英雄の終わりと召喚士の始まり

珈琲屋さん

1-12 サウスイースト五番街 アーミーパサージュ



「こっちこっち~!お兄さん早く~!」

「そんな急がなくても剣は逃げないだろーに」

「逃げるの~っ!当たり前だと思ってたら知らない間にいなくなっちゃうからちゃんと捕まえておかなきゃ駄目ってネネお姉様が言ってたの~っ!だから急ぐの~っ」

どこにムキになっているのか…それに誰だネネお姉様って。なんかわからんが、絶対に駄目なタイプのお姉様だと断言できるぞ…





――サウスイースト 五番街 アーミーパサージュ――
 


「着いたの~っ!サウスイーストで武器ならこの五番街のアーミーパサージュなの~!」


アーミーパサージュ――

まぁ簡単に言えば武器防具屋だけで構成されたアーケード…商店街だ。
ずらっと並んだ店の数は、その人混みのせいもあり終わりが見えない。

なるほど、これだけの店があるのなら大抵の物は揃うだろう。
こんなのが各エリアにあるのか…しかもこの通りは武器なだけで他のアーケードも存在するのだろう。
さすが交易都市と呼ばれるだけはある。

「すごいな、これ…まぁ今日は時間もないし、とりあえずそこのお店で見てみよう」

「欲しいもの探さない~?」

「ん、今日は急ぎだから間に合わせになるんだ。また今度ゆっくり探してみるよ」

そして一番手近な店へと足を運ぶと…


「遅かったですね、主殿。先に一通り物色しておきましたのでどうぞ」

「…色々言いたい事はあるけどまぁいいや。なんにも仕掛けてないだろうな……?」

「フフッ!他人様のお店に罠など仕掛けるわけがないではありませんかっ!お戯れを…っ」

「お友達〜?」

「うーん、お友達というか顔見知りというか……ストーカー……?」

「ウルお嬢様でございましたね。私、テュール様の身の回りのお世話をしております、アゾットと申します。以後お見知り置き願います」

「……精霊さん〜?」

「…なるほど、言い得て妙ですね。ですが私は悪魔でございます。一緒にしてしまっては精霊様に失礼ですよ」

「悪魔…?ん〜わかんない〜」

「えぇ、大丈夫です。この身はテュール様の為に。」


大仰な仕草で俺への忠誠をウルに表すアゾット。俺の為というのならまず嫌がらせを辞めてくれ。

「アゾット、なんで名前を?」

「おや…?お気付きになられませんでしたか?主殿が串焼きで幼女を餌付けし、連れ去ろうとして大泣きされている所から目にしておりましたので…」

「おいっ!!捏造ヤメロ!んで人攫い扱いするな‼」

「客観的に見るとそのように見えたのですが…違いましたか?」

ウソだ……傍から見れば俺は食い物で小さな女の子を釣ろうとした下種な奴だったのか……
そういえば通りすがりの人たちから妙な視線を感じた気がする…
あれはそういう風に見られていたってことか!?

…アゾットの口元が微かに緩んでいる…
嘘なんだよな!?からかってるだけだよな?!

「えぇ、冗談ですよ。それはそれは仲睦まじい兄妹の様でした。ちょっと面白そうだったので見ていただけです。
あ、あと変な人間が付き纏っていたので処理しておきました。
しばらくは手出ししてこないかと思います。」

…そういえば途中から気配が消えたからあきらめたのかと思っていたが、アゾットがやったのか。

「そうか、手間をかけたな」

「いえ、特に手のかかるような者ではありませんでしたので。
それより主よ、剣を探しに来たのでしょう?
既製品でよろしいのですかな?」

「…あぁ。扱いきれない代物を提げておくのは剣に対する冒涜だ」

「そうですか…ではあちらにありましたので行きましょう」

「あぁ。 …ん?」

ウルが頬を膨らませ、拗ねた様子で俺の外套を引っ張っている…
構ってほしかったのか…
っていうかお前そもそも俺を尾行する筈だったろ。いいのか、それで?

無言の抗議に肩をすくめながら仕方ないとその小さな体を持ち上げ肩車してやる。
花が咲いたような笑顔を浮かべるウルを見て俺も思わず笑ってしまう。

「…やはり確信犯でしたか……」

違うっ!違うぞ!断固否定する!!
ここまで来たら抗議は無駄だ。そのまま目で訴え続ける。
俺は数打ち品と書かれた看板の横で大量に剣が差し込まれた樽を見つけると、
無造作に一本引き抜き、もう一つの目当てを探そうとすると店員に声をかけられた。

「ご来店ありがとうございます。他にもなにかお探しですかな?」

恰幅の良い丸々と太った親父が手もみしながら近付いてきた。

「片手槍が欲しい。出来るだけ軽い丈夫なもので。予算は…これと合わせて銀貨2枚で買える範囲で」

数打ち品の剣を差し出しながらそう言うと、店主は俺が右腕しかない事に気付き思案する。

「でしたら…こちらのショートスピアがよろしいかと、合わせて銀貨1枚と半分、銅貨50枚で結構です」

ふむ…至って普通の槍だし、まぁ妥当なところか。

「ありがとう。じゃあそれで頼む。また来るよ。」

「ありがとうございます。無事に帰ってきて、またうちを贔屓にしてもらえるのをお待ちしています」

店主はそう言いながら微笑みかける。
大した上客でもないのに、社交辞令でもそう言ってもらえると気が楽になる。

買ったばかりの武器を背負いながら店を出て、ふと思いを馳せる。

良い奴もいれば、悪い奴もいる…か。

王国騎士やシフ・アースのような人。ナンナさんや他の受付嬢。
ここの店主や串焼きのおっちゃんに…俺をつけていた奴ら。

もう日の沈み切った空は雲一つなくて、
俺の行く末に何が残るのか、誰かに教えてほしかった。



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