魔法を戦国時代に持ち込んだら何か無双した
第133陣桜木翡翠は三度死ぬ
ここまで言った以上、後には引けない。
俺はその覚悟を持ってこの二人に告げた。守りたい場所、守りたい人達がいるからこそ、もうこの時代には魔法使いという存在は必要ない。戦をしてほしいというわけではないが、それがこの時代の……彼女達の生き様だ。
もうこの世界には魔法というイレギュラーなものは必要がないんだ。
「嫌だよヒッシー、私ヒッシーが居なくなるなんて考えたくない」
「悪いなヒデヨシ、これはもう決めた事なんだ」
「決めた事って……どうしてそこまで、ヒッシーは帰りたいの? だって、ヒッシーは、その、元の世界だと存在するはずのない人間なんでしょ」
「確かにそうですよ。ヒスイはせめて最後までこの世界で過ごせばいいじゃないですか」
ヒデヨシとノブナガさんの言っている事は正しい。俺は既に死んでいる以上、あの世界に戻る必要もない。ただでさえ俺は存在するはずのない人間として、三年近く元の世界にいたのだから。記憶を失っていたとはいえ、それは今思い起こせば紛れも無い事実。
でも、それでも俺には思う事がある。
「どういう原因で死んだのかは分からないけど、一番長い年月生きた場所なんだ。最後くらいはあの場所で迎えてもいいんじゃないかって思うんだよ」
「ヒスイ……」
「こんな人生だったんだ。最後くらいは俺だってゆっくり暮らしたいよ」
高校生の時にこの命を失って、異世界で大きな旅をしてそこで大切なものを学んで、色々な経験をした。それはこの世界でも同じだった。
そう、色々起きすぎてしまったのだ。
一息つく間もなく、この五年色々なことが起きた。だからせめて最後くらいはこの体をゆっくりと休ませてあげたい。
「もう戦いばかりで疲れたんだよ俺も。別にこの世界を悪いように言っているわけじゃないけど、できれば残された時間だけは戦いを忘れて暮らしたい」
元の世界に戻れば争いとかは起きない。だからこの残された余生は、いつも通りの俺でいたい。
「それなら一つ、いい案があるのですが聞いてくれますか?」
「何かあるんですか?」
「今私が微かにしているように、この城から離れた地で隠居するというのは駄目でしょうか?」
「隠居?」
その言葉自体には聞き覚えがある。確かに争いを忘れてのんびり余生を過ごすのにはもってこいの提案かもしれないが、この時代に魔法使いという存在を消したいという俺の気持ちとは反する。
「ヒスイ様がどういう考えをもって、私達の元から離れようとしているのかは分かりませんが、一つ勘違いしていませんか」
「勘違い?」
「あなたはこの時代を生きた魔法使いとして、一生私達の中から消える事はないんですよ。私達は絶対にあなたの事を忘れる事なんてありません」
俺の気持ちをまるで読み取ったかのようにそうノブナガさんは言った。
「俺なんか忘れてもいいんですよ。俺はこの世界でも沢山の人を傷つけてきました。だから名前なんて残す必要はないんですよ」
「残す必要がないだなんて、どうしてそんな悲しい事を言うんですか」
「俺は……魔法が使えるだけで、何も守れていないですから。ノブナガさん達も沢山傷つけて、マルガーテの戦いにも巻き込んで、俺って最悪ですよ」
マルガーテとの戦いを終えて、改めて全部を思い返して俺の中に残ったのは後悔という言葉だった。
それはかつて味わった同じ気持ち。
かつてサクラと一緒に世界を救った時に味わった同じ気持ち。
「ノブナガさん、ヒデヨシ、俺は二人に出会えて幸せでした。こんな俺の事を好きになってくれてありがとうございました。だからもう、俺がこの世界から去ったら魔法使いがいたことは忘れてください。俺からのお願いです」
■□■□■□
『勇者を殺した悪の魔法使い』
サクラと共に世界を救った時に、残された俺の名前はそれだった。
闇の力に手を染めて、あまつさえ勇者であるサクラに手を掛けた。
だから悪なんだと。
悪の魔法使いなんだと。
それを聞いたとき俺の中で全てが壊れた。世界を救うために力を欲してしまった己のなれの果て。こんな名前を残すために俺は戦ってきたわけではなかったのに、どうしてこうなってしまったのか。
俺をまず最初に襲ったのは後悔。次に憎しみ
闇に手を染めてしまった自分に対しての憎しみ。この手でサクラを殺してしまった自分への憎しみ。
こんなの俺じゃない。
闇に手を染めた自分は桜木翡翠という人間じゃない。
だから悪い事を全て忘れた。悪の魔法使いという自分をすべて忘れた。
桜木翡翠という人間は、その時二度目の死を迎えた。
「そんな事できないよヒッシー……。私はヒッシーを忘れる事なんてできない!」
「今はできなくていいよ。でもいつかは忘れてほしい」
そしてこの世界で生きた桜木翡翠は三度目の死を迎える。正真正銘の最後の死を。
「どうしてそんな悲しい事を言うんですかヒスイ! そんな事誰も望んでいるわけないじゃなですか」
「望んでなくたって、俺はそうしてほしいんです」
「だからどうして」
「もう嫌なんですよ自分が! 力があっても、身近の命を救う事も出来ない自分が! もう消したいんです、魔法使い桜木翡翠という名前を」
それが望まれていなくたって、俺はそれを望む。それがせめてもの贖罪だと思うから。
