草も生えない冒険譚

たかし

12話【希望】

前書き

宇宙と芹那は突如として現れたアンデッドらしきものと遭遇し、交戦するも苦戦を強いられてしまう。
そして女神像の残したメッセージ通りにワクチンを使ってアンデッド達を救おうとするペティラとミイレだったが…


「ん………」

ペティラがゆっくりと目を開けると

アンデッドから光属性魔法の盾でペティラを守るミイレの姿がそこにはあった。

「し…しっかりしてください!」

その呼びかけにペティラは目を覚ますようにはっと息を飲んだ。

「アンデッドを救ってあげたいのは分かります…元々小さな何も知らない子供がアンデッドになって、そのまま一生を終えるなんて…余りにも惨いです。」

ペティラは俯いた。
ミイレがそう指摘して、よりこのアンデッド達の辛さが身に染みて伝わってきたからだ。

「ですが!!」

その叫び声を聞いて
ペティラは驚きながらもミイレの方に目をやった。
ミイレは盾を形成してアンデッドの攻撃を防ぎながら言った。

「ここで、なにを優先すべきかを…考えてください…」

泣き声にも近いその弱々しい震え声でミイレは絞り出すようにペティラに訴えかけた。

その想いはペティラに届き、
何かを決心したようにペティラは立ち上がった。

「当たり前でしょ!ここで皆死んじゃったら!元も子もないしね!」

「ペティラさん…」

そう言い放ち、ミイレに攻撃していたアンデッドをペティラが…

「ヘブンズレイ!!!」

そう呪文を唱えると…
辺りのアンデッド達は
まるで幽霊が成仏するかのように
ゆっくりと天に還っていった。

そして辺りは暗闇に包まれ、
ミイレが何が起こったのかわからずに呆然と立ち尽くしている。

「ほら、あんたの光ないと何も見えないじゃない。」

そうペティラが言うと、
ミイレがはっとして

「あ!すいません!あの、それよりさっにのなんですか!?新技ですか!?新技ですよね!?びっくりしましたよ!なにしたんですか!?」

「あぁー!!もううっとうしい!知らないわよ!私も何が起きたのかいまいちわかってないんだから!」

戦いが終わり、
2人とも緊張がとけて安心したのか

いや、それともさっきのペティラの決心の事を気にしない為に
あえて過剰ににぎやかにしているのかは
分からないが。

その時ペティラは…
少しだけ悲しそうな顔をして涙を飲んだ…ような気がした。


その時…!

ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

「な!なんでしょうかこの振動…!」

突然遺跡全体を謎の振動が襲った!

その振動は上から…!
宇宙と芹那のいる所からだった。

「ミイレ…!いくわよ!」


一方、宇宙達は…

「がはっ…!」

体が熱い…

これは何だ…?

俺は何を吐いた…?

痛い…

意識が遠のく…

俺は……このまま……

「お兄ちゃん!!!!」

俺はその叫び声にハッと気づき
声の方に目をやると芹那が目に涙を浮かべて床に倒れ込んでいる。

そうだった、俺はこいつと戦ってたんだったな。
あぁ…そうか。
俺は芹那を守ることが出来たんだな…

俺は自分の腹に目をやると
アンデッドの拳の跡らしきものがくっきり残っている。
おそらく殴られたのだろう。
とても強烈だ…
心臓は潰れているかもな…

そういえばペティラとミイレはどうなったかな…
ちゃんと…脱出できたかな…

俺は……このまま……


「負けるな!!!」

俺はその芹那の叫びを聞き
自分の体の機能が再起動するのを感じた。
まだやれると
この体は言っている。
俺自身も…まだ…やれると。

「くっ…かはっ…」

そうだ…
立ち上がれ頼璋宇宙!!!
お前はまだ負けてない!
何一人で満足げに死のうとしてるんだ!

ペティラとミイレと芹那を危険な目に遭わせて!!
無責任にもほどがある!
痛みなんてクソ喰らえだ!
芹那がこいつに殺される未来をみるぐらいなら俺は限界なんて越えてやる!

しっかりしやがれぇええ!!

【スキル:筋肉靭化】

その瞬間…俺は限界を越えた。


「お兄ちゃん…?」

芹那が泣き顔で化け物でも見ているかのように驚きながら俺を見ている。
それもそうだ。死ぬはずの人間が立っているのだから

完全とはいえないが何故か体が回復している。
もうペティラいらないな。
そして何故だかはわからないが体の底から力が沸いてくる!

俺は…まだ戦える!!

