草も生えない冒険譚

たかし

8話【真実】

前書き

たった一人でギガントウルフを討伐することに成功した宇宙だったが、宇宙の体力は残りわずか…ギルドまで到底歩いて帰れるとは思えない、万事休すか…



「はぁ…はぁ…」

その荒い息が静かな森全体に響き渡っている。
そして俺は残りのわずかな体力でギルドに戻ろうと歩いていた。
無謀だ…
こんなヘトヘトの状態で帰れるわけがない
それよりもこんな暗い森の中歩いていたら
必ずと言っていいほど魔物に襲われる…
夜行性の魔物は起きてるって言っていた。

そんな時俺は考えた。
テレパシー能力を使って救援要請をすればいいのでは!
今は夜だが、そこまで遅い時間じゃないし…
よし!テレパシー!

と思ったが、何も起きない

は?いやいや、なんでだよ…
なんでテレパシー使えないんだ?
くそ!なんでだよ!!!

はは、そうか…
この世界にもMPは存在するってわけか…
この死にかけの体力ではテレパシーすらも使えないってわけね…
あぁ、神からも見放された気分だ…

そう言うと、突然視界がぶれ始め、
まともに立つこともできなくなり
俺は静寂かつ漆黒に染まる森の地に倒れた。

「ここ…までか…」

そう遺言のように呟く俺。
やはり異世界で生きていくには半端な気持ちじゃダメだったんだ、ここは俺らがいた世界とは違う。
魔物がいるんだぞ?どうすんだよ…そんなの。

そう自分を責めながらゆっくりと目を閉じた。



「…………んぁ?」

宇宙が目を開けるとそこは初心者の草原だった。
しかもギルドの入口も見えている。

どうしてこんなところに…
そして何故か微妙に体が揺れている。
誰かの息遣いも聞こえる。

そして俺は今誰かにおぶってもらっているのだと確信した。
そして、俺は《誰だ?》という前に一番その時言いたかったことを言った。

「ありがとう…」

少し泣いていただろうか。
それだけ絶望していたということだろう。
この人には後で礼をしてあげなく…

「大丈夫ですよ!もうすぐギルドにつきますからね!」

この声…
どこかで聞いた…
というかさっきの森で…

「お前!!大富豪かぁぁぁああああ!!!?」

「なんですかその呼び方!私にはミイレという名前があります!」

「いやそんなことどうでもよくて!なんで逃げてないんだよ!?」

「そりゃ!あんな状況で逃げれますか自分だけ!!あなた何もわかってませんね」

なにをわかればいいのかがわからなかったが
これ以上叫ぶと口から血が噴射しそうなくらい体がボロボロだ。
宿屋で休んだ後、詳しい話を聞くとするか。

それにしてもこいつ…
俺のことよく軽々と持って走れるよな…
まぁ俺の体重は軽い方なのは確かだけど…
それでもこの力は並大抵のものではないな…



目を開けると朝日が差し込んできた。
とても眩しい。
カーテン閉めて欲しいんだが。

「お兄ちゃん!早く起きなって!」

ふふ、その技はもう見切った!
そう言って芹那の平手打ちを悠々と交わして
ベットから飛び跳ねた俺は
その場に大富豪が佇んでいることに気がついた。
ふぅ、まぁあの事は夢なんかじゃないよなぁ…やっぱり…

「まず話をしようか、大富豪さん。」

「あなたはなんで夜遅くにあんな森の奥深くにいたんですか?」

「そ、それは強くなりたかったからレベル上げを…そしたらギガントウルフが出てきて、もうどうしようもなくなり…」

なるほど、この人も戦うんだな。
レベル上げであの森に入るぐらいだから
中々の手練のようだな。

「何故レベル上げを?あなたはお金にも困らないし、戦う必要がないのでは?」

「そ、それは…強くならないと…あなた達のパーティに入れてもらえないと思ったから…あなたから断られた日から毎日あの森で…」

よくそれで今までギガントウルフに遭遇しなかったな…とツッコミを入れたい所だが、彼女の目は真剣だ。そうも行かない。

まさか俺達のパーティに入るためだけに
あんな危険な森にレベル上げに行っていたとはなぁ…
腑に落ちない…
なんで俺らの事そうしてまで…

「あ、あの!レベルもある程度は上がったので!パーティに入れてもらえませんか!」

俺はとてつもなく迷った。
この人は命の恩人だ。
しかし、大富豪だ。
この人のお金で養ってもらうなんて
冒険者としてあるまじき行為…
金は冒険者が頑張ってモンスター討伐をして入手するもの!!!

