ったら俺の方を見て怖がり、隣にいた銀髪の子の後ろに隠れる。
そんな怖い顔してる?俺……。

「……私たちが寝ている間に何が起こってたんです?マシロさん」
っと、銀髪の子が目を擦りながらマシロに話しかける。

「浩介が私のマスターになったの!」
「いやいや、なんで名前知ってるの!?」
「そんなの、手に取った時にマナと同時にマスターの情報が流れてきたからだよ!ちなみに趣味はゲームでしょ?」
「そんな余計な情報が入ってくるんだ。まぁ、合ってるけど」

マシロとやりとりしてると、銀髪の子がこっちの方を向く。

「『樹』に組み込まれている式神、天狗のアマです。そして、こっちの子は『焔』の式神、酒呑童子のノノです」
「あ、あぁ、高島浩介だ。よろしく」

っと、何気なく握手を交わす。
……やべ!なんかされる!
と思ったが、何も起こらなかった。
ていうか、中々手を離してくれない。
結構力入れてるんだけど……。あ、あれぇ…?

「こ、このマナは……!す、すごく美味しいですっ!

「ちょ、ちょっと、アマさん?は、離してくれるかな…?」
「ほら、ノノ!あなたも触ってみて!すごく美味しいから!」
「人の話を聞いてくれないかな?!ていうか何その食べ物感覚?!」

酒呑童子のノノは恐る恐る俺の握られている手に自分の手を置く。
と、すぐに驚いた顔になり、綻んでいた。

「……美味しいっ!こんなの、初めて…!」
「私も初めてです、こんな美味しいマナ!」

僕も初めて!こんなに女の子たちから手を握られるんなんて!

「その人が私のマスターなんだよ!どう?いいでしょ?」
「「いいなぁ!」」
「現金な奴らだなおい!」

まぁ、でも3つは駄目なんだよなぁ。1つの刀じゃないといけないわけだし。それはもうマシロに決まっているわけだし……。

「なぁ、師匠」
「…な、なんだ?」
「3つとももらうわけにはいかないよな?」
「さすがに駄目だろう。それに、3つも携帯していたら邪魔になるだけだろう」
「だよなぁ。合体みたいなことができたら良いんだけどなぁ……」

俺がふと思ったことを呟くと、マシロが指を鳴らし
「それだ!」と大声で叫んだ。
まだ朝なんですけど……。

「それだって…まさか合体できるのか…?」
「もしかしたらできる!試しにやってみよう、2人とも!」
「う、うん!」
「やってみましょう」

なんか変な展開になってきたなぁ。

すると、式神の3人が向き合い、腕を前に出しお互いの手がぶつかるかぶつからないかあたりで静止していた。
何がおこるんだ…?

「それじゃ、いくよ2人とも!」
「うん」「はい」

マシロが合図を出すと、3人ともがそれぞれのマナのオーラを大量に放ち始めた。
そして、次第にそのオーラが混ざり合う。 
黄色、ピンク、水色、そして白とさらに混ざり合っていく。
いつの間にか、マシロたちの頭上にはそれぞれの刀が浮いていた。
掌ではマナが混ざり合っていく。
すると、刀が回転を始め、次第に刀同士が合体し始める。
それと同時に混ざり合っていたマナが白色に強く輝きを放ち始める。
俺と師匠は光を遮ろうと腕で顔を隠そうとするが、それ以上に光が強すぎる。

そして、輝きがなくなると俺の足元には白い刀が置いてあった。
俺はそれを手にとる。……力が漲るような感覚がする。

「どうやら成功したようだね、マスター」

刀から声が聞こえたと思ったら、目の前にマシロが現れた。
……あれ?

「あれ、合体したんじゃないの?」
「さすがに精神は合体しなかったよ!そうしたらなんかつまんなそうだからね!でも、マナ総量が1になっちゃったんだ!」
「マナ総量が1ってどういうことだ?」
「私たちが元々持っているマナの量を数値で1って表すんだよ!3人と合体したから3になっていても良いんだけど、流石に1になっちゃったみたいなんだよ!」
「なるほどぉ…」
「でも、『凍』、『焔』、『樹』の力すべて使えるからそこは安心して?」
「おぉ!まじか!」
「そして、この刀は『羅』っていう名前にしたの!どう?」
「おぉ!かっけぇじゃん!」

俺が感嘆な声をあげると、ノノ、アマが刀から出てきた。

「……こ、これから、よよ、よろしくおねがいしし、します!ご主人!」
「よろしくお願いしますね。旦那さん」
「……あぁ、よろしくな!」

雪女なのに活発的で、酒呑童子なのに人見知りで、天狗なのに謙虚……。
俺の知ってる妖怪と正反対な性格をした3人の主になった俺だった。

「じゃあ、早速酒呑童子と天狗の能力を見ていこう!」
「そうだな、そうするか!……師匠、どうする?」
「……え?あ、あぁ、そうだな。この前私が千切りにした木の場所でやるべきだろう」

師匠にも、知らないことがあるようだ。現に俺が話しかけるまでぼーっとしてたからな。

「よし、じゃあ、早速いきますか!」

俺はそう言って、刀を片手に持って家を飛び出そうとしたが、思いとどまった。

これ、銃刀法違反じゃね……?!
結局、隠せるような袋を準備してからいくことに決定したのだった。


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