魔法を戦国時代に持ち込んだら何か無双した

りょう

第138陣長き人生の終点

 ――思えば長い人生だった。

 ヒスイと出会う前、そしてヒスイと出会った後。私はここまでとても長い人生の道のりを進んできた気がする。彼と出会うまでは誰かを愛する感情なんて生まれなかった気がする。だけど今は一人の人間を愛おしく思える。

(戦いばかりだった私の世界に、新しい色を与えてくれたあなたには感謝の言葉が尽きません、ヒスイ)

 本当は伝えたい言葉が山ほどある。

 ――今日まで一緒に戦ってこれたこと。

 ――私を好きになってくれたこと。

 どれを取り上げても感謝の言葉でいっぱいだ。
 だけどもう、私の体にはそれを伝える力は残されていない。神様が与えてくれた人生のロスタイムは長くない。

(せめてヒスイがヒデヨシサンを連れて来るまでは……)

 神様、どうか時間を私に下さい。

「ノブナガ様!」

 もう細い糸でつながれた意識の中で聞きたかった声が私の耳に届く。

「ヒデヨシ……さん?」

 顔を彼女の方に向ける事は出来ない。だけどその声が彼女だという事はハッキリ分かる。

「ノブナガ様、ごめんなさい! 私ノブナガ様がいなくなるのが怖くて……逃げ出してしまいました」

「いいんですよヒデヨシさん……。こうしてちゃんと来てくれたんですから……」

 力を振り絞って泣いているヒデヨシサンの頬に手を当てる。雨でも降っていたのか、彼女の頬は少しだけ冷たかった。

「ヒデヨシさん……あなたはこれから沢山苦労すると思いますが……あなたならきっと乗り越えられると信じています……頑張ってください」

「私ノブナガ様のようになれるかは分かりませんが、絶対に強くなってノブナガ様をいつしか超えて見せますから! だからどうか、見守っていてください」

「期待していますよ、ヒデヨシ」

 その隣にはきっとあなたを支えてくれる人がいるからきっと大丈夫、私にはその確信がある。そしてその隣にいてくれるのはきっと……。

「ヒスイも……ヒデヨシさんを連れて来てくれてありがとうございました……」

 彼、桜木翡翠だ。私が生涯でたった一度、愛することができた人。もう彼の傍にいられないのは寂しいけど、彼がまだ生き続けてくれるならそれだけで幸せだ。

「ノブナガさんのためなら、このくらい容易いですよ。それよりノブナガさん、俺はまだあなたに」

「いいんですよヒスイ……。あなたが伝えたい言葉はしっかりと私に届いていますから」

 私はゆっくりと目を閉じる。もうこの目を開く力も残っていない。最後にこの眼に彼の顔を残せただけでもう十分。これで私も悔いなくこの世を去れる。

「ノブナガ様!」

「ノブナガさん!」

 私の名前を呼ぶ二人の声が聞こえる。きっとこれが最後の一言になる。だから精一杯の気持ちを込めて、私は二人に伝える・

 ――ありがとう

 私の人生はとても幸せでした。どうかお二人とも、お元気で。

 ――さようなら


 織田信長 死去

 彼女が亡くなった後、大雨だった空は彼女の心を現すかのように晴れ渡り、安土城上空には虹がかかっていた。

 ■□■□■□
 ――空は先程の大雨がまるで嘘だったかのように晴れ渡っていた。

 その空を城の一番高いところ、ノブナガさんの部屋の窓から眺める俺とヒデヨシ。その顔は先程まで流していた涙によってぐしゃぐしゃになっていた。

 でももうその目には涙は流れていない。

「なあヒデヨシ」

「何?」

「本当はもっと泣いててもいいんだぞ?」

「もう……大丈夫。ずっと泣いてたら、ノブナガ様が心配しちゃうから」

「そうだな」

 ノブナガさんが亡くなってから間も無く二時間近くが経つ。意外な事に一番最初に泣き止んだのはヒデヨシで、それを見て俺も泣いてられないと思って涙を止めた。

「そういうヒッシーこそ……無理矢理我慢しているのバレバレだよ?」

「が、我慢なんかしてないに決まっているだろ! 女のお前が泣いてないのに、俺が泣いてたら情けないだろ」

「やっぱり我慢してるじゃん」

 言葉で否定はするものの、秀吉の言うとおりなのは間違いなかった。正直このまま一週間は引きずる可能性だってある。彼女にあんな偉そうなことを言ってしまったので、それを表に出すことはできないけど。

「さてと、明日からは頑張らないとねヒッシー。私達がここを支えないといけないんだから」

「そうだな。特にお前が頑張らないとあっという間に他の軍に押されるからな」

「ヒッシーも、でしょ?」

「まあ、な」

 俺の命が後どのくらい持ってくれるかは分からないが、その時までは俺もヒデヨシのサポートをする。ネネやリキュウといった仲間はいるけど、正直それだけでは不安な節がある。だからせめて、ヒデヨシがしっかりとノブナガさんの意思を継いで前を向いて歩けるように力を貸したい。

「なあヒデヨシ、お前はこの後どうしたい?」

「どうしたいって?」

「この先の織田の……豊臣としての方針を聞いているんだよ」

「うーん、まだどうしたいのかは決まっていないけど、とりあえずしてみたいことはある。いつ達成できるかは分からないけど」

「何だよそのしてみたい事って」

 俺は試しに聞いてみる。それに対してヒデヨシは一言、こう答えるのであった。

「天下統一」

 女性だらけの戦国時代は今新しい時代の幕が開こうとしている。

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