「お兄ちゃん!」

迷いに迷ってしかめっ面になっていた俺を
どん!と芹那に背中を叩かれ、
迷ってばっかりじゃ解決しないぞ
と言わんばかりの顔でこっちを見てくる。

そうだな…
決めなくちゃいけないよな…
迷ってばっかりじゃ前に進めないよな!

「あの、大富豪さん、俺はパーティに入る人をレベルで判断してるつもりはありません、しっかりその人の人間性、助け合う心などを見透かして判断しております。」

「で、では私には助け合う心が…」

「ですが、今日の出来事で意見が変わりました。仲間を見捨てない心、自分が危なくなれば素直に助けを求める心、夢中になったものに熱心になれるその心、感服致しました。ようこそ俺らのパーティへ」

なんだか堅苦しい感じで俺的には嫌だったのだが
これが大富豪さんのような上の方への言葉遣いなのかなと思いながら淡々と口走った。

すると、大富豪さんは泣き出した。

「ぁ、ありがと…ぅ…ございますぅ…ぁ…」

「なんで泣いてるんだよ」

そう笑いながら俺は静かなツッコミを入れた。
すると、何故か俺まで涙が出てきた。
あれ?…なんだこれ…なんで…

「も〜!なんで宇宙まで泣いて…」

そう俺に笑いかけるぺティラだったが、
彼女の笑みは芹那へと変わった。

なんで芹那まで泣いてるんだよ…
お前が涙脆いのは知ってるけどさ…

「なにはともあれ、よろしくな!大富豪さん」

「もう!大富豪じゃなくて!ミイレです!」

「よろしくな、ミイレ」



「聞くがミイレ、ランクはいくつなんだ?」

「私の冒険者ランクはDですが…」

D……だと?

なんてやつだ、ここまで腕を上げているとは…
よほど辛いモンスター討伐をしていたのだろう…

俺ら3人はFランクだ…
ちなみにFはランクの中で最下位のランク。
まあなにもしていない芹那はFランクで当然だとしても、
俺は結構辛い思いしてきたと思うがな…
何回も死にかけたのだが…

「俺らは3人ともFランクだ」

「え?何言ってるんですか、宇宙さんはEランクじゃないですか。」

こいつは何を言っているんだ
いきなり金目のない環境にきたから頭がおかしくなってしまったんじゃないか。
俺がE…?いつそんな報告受け……

「ほら!ギガントウルフを宇宙さん1人で倒したじゃないですか!その魔石とあと一日中かけて集めたウルフの魔石も!それを私がシルヴィさんに渡して宇宙さんの経験値に変えてもらったんですけど、Eランク昇格おめでとうって言ってたじゃないですか!」

そんなこと言われたか…?
いや、言われたんだろうな、確証はないがそんな感じの事を言われたような気がする。
あの時は頭がこんがらがっていて
なにがなんだかわからない状況だったから
無理もないか。
それにしても…

「俺が…Eランク…だと…」

こみ上げる歓喜の感情を抑えることも出来ず
その場で飛び跳ねる俺。

「む〜、お兄ちゃんだけずるい…」

いやお前が言うなよ。
と言わんばかりの目付きで芹那を見る俺。
ぺティラは回復魔法も使えるしEランクでもおかしくないとは思うのだが…
やはりステータス的な面でも
それほどの功績を上げていないということか。

「あ、それとミイレ、お前の攻撃手段や魔法を知っておきたい、教えてくれ。」

「私は基本的にステータス強化の魔法、光属性の魔法が使えます、近接攻撃はできません。」

なるほど、いよいよ役割がいい感じになってきたな。

宇宙=近接攻撃、指導
ぺティラ=回復魔法
ミイレ=能力強化、光属性魔法

と思ったが…

俺は芹那の方に目をやり
呆れたような目付きで見つめた。

「な…なに?」

そう俺に向かって言い放つ芹那。

な…なに?
じゃねぇよ。
お前はなんでいるんだ…。
まぁ我が可愛い妹はいるだけでいいのだが。
流石に何もしないというのは…

「お前…なにかできないの?」

「なにもできないよ…戦いなんて…」

まぁ…そうだよな。
こいつの潜在能力がどれだけ秘められているかはわからないが、なんとかこいつのレベルアップもはかりながらモンスター討伐するしかないな…。

というかEランクになったということは
なにかないのか…?
スキルを取得とか、新しい魔法とか…
ステータスが大幅に上がるとか…

だが見た限り変化はない…

まじか…
能力的には変化ないのかよ…
入手したのはEランクという肩書きだけかよ…



後書き


ミイレを仲間にした宇宙達であった。
そしていつものようにモンスター討伐へ出かけていた一同だったが、また面倒な依頼を押し付けられてしまう。
一同は、初心者の草原の奥にある森を、さらに抜けた、
「加護の遺跡」の調査に向かう。

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