草も生えない冒険譚

たかし

5話【友情】

前書き


巨大ウルフから死にものぐるいで逃げ続ける頼璋。
しかし長い時間はもたず、ついに追い詰められてしまった。
しかし、そんな中頼璋の元に救世主が現れる!!



「優男くん!!」

「遅れてすまない、今助けるよ!」

巨大ウルフから俺を救ってくれたのは
この異世界に来て最初に話した優男くん。
この世界の仕組みを少し教えてくれて、
ギルドが載ってる地図も借してくれた、それだけでも恩人なのに、ここまでくると命の恩人だ。

というかこの巨大ウルフを一撃で倒してしまうなんて…どんだけの実力者なんだこの人。
イケメンで優しくて強いって、非の打ち所がないな…

「あ、ありがとう!今聞くのもなんだけど、名前を教えてくれないか!」

俺がそう言うと優男くんは神のような微笑みで

「僕の名前はセルフィルだよ、僕も名前を訪ねてもいいかな?」

「あ、あぁ!俺の名前は頼璋宇宙!ほんとにありがとう!助けてくれて」

この世界では珍しすぎる名前をセルフィルに名乗り
感謝の気持ちを伝えると、
セルフィルは少し微笑みが緩み、

「まだ助けた内には入らないよ、後方のギガントウルフも倒さないとね、さっきは閃光で不意打ちしたから倒せたんだけど…正面から戦闘すると中々手強いモンスターなんだ。ギガントウルフは」

あの巨大ウルフはギガントウルフと言うのか、
いやいやそんなことは今はどうでもいい
あのセルフィルでも苦戦するほどの相手なのか…?
そんなヤバい奴から逃げ回ってたなんて
思い出すだけでも背筋が凍りそうだ…

「とりあえず僕がギガントウルフの相手をするから!君たちは早くギルドに戻るんだ!」

その言葉を聞いてペティラが不安そうに俺に

「宇宙…、あの人…」

「ペティラ…気持ちはわかるが、セルフィルが命懸けで作ってくれた時間を無駄にするわけにはいかないだろ…」

そうペティラを説得し
セルフィルに全てを託し、俺らは森を抜け、ギルドに向かって走り出した。



森を抜けて少しして、走りながら振り返って森の方を見ると、
鳥達がざわついてる様子がわかる、
そして、ギガントウルフと思われる咆哮が聞こえてきた、
ここまで聞こえてくるなんてどれだけおぞましいんだ…

おそらくセルフィルとの交戦が始まったんだろう。
頼むから死なないでくれよ…セルフィル!!

俺たちが走り出してしばらくすると
スライムやウルフなどのモンスター
戦っている冒険者たちなどが見えてきて、安心した。

ていうか初心者の草原にはスライムとウルフしかいないのか?
流石にあいつらなら拳だけでも倒せるぞ…
隣で息を荒くして走るペティラを眺めながら
わざわざパーティ組む必要もなかったな…
と思った。

「な、なに?宇宙、私の顔になにかついてる?」

もちろん何もついていないのだが、

「お前、顔にスライムの粘液がついてるぞ」

「え!?えええ!?嘘…!?ちょっ!宇宙!!取って!お願いします!取ってください!いやぁぁあ!!」

こうも簡単に騙されるとは、まぁ元々騙されやすい奴だと思ってやったのだがな、

そんなこんなあって
ようやくギルドに辿り着いた。
セルフィルは大丈夫だろうか。
と言っても
俺達がギルドに無事辿り着いたという報告をする連絡手段がないのがいたい所だ。

そうしないとセルフィルは戦闘から離脱できない。
一番いいのは、セルフィルがギガントウルフをぶっ倒して戻ってきてくれる事なのだが…
ギガントウルフが手強いモンスター、と話していた時のセルフィルの目は、本気だった。
どうする…、俺、こんな時どうすればいいんだ!
考えても策がない!
じゃあセルフィルは何故俺たちを行かせたんだ…?
ギルドに戻っても報告は耳に入らないのに…

まさか、完全に自分を犠牲にするために…?
そんな馬鹿な…
俺とは2回会っただけだぞ?
そんな奴のために命をかけるなんてどれだけお人好しなんだよあの人は!

死なせないぞ絶対に…!

その瞬間、脳内でなにかの音がした。
草のなびく音、鳥の鳴き声、森のざわめき、
なんだ…?この感覚は、
まるでさっきの森の中にいるようだ。
その森中の音が脳内に伝わってくる。

{ギガァァァァァァァァァ!!!}

その瞬間、脳内に
凶暴な獣の咆哮が鳴り響いた。

「うわぁあぁぁぁぁぁぁぁ!!」

なんだ今のは…?
くそ、脳は痛くないけど、
なんだ?直接脳内に聞こえてくる。
しかも今の咆哮…

ギガントウルフの咆哮と同じだ…



脳内に突然ギガントウルフの咆哮…
一体俺の体に何が起きてるんだ?

まさか、ギガントウルフの恐怖からくる
トラウマがこの症状を引き起こしてるのか?
そう思い悩んでいると
また聞こえてきた。
次に聞こえてきたのは1人の少年の声、

{くそ、どうすればいいんだよ…!}

セルフィル…!
間違いない、セルフィルの声だ。

森中の音に
ギガントウルフの咆哮…
そしてセルフィルの声…

これはテレパシー能力…?
でも何故突然俺にそんな力が?
でも今はそんなこと考えてる暇はない!
このテレパシー能力を使って
なんとかセルフィルに俺達がギルドに戻ってることを伝えないと!