俺はその覚悟を持ってこの二人に告げた。守りたい場所、守りたい人達がいるからこそ、もうこの時代には魔法使いという存在は必要ない。戦をしてほしいというわけではないが、それがこの時代の……彼女達の生き様だ。
もうこの世界には魔法というイレギュラーなものは必要がないんだ。
「嫌だよヒッシー、私ヒッシーが居なくなるなんて考えたくない」
「悪いなヒデヨシ、これはもう決めた事なんだ」
「決めた事って……どうしてそこまで、ヒッシーは帰りたいの? だって、ヒッシーは、その、元の世界だと存在するはずのない人間なんでしょ」
「確かにそうですよ。ヒスイはせめて最後までこの世界で過ごせばいいじゃないですか」
ヒデヨシとノブナガさんの言っている事は正しい。俺は既に死んでいる以上、あの世界に戻る必要もない。ただでさえ俺は存在するはずのない人間として、三年近く元の世界にいたのだから。記憶を失っていたとはいえ、それは今思い起こせば紛れも無い事実。
でも、それでも俺には思う事がある。
「どういう原因で死んだのかは分からないけど、一番長い年月生きた場所なんだ。最後くらいはあの場所で迎えてもいいんじゃないかって思うんだよ」
「ヒスイ……」
「こんな人生だったんだ。最後くらいは俺だってゆっくり暮らしたいよ」
高校生の時にこの命を失って、異世界で大きな旅をしてそこで大切なものを学んで、色々な経験をした。それはこの世界でも同じだった。
そう、色々起きすぎてしまったのだ。
一息つく間もなく、この五年色々なことが起きた。だからせめて最後くらいはこの体をゆっくりと休ませてあげたい。
「もう戦いばかりで疲れたんだよ俺も。別にこの世界を悪いように言っているわけじゃないけど、できれば残された時間だけは戦いを忘れて暮らしたい」
元の世界に戻れば争いとかは起きない。だからこの残された余生は、いつも通りの俺でいたい。
「それなら一つ、いい案があるのですが聞いてくれますか?」
「何かあるんですか?」
「今私が微かにしているように、この城から離れた地で隠居するというのは駄目でしょうか?」
「隠居?」
その言葉自体には聞き覚えがある。確かに争いを忘れてのんびり余生を過ごすのにはもってこいの提案かもしれないが、この時代に魔法使いという存在を消したいという俺の気持ちとは反する。
「ヒスイ様がどういう考えをもって、私達の元から離れようとしているのかは分かりませんが、一つ勘違いしていませんか」
「勘違い?」
「あなたはこの時代を生きた魔法使いとして、一生私達の中から消える事はないんですよ。私達は絶対にあなたの事を忘れる事なんてありません」
俺の気持ちをまるで読み取ったかのようにそうノブナガさんは言った。
「俺なんか忘れてもいいんですよ。俺はこの世界でも沢山の人を傷つけてきました。だから名前なんて残す必要はないんですよ」
「残す必要がないだなんて、どうしてそんな悲しい事を言うんですか」
「俺は……魔法が使えるだけで、何も守れていないですから。ノブナガさん達も沢山傷つけて、マルガーテの戦いにも巻き込んで、俺って最悪ですよ」
マルガーテとの戦いを終えて、改めて全部を思い返して俺の中に残ったのは後悔という言葉だった。
それはかつて味わった同じ気持ち。
かつてサクラと一緒に世界を救った時に味わった同じ気持ち。
「ノブナガさん、ヒデヨシ、俺は二人に出会えて幸せでした。こんな俺の事を好きになってくれてありがとうございました。だからもう、俺がこの世界から去ったら魔法使いがいたことは忘れてください。俺からのお願いです」
■□■□■□
『勇者を殺した悪の魔法使い』
サクラと共に世界を救った時に、残された俺の名前はそれだった。
闇の力に手を染めて、あまつさえ勇者であるサクラに手を掛けた。
だから悪なんだと。
悪の魔法使いなんだと。
それを聞いたとき俺の中で全てが壊れた。世界を救うために力を欲してしまった己のなれの果て。こんな名前を残すために俺は戦ってきたわけではなかったのに、どうしてこうなってしまったのか。
俺をまず最初に襲ったのは後悔。次に憎しみ
闇に手を染めてしまった自分に対しての憎しみ。この手でサクラを殺してしまった自分への憎しみ。
こんなの俺じゃない。
闇に手を染めた自分は桜木翡翠という人間じゃない。
だから悪い事を全て忘れた。悪の魔法使いという自分をすべて忘れた。
桜木翡翠という人間は、その時二度目の死を迎えた。
「そんな事できないよヒッシー……。私はヒッシーを忘れる事なんてできない!」
「今はできなくていいよ。でもいつかは忘れてほしい」
そしてこの世界で生きた桜木翡翠は三度目の死を迎える。正真正銘の最後の死を。
「どうしてそんな悲しい事を言うんですかヒスイ! そんな事誰も望んでいるわけないじゃなですか」
「望んでなくたって、俺はそうしてほしいんです」
「だからどうして」
「もう嫌なんですよ自分が! 力があっても、身近の命を救う事も出来ない自分が! もう消したいんです、魔法使い桜木翡翠という名前を」
それが望まれていなくたって、俺はそれを望む。それがせめてもの贖罪だと思うから。
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