英雄の終わりと召喚士の始まり
1-6 精霊国評議長
――双方、剣を収めなさい!――
カツ…カツ…と通路に響く足音
フードを被っている為、顔立ちは分からないが分かることもある
小柄な体格の割に主張の激しい双丘。体型と声からして女。体幹のぶれない歩法は武を嗜む者の証。
「剣を収めなさいと申した筈ですが?」
凛とした佇まいから発せられる澄んだ声からは強い意志が感じられる。
これ以上面倒に巻き込まれるのはごめんだと、テュールは大人しく剣を収めると騎士と女をまとめて視界に入れる為に一歩退いた。
「よろしいでしょう。騎士様方も剣を収めなさい。これ以上の騒ぎは無用です」
敬称をつけながらも、容赦なく言い放つ女に対して、簡単に引き下がる騎士ではない
「何処の誰か知らぬが、粛清の場を乱すのであれば貴様も同じ目に合うことになるぞ、女よ!」
粛清の場とはまた都合の良い言い方をする。
この自称正義の騎士様はなにもわかっていないようだ。場の空気はこの女が完全に支配している。
加えて胸元にある勲章は確かノルンの涙とかいうグリトニル評議員の証。
ただの門兵が敵う相手ではない。剣の腕も、弁舌の上でも。
「これ以上の騒ぎは無用と申しました。
私はグリトニル評議会 精霊国所属議長 シフ・アース。この場は私が預かります」
フードを外し、金色の美しい長髪を優雅になびかせながら女は告げる。
その所作、佇まいの美しさにギャラリーは息を止め先ほどとは違った意味でまた騒然となる。
――シフ・アース…本物っ!?――金色のシフだ!やべっ生で見ちゃったよ!――シフ様…あぁ、シフ様――シフって精霊国のエースの?!なんでこんなところに――氷の女王様…踏んで欲しい…――
想像以上に大物だったようだ…誰か知らんけど……ファンが多いのは分かったが、なんだ踏んで欲しいって。変態ばかりかこの国は。
もう群衆も俺の存在など気にしていない。しれっと抜けていいかな?
「…っ!これはこれは精霊国の若き議長様。お見苦しい所をお見せ致しました。
いやなに犯罪者がグリトニル領内に入る所でしたので処分致そうとしていた所。
これは門番を司る我らの使命。議長様は中央にて領民の為の政策に精を出して頂ければ」
いけしゃあしゃあとよく言う。善良な一般人に斬りかかっていただけのくせに。
お偉いさんの出る幕ではないと言いたいのだ、このクズは。
「…委細承知しました。が。この場は私が預かると申した筈です。
王国はグリトニル評議会に対して異を唱えると?そういう事でよろしいのですね?」
「いえいえ滅相もありません。この者の名はテュール・セイズ…王国の犯罪者だ。
その名は議長様もご存知の筈ですが…? …それとも犯罪者の肩を持つと? 
議長殿こそ、これ以上は王国に対する内政干渉とみなされますよ?」
…呆れて物も言えない……このクズ騎士は何を言っているのか…
「確かにその名は覚えがあります。ですが、その者が一体何をしたのですか?」
「ッ!?なにをしたか…だと!?ふざけるな!
我らが口からこやつの狼藉を語らせるなど、愚弄するにも程があるっ!!」
「いえ、そのようなつもりではありませんが、その者の罪状を尋ねているのです。何をもって犯罪者としているのか」
「っ!…この男は…多くの同胞を理由もなく皆殺しにした!王国民として…同じ人間として許せぬ所業である!!」
「ふむ…では被害に遭われた方々のご遺体はどちらに?」
「…ここにはいない…同胞は皆、国が丁重に葬ってある」
「では、なぜこの者は囚われていないのですか?仮に逃亡者であれば、それほどの重犯罪者は国を挙げての捜索を行うのが道理かと」
「…過去の功績を鑑みて、処罰は王国からの永久追放という形で釈放されている…」
形成の不利を悟ってか、心なしか声も小さくなっている…よし!そのままやっちまえ!
「では既に裁かれた後であると…にも関わらず証拠もなく!ただ罪を掘り起こし!裁こうとしている!
仮にこの者が犯罪を行なったのであるならば、
証拠をあげ!然るべき部署へ連行し!然るべき者に処罰を求めるのが道理ではないのか!?
門番である貴公らはその証拠をあげ、領民に対する危機を未然に防ぐのが役割!
貴公らの行いは越権行為に他ならない!
加えて、この場はグリトニル領域内!内政干渉はどちらの行いかっ!?」
シフ・アースの放つ怒気にあてられ満ちる静寂…
ぐぅの音も出ないとは正にこの事だろう。
よくぞ言ってくれたお姉さん!あんたは立派!
クズ騎士は言い返す事も出来ず屈辱に顔を真っ赤に染めている。
だが何も言い返せず、ようやく捻り出せたのは侮蔑に塗れた言葉だった。
「くッ…!この穢れた血が…!」
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