集中するんだ。
ギガントウルフの咆哮も、
森の中の音も、風も、鳥の鳴き声を
全てを遮断して
セルフィル一点に意識を集中させるんだ…

{………………………………………………}


ーーーきたーーーーーーーー

{おい!セルフィル!聞こえるか!!}

{ぇ!?な、宇宙!?何故、っていうかなんだこれ!}

通じた。
俺の能力が今開花したんだ!

{俺がテレパシー能力でお前の脳内に話しかけてる!
俺らは無事ギルドに戻ったからお前も早く戻ってこい!}

{それはよかった!ならすぐ戻るよ!}

ほんとによかった…
これでセルフィルを死なせずにすんだ…
友人を助けたんだ、俺の力で。


ペティラと芹那がシルヴィさんと楽しそうに話している。
全く、俺がこれ以上ないぐらいに頑張ったってのに
ましてやセルフィルの命が危なかったのに
優雅なもんだなぁこいつらほんとに…

そう言って3人を眺めてる俺に芹那が気がついて、俺の方に走ってきて

「なにぼーっとしてるの、お兄ちゃん!!」

そう言って平手打ちをくらわせてきた。
まじでそれみぞおちの10倍ぐらい痛いからまじでやめて。
っていうか今平手打ちくらわせられる意味あった?
俺なんかしたか?

そして俺はさきほど自分に芽生えた能力について
シルヴィさんに尋ねた。

「シルヴィさん、さっき俺、テレパシー能力っぽいことが起きて、今森にいるはずのセルフィルと話せたんですよ!」

「ほんとうですか!?あなたの中の能力が開花したんですね!おめでとうございます!」

やっと異世界にきてそれっぽくなってきたじゃねえか!
この調子でどんどん魔法を覚えていくぜ!

「むー!お兄ちゃんとペティラばっかり魔法使えて!羨ましい!ずるい!」

「いや、お前は特になにも功績がないから…」

俺が正直にそう言うと、妹は頬を膨らませ

「ならいいよ!私も功績出して!秘められた力とやらを解放してやるから!」

お、我が妹もやる気になってくれたな。
妹の能力も開花してくれれば戦闘が一気に有利になる。
ぶっちゃけ、俺能力開花したとか言ってるけど
テレパシー能力であって、戦闘には不向きな能力だ。
ペティラも回復魔法のみだし、
現状は昨日と変わっていないのだ。

ガチャ

俺達がにぎやかに話していると
ギルドのドアが開き、
そこには
ボロボロのセルフィルの姿があった。

「ただいま…も、戻り…まし…た…」

そう言ってセルフィルは倒れてしまった。
ただ意識を失っただけか、眠っているだけだとは思ったが一応

「おい、ペティラ、セルフィルに魔法をかけてやれ」

「この人、異世界にきて最初に会った人だよねー!ギルドにいたから助けに行ってくださいって言ったんだった〜!この人セルフィルっていう名前なんだね!」

芹那が優男くんの名前を知った所でどうでもいいのだが、
というかセルフィルには悪いが妹を近づけたくない
世界にたった1人の妹だ、
他の男になんぞやらんぞ!

〘ペティラのリカバリー 〙

ペティラはセルフィルを回復させてくれた。
そしてギルドのソファに寝かせてやった。


時は夜、金はない、どうしようもない。
俺達3人は途方に暮れながら夜の街を歩いていた。

「宇宙、どうするの?これから、金もないんじゃ宿屋にすら泊まれないじゃない!」

昨日自分の宿屋代払わせた人に言う言葉かそれ。
仕方がない、今日は野宿するしか選択肢が…

「いっとくけど!野宿とか絶体嫌だからね!」

俺の思ってることを分かっていたかのように
芹那が横から詰め寄ってきた。
そんな事言われても俺らには金無いし
夜になるとモンスターも凶暴化して危ないって言ってたしなぁ(シルヴィさんが)
だからそこらへんで寝るしか…

「おーい!宇宙〜!」

なにやら聞き覚えのある声がする。
何度も何度も救われた優男の声だろうか。
いや、そんなわけないか
彼は今ギルドで寝て…

「なんで無視をするんだ宇宙!」

いや間違いないこいつはセルフィルだ。
なんでこんな所に…
確かにリカバリーはかけたけど
お前のHPが多すぎて全回復とまでは言ってないんだから
まだ寝とけばいいのに…

「セルフィル、何の用だ?」

「実はね、君達にこれを渡そうと思って来たんだ」

そう言いながらセルフィルはポケットから
大きな魔石を取り出した。
なんだこれ…
いや、こんなの貰えるわけないでしょ。

「なにこれ…」

「これは俺が不意打ちで倒したギガントウルフの魔石だよ。」

いやいやなおさら貰えないわ。
お前が倒したんだから
なんで俺に渡す必要があるんだよ。

「こんなの貰えないよ、悪いし」

「何を言うんだ!宇宙!君はあれほどまでに頑張った!太刀打ちできないとわかっている相手にあれほどまでに立ち向かう有志!それを評してこれを渡す!」

いや、逃げ回ってただけなんですけどね
あと目に砂かけただけですけど。
しかも逃げ回ったり砂かけたやつ
この魔石のギガントウルフじゃないし。

しかし経済面を考えると貰っておくべきだろうな…

「ありがとう、ならありがたく頂戴するよ。」

そう言ってまた1つセルフィルに貸しを作ってしまった。



後書き


セルフィルの活躍により
何とかギガントウルフから逃れられた頼璋。
そして魔石まで貰い、寝泊まりはできるようになった。
だが、状況は一向に進行しないまま。
そんな中、頼璋達のもとに1つの依頼が届く
初依頼だからか、宇宙はやけに燃えていた。
そしてその依頼が…新たな仲間との出会いを起こす…!

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