転移してのんびり異世界ライフを楽しみます。

深谷シロ

21ページ目「されど僕は脱出する」

「これからどうする?」
ガイコツ殺戮骸骨は私達の行く先には絶対にいないわ。」

 空中のエレナと会話する。多分、エレナの言うことが正しい。僕もそう思う。リルやガリメデルスを見ても、賛成のようだ。

 ……これしかないか。

「全力で入口に戻るぞ!今日のうちに地上へ戻るっ!!」
「分かった!」「うん。」「分かったぞ!」

 それぞれが反応してくれる。

 僕達は体を180度回転させる。来た道を見る。そこには勿論、多くのスケルトンが。

 しかし、気にしない。邪魔をするヤツらは全て薙ぎ倒す……!!

「〈魔族化〉発動っ!!」

 僕は奥の手を使った。この手はあまり使いたくなかったが、この状況では仕方が無い。ガイコツ殺戮骸骨がアジトの外に出れば、危険極まりないからだ。

 予想レートSSSの殺戮骸骨ジェノサイドスケルトンは、伊達の強さを誇っている訳では無い。

 そこらの冒険者は皆戦っても皆死ぬのが落ちだろう。それだけは防がなくてはいけない。

 恐らく外に出れば、王家からの討伐依頼が国中に出されるとは思うが……。

「タクト……それを使うの?」

 僕はハーメリアルを出て、〈魔族化〉を制御する為に毎晩発動させた。その度に暴走し、リルやエレナが止めてくれた。

 今回も失敗するだろう。だが、一刻も争う事態。のんびりしている暇はないんだ。

「……タクトのその眼。言っても聞かないみたいだね。」
「ゴメン、リル。」
「タクトが暴走したら私がまた止める。」
「頼むよ。……それじゃあ、行くぞ!」

 僕は〈魔族化〉が完了した。ここから負の感情が僕を支配しようとする。この負の感情……嘆き、悲しみ、苦しみ、呆れ、絶望、失意……全ての負の感情を背負い、それを耐え切る。

 それを耐えきって初めて〈魔族化〉を制御するのだろう。僕はそれをしなくてはならない。

「グワァァァアァア!!!」

 一気に負の感情が流れ込んでくる。特に近くに負の感情を持つ生物がいる場合、負の感情はさらに力を増す。

 今は周りにスケルトンがいる。それも沢山の。スケルトンは負の感情を持つ魔物だ。負の感情は力を増す。

「ギャァァァァァァア!!!」
「……」

 リルは見ていてくれた。それが有り難い。無理に止めようとしなくていい。僕にはこれを制御する事が僕はこの世界で生きていくための1つの重要項目だと考えている。

 これを制御する事が1つのターニングポイントになるとも……。

 僕にはこの力を操れるのか。負の感情に呑み込まれてしまうのではないか。こんなに苦しい事をしないといけないのか。その不安や疲れが僕の負の感情をさらに強くする。

 段々と負の感情は僕を侵食する。

『助けて……。』

 負の感情に覆われていく僕の心に誰かが呼び掛けた気がした。何だろう……。

『助けて……。』

 その声はどこか遠くで聞こえる。リルやエレナ、ガリメデルスとも違う。この声は……王女様?

「……王女様?」
  
 リルが聞いてきた。どうやら最後の言葉が口に出ていたらしい。

「あー、うん。王女様の声が聞こえたんだ。」
「あれ?タクト操れてる?」
「……あれ?」

 どうやら負の感情が遠のいていったらしい。もしかすると王女様の〈魔力無効〉だったりするのだろうか。

 だけど……今はそんなこと言っている暇じゃない。

「リル、行くよ。エレナとガリメデルスも。」
「うん。」「ええ。」「ああ。」

 僕はあるアイデアを思い付いた。

「ちょっとみんな集まって。」
「「……?」」

 3人は疑問を持ちながらも集まってくれた。僕はあれを使う。

「【闇結界】。」

 〈闇属性〉の魔法だ。対象を結界に閉じ込める。だが、使い道は違う。

「ゴメン、手荒だけどこれで全力で入口まで行く。」

 そう言って僕は再び入口の方を向く。入口はここからは見えない。だが〈魔族化〉が成功した今、入口までの距離など1歩に等しい。

 僕は地面を強く蹴る────



 ────風になった気分だ。僕はたった1回、地面を蹴った。そして、入り口へ着いた。

「着いたよ。」

 僕は自分で発動していた【闇結界】を解除する。

「それが〈魔族化〉の力か……ん?タクトは魔族になってないぞ?」
「え?」

 ガリメデルスは僕にそう告げた。いや、でもこのスキルは〈魔族化〉だから、魔族なはず……。

「そのスキルにはもう一段階ありそうだ。タクトが今なっているのは魔族ではなく……半魔族・・・だ。言うなれば……魔人・・だな。」

 そうか……だから口調がこの世界の言葉を話せているのか。いつも暴走した時は魔族言語を喋っているからな……。

 僕は〈魔族化〉を解除する。元の姿に戻った。そして、もう1回〈魔族化〉をする。

 1度成功したらその後はスムーズになるようだ。

「入口が開いているということはガイコツ殺戮骸骨が外に出たという事だ。一応、元いた部屋にも行ってみよう。」

 僕達は〈死者の花園〉からアジトへ戻り、ガイコツ殺戮骸骨と最初に遭遇した場所に行った。

 が……誰もいない。

「もぬけの殻か。」
「みたいだね。」
「タクト、どうする?」

 リルとエレナが返事を返す。

「僕は外に出ようと思っている。そしてコワウルヌを目指したい。一時、ガイコツ殺戮骸骨は無視することにする。」
「「分かった。」」
「それでだけど……ガリメデルスはどうする?」
「私は1度〈神界〉に戻る。」
「それが良いね。また会おう。」
「ああ。……それと私を召喚する時はこのスキルを使え。」

『〈特別スキル:守護聖獣召喚〉を手に入れました。スキルレベルが10になりました。』

「スキルレベルが10だったら本来の力を出すことが出来るからな。レベルを10にしておいた。」
「ありがとう。それじゃあ。」
「……」

 ガリメデルスは光に包まれ、消えた。

 僕達はアジトから出て、1週間ぶりの空気を吸う。

「空気が美味しい────」
「うん。」

 リルも頷いた。エレナも隣で深呼吸をしている。

「……それじゃあ、行こうか。コワウルヌへ。」

「ファンタジー」の人気作品

コメント

コメントを書く