英雄の終わりと召喚士の始まり

珈琲屋さん

1-24 一番の罪



「あっ、ティルヴィング忘れてた。
んー…ちょっと二人とも下がっててくれる?危ないから。そういえばあの女の子なに?」

ウルっ!そうだ!気を失ったんだ!

地震による落石が三人を襲うが、ロプトが魔力の壁でそれを防いだ。

「一応聞くけど巻き添えで死んじゃっても大丈夫ー?」

「大丈夫じゃない!助けないと!」

「待てテュール!お前じゃ駄目だ。俺が行く」

駆け出す俺の肩を掴み、余りの力強さに引きずり倒される。
なんだ…?ウォーデンさんがこんな慌てるなんて、俺じゃ駄目?

思考を停止し固まるテュールを置き去りにウォーデンさんはウルの元へ。
地震は激しさを増している。

「テュールちゃんは魔剣が嫌いみたいだね。あんな目にあえば仕方ないか…」

「呪いが嫌いなんだ。人を狂わせて、苦しみしか与えない」

憎しみの籠った目でティルヴィングと呼ばれた魔剣を睨み付けるテュール。
その姿を悲し気に見つめるロプトがいた。

「…それでも罪はないよ。呪いにも魔剣にも。あるとすればそれは使う者の罪、そしてそれを作った奴が一番の罪だ」

「作った奴?」

「呪いなんて恐ろしい呼び方をされてるけどね。元々は単なる祈りだよ、信仰魔術。それがいつしか災いを祈るようになった。呪いという名を付けられて」

悲しそうな目で向き直り、俺を諭すように見つめるロプトに何も返すことが出来なかった。

「剣と同じだよ。守る為に使うか、殺す為に使うか、どちらにしろ結果は変わらない。悦楽の為に利用された剣もいる。斬り続け怨念が募り、いつしか本質まで変えられたのが魔剣。本当は誰かを守るために作られたのかもしれないのにね」

「お前がシルフィにしたのも呪いだろ!?そのお前がそんな事を言うのか!?」

「そうだよ。僕は僕の守りたいものの為に、この山の主を縛る術をかけた。君もそうだろ?守りたいもののために斬り続けた、人も魔物も。斬られた者に親しい存在は君をどう思うかな?」

…その通りだ。俺も沢山の命を奪ってきた。誰かを守るために。こいつもそうしただけ…?

「…使う者の罪……そうだな。俺がしてるのは単なる逆恨みか……」

「恨みを持つなとは口が裂けても言わない。君の感情は君だけのもの、誰かが決めつけるものじゃない。
でも行動の意味は理解して欲しかったんだ。衝動に身を任せれば、いつか君を滅ぼす」

…参った、ウォーデンさんみたいなこと言うな。

頭をかきながらそっぽを向くテュールにロプトは快活に微笑む。

「やっぱりテュールちゃんは可愛いね、それに頭がいい。ウォーデンが気にいる訳だよっ」

「…俺も28になる。ちゃんづけはやめてくれ、ロプト」

「まだまだひよっこだよ、テュールちゃん」

ケタケタ笑うロプトと顔を顰めるテュール。二人の元へウルを背負ったウォーデンが戻ってきた。

「なに気を抜いているテュール。ロプトは敵だぞ?」

っ!そうだ、信用しないと言っておきながら…

「むっ!ウォーデンはまったく可愛げがないね…まぁ間違いはないけど、敵意はないって言ってるじゃないか」

「だからって味方ではないだろう。それで、なにが起きるんだ?」

「意地悪だねぇ……あの剣は「魔剣ティルヴィングだろう」。」

さっさと結論を話せと言わんばかりにウォーデンが言葉を合わせたが…逆効果だったようだ。

「本当にウォーデンは意地悪だ!今のは僕の決め台詞だろう!君はもっとテュールちゃんを見習った方がいい!」

頬を膨らませて憤慨した様子を見せるロプト。地団駄を踏んでまるで緊張間がない。
本当に子どもみたいだ。

「この馬鹿を見習う馬鹿がどこにいる。俺が聞いてるのは結果だ」

……何故俺が罵倒される事になる…納得いかない。

「魔剣の呪いを流したんだ。もうすぐ魔力の奔流が起きる」

「防げるのか?」

「僕がいれば大丈夫だよ。同種の壁を作るから」

「そうか。それならここは任せる」

また置いてけぼりだ…

「まったく意味が分からないんだけど……」

ニタァと嬉しそうに笑いながら、しょうがないなぁとわざとらしく肩をすくめるロプト。
…説明したかったんだろうな、さっきの不満そうだったし。

「あれはティルヴィング。【鞘から抜けば必ず誰かを殺す】【持ち主の願いを三つ叶えるが最後には破滅を齎す】この二つの呪いがかけられた悲しい魔剣なんだ。その災いをこの山の地脈に流したんだよ。今は呪いと地脈のぶつかり合いの最中、それでも呪いの侵食は止まらない。もうすぐこの山は死ぬんだ」

地響きが起こり、溶岩は暴れ、壁が崩れ落ちる。

「死は覆せない。だからあれ以上戦ってても意味がなかったんだよ。そんな顔をしないでおくれテュールちゃん、仕方ないんだ。それにあの魔剣もね、眠らせてあげないといけないんだ」

……どんな顔をしているのだろう。自分でもわからない。

「昔ね、ある国の王様が命令したんだ、戦争を終わらせる最強の剣を作れって、当時の名工にね。名工は断った。
剣は誰かを殺すためではない、守るためだってね。そしたら王様はどうしたと思う?
家族を攫い脅したんだ。家族の命を助けたければ言うとおりにしろってね。
その名工は作るしかなかった……本当にすごい剣だったよ、力強さに溢れてた。でもね完成する間際に呪いを込めたんだ、それがティルヴィング。テュールちゃん…誰が一番の罪だろうね……」

俺にはわからない、誰を責めていいのか。ただやり場のない怒りだけが俺の心を満たしていく。

「そろそろ爆発するよ!飛ぶから気をつけてね!」

おどろおどろしい紫の魔力が全員を包むシャボン玉のように球体に展開されていく。

…これは呪術?呪いの壁?飛ぶ?
難しい話ばっかり続くから思考が鈍くなってるみたいだ。

地面が割れ、崩落は勢いを増していく。
気付けば汗を流す程の気温は低下し、溶岩は妙な黒い塊に変貌していた。

色を失くす世界、止まない崩落、揺れる世界。
まるで世界の終わりを見ているようで。力の無さを知らしめられているようで、ただ見ているだけしか出来ない。

割れた地面の底から同じ紫の光が噴火し、天井を高く高く突き破る。

紫のシャボン玉は光に呑まれ、空へと打ち上げられた。



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