魔法を戦国時代に持ち込んだら何か無双した

りょう

第134陣語られることのない戦い

 あの時の事を思い出すと胸が痛む。こんな事をノブナガさん達に言っても何も解決しないことだって分かっているのに、その痛みを吐き出したくなってしまった。

「ヒスイはそんなに自分の事が嫌いなんですか?」

「嫌いですよ。俺は……余所者のくせにいつも調子に乗って、気が付けば得るものより失うものが増えていて、そんな自分が大嫌いです」

「私はどんなあなたでも好きなんですよ。たとえ一度闇に手を染めていても、一度人を殺めてしまっていても。私はそれら全て含めてヒスイが好きになったんです。だからヒスイもそんな自分を好きになってください」

「それだけは……できません。俺はもう自分を好きになる事は無理だと思います」

 何もできない自分に嫌気すらさす。

(俺はこの手で何人の人を守れたんだ}

 サクラもリアラも師匠も、桜も、俺は誰一人として守れていない。今ここにいるノブナガさんですらあと二ヶ月でいなくなってしまう。俺は何も守れていない。だからもうこんな自分は消し去りたい。いずれ死ぬとしても、皆に忘れ去られたうえで、この世から消えていきたい。

 それが俺の願いだ。

「随分と長話になってしまって、すいませんでした。ヒデヨシもこんな俺をまだ好きになってくれていてありがとう。でも俺は、もうこの世界から居なくなるから……ごめんな」

 最後にその一言だけ残して俺は二人の元から去る。ノブナガさんが隠居をすることを勧めてくれたのもすごく嬉しかった。けど、それも気持ちだけ受け取っておく。俺はもうこの世界から離れる事を決めたのだから

「ふざけないでよ! ヒッシー!」

 去り際、そう声を張り上げたのはヒデヨシだった。

「どうしてヒッシーはそんな勝手な事を言うの? どうして私達の気持ちも考えないでそんな事を言えるの? 勝手すぎるよヒッシー」

「勝手? 俺はちゃんと二人の事を考えて」

「ヒッシーは自分の気持ちにも正直になれていないのに、私達の気持ちなんて分からないよ!」

「何が言いたいんだよヒデヨシ」

「ヒッシー、本当はそんなこと言いたくないのに、自分の気持ちを押し殺してまでそんなこと言う必要なんてないよ」

「俺は自分の気持ちに正直になっているから言ったんだよ」

「だったら……今私達の方に振り向いてよ」

「っ! それは……」

「自分の気持ちに正直なら、私達に今のヒッシーの顔を見せてよ」

 ヒデヨシの言葉に俺は黙り込む。今ここで振り返ったら、男として情けない一面を二人に見せる事になってしまう。それだけは……。

「ヒスイ」

 ここでしばらく黙っていたノブナガさんが声をかけてくる。その声はいつものように優しくて、慈愛がこもっていた。

「あなたは今日までずっと私達の為によく頑張ってくれました。時には強く当たってしまったこともありましたが、あなたは私達にとってヒーローです。それは誰が何と言おうと変えられない事実です」

「ノブナガさん、俺は……」

 ヒーローじゃないと言おうと思った。だけどその言葉は何故だか出てこない。その代わりに俺から溢れ出してきたのは、

「だからわがままを言ってもいいんじゃないんですか? 今日までずっと我慢してきたんですから」

「俺は……」

「最後まで一緒にここで暮らしましょ? ヒスイ」

 いつからか我慢するようになっていた自分の気持ち。世界から見放されたあの時からずっと俺は、自分の本当の心を隠していた。
 罪を犯した自分をもう二度と人前に見せないために。
 でも、もしありのままの自分を、この残り少ない時間でも受け入れてくれている人がいるなら、

「俺は……最後までノブナガさん達と一緒にいたいです」

 俺はその場所に居続けたい。それが桜木翡翠としての最後を迎えるにはふさわしい場所だと思うから。

「ヒッシー、よかった。私すごく嬉しいよ」

「ありがとうヒデヨシ。でも俺はもう」

「それでもいいよ、ヒッシー。私はそれでも大丈夫だから」

「ヒデヨシ……」

 俺に残された時間があとどの位かは分からない。だけどノブナガさんの命は長くて後二ヶ月。いつしか来てしまうその時を迎えた時。俺とヒデヨシは今のようにいられるのだろうか。ましてや俺すらもヒデヨシの元から居なくなったとき、ヒデヨシは……。

(織田家はどうなっていくんだ)

 一抹の不安が消えないまま、俺の戦国時代での物語はいよいよ終局へと近づいていく。

 ■□■□■□
 それから一ヶ月近く、度々戦はあったものの比較的平和な時間だけが過ぎていった。その時が近づくのも忘れてしまうくらいに平和で、いつも通りの時間だけがただただ過ぎていく。

「ヒスイ、私のお願いを聞いてくれませんか?」

 それが一ヶ月近く続いたある日、ノブナガさんが俺に対してあるお願いをしてきた。それは今までも何度かされてきたお願い。もうすることもないとは思っていたが、それはある意味でノブナガさんの最後のお願いでもあった。

「本当に無理だったら言ってくださいね。もうノブナガさんの体は弱くなってしまっているんですから」

「そんな事ないですよ。まだ、ヒスイに勝つくらいの力は残っています」

「本当に無理だけはしないでくださいよ」

 それは過去に二・三度行われてきた手合わせノブナガさんは強がっているがもうその体は、出会ったころとは比べ物にならないくらい弱っていた。それでも戦いとノブナガさんは言うので、俺は最後のお願いとして彼女と手合わせをすることにした。

「ヒスイ、私が勝ったら呼び捨てで呼んでくださいね。ヒデヨシさんみたいに」

「俺が負ける事はないと思いますが、分かりました。その代わり、俺が勝ったら」

 俺とノブナガさんの最後の手合わせ。ある意味で時代を超えた歴史上で絶対語られることのない二人の戦い。

「一つだけ何でもいう事聞いてもらいますからね!」

 その戦いが、今幕を開く。

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