その瞬間、俺はアンデッドもどきに飛びかかった。
そして敵が拳を振り上げる。
俺も全身全霊の力を込めて敵に打ち込んだ。

なるほど…殴る力は同等か…俺がそれ以上と言ったところだな。
なんだ?いきなり何故そんな力が目覚めた?
まさかレベルでも上がったのか?
あんな死に際で?

それは願ってもない事だが…
今はそんなことを考えてる暇はなさそうだな!

俺は敵と打ち合う
何度も何度も
何回かミスってこいつの殴打をくらう事もあったが
何故だか臓器までは届かない。
そこまで痛みもなかった。

戦ってる間に気づくことがあった。
戦闘能力が異常に上がっている。
機動力や俊敏性、判断力も上がっている。

これなら…!

「宇宙!?どうしたの?!そのアンデッドは!?」

「ばっ…!来るな!!!」

その瞬間、アンデッドもどきはペティラに襲いかかった。


「来るな!逃げろ!!」

くっ!タイミング悪すぎだろ!
いくら力が上がってる俺でも3人を護りながらは戦えない!
まずい!間に合わっ…

「ヘブンズレイ!」

「へっ?」

そのペティラが唱えた呪文とともにアンデッドもどきが苦しみ出した。

「グッ…がァあ!!」

「成仏しない…?!」

何を言っている?成仏?は?
いやもう何が何だかわからん!

「おい!なんだ今の!」

ペティラは今の状況に混乱しているようだった。
それを悟ったミイレが俺に答えた。

「今の魔法はアンデッドを成仏させる効果があるんです!ここまで辿り着けたのはそれのおかげで…」

なるほど…
ペティラが新技に目覚めたという事か!
さっきいらないとかいってごめんな!
心の中で訂正しておくよ!

となると確かに混乱するのもわかるな…
あいつは見たところアンデッドに近い存在なのに成仏しな…ぃ…?

アンデッドに近い存在…?

そうだ!あいつは完全なアンデッドじゃないんだ!
くそ…厄介だな…ペティラの魔法も効かないとなったら俺がやるしか…!

「ペティラ!だめだ!そいつは完全なアンデッドじゃない!だから物理攻撃もしてくる!お前の魔法は効かないぞ!」

「完全なアンデッドじゃない…?」

その時、ミイレとペティラは顔を見合わせた。

「ペティラさん!もしかしたら!」

「えぇ!可能性はあるわ!やってみましょう!」

俺は本気でこの人達が何を言っているのかは理解出来なかったが、
なにかこの状況の打開策があるのは察した。

「お前らなにがあるのかはわからないが、俺がこいつの相手をする!その間になんか知らんがやっちまえ!」

ペティラとミイレが大きく頷く。

恐らく今の状況を打破できるのは
その策しかなさそうだ。
確証なんかない…
だが、可能性があるのならば捨てる事なんてできるはずがない。
それに賭けることしか出来ないのだ。


「おい!まだか!」

俺はもう流石に疲れていた。
いやこいつの戦闘能力も半端じゃないから!
ほんとに!狂人だろこいつ!

見たところひょろひょろしているが
パンチも重いし動きも早い。
そしてしっかり避けてくる。

そして俺は気づいた。
アンデッド化しかけているから痛みがほとんどないのだろう。
痛みがないという事で身体能力のハメが外れているのだろう。
こいつの体はもうボロボロのはずだ。

「ちょっと待ってください!ペティラさん!早く!」

「あれぇー?どこに入れたっけ…?」

お願いだから早くしてくれ!
じゃないとこいつが死ぬぞ!!
いや俺も結構体やばいんだけど!

「あっ!あった!」

「よ!よし!いいか!?」

そして俺は敵の背後を取り、学校で習っていた柔道の技で敵を地面に叩きつけた。

いやー!柔道の授業真面目に聞いておくもんだな!
現実の俺の体はヒョロくて全く無理だったけど…
ポイントは掴んでる!体が付いてこれるなら問題は無い!

「よし!いくよ!」

その瞬間、ペティラがこっちめがけて走ってきた。

「ちょ!お前!危ないから!」

何してんだこいつ!
てっきり俺は特大魔法かなんかあるものかと思ってたのに!

ペティラがポケットから何かを取り出した。

「注射器…?」

サクッ……

その瞬間……
アンデッドもどきの動きが止まった。


後書き

アンデッドもどきとの交戦が白熱する中
ようやくペティラの活躍により終止符が打たれる!?
果たして宇宙達はこの遺跡から出られるのか!?

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