魔法を戦国時代に持ち込んだら何か無双した

りょう

第123陣不死鳥、空を舞う

 ヒッシーがこの世界に来てから、私は初めて誰かを好きになった。今までほとんど男性との接触がなかった私にとって、ヒッシーとの出会いは私の見る世界を変えてくれた。だからヒッシーの力になりたくて、沢山協力して色々な事を乗り越えてきた。

 だから闇に飲みこまれてしまった今回だって、役に立ちたかったからマルガーテに私は挑んだ。それなのに、何もできないなんて我ながら不甲斐ない。

「気を失ってしまいましたか。ここでトドメさしてもいいのですが、今回は一人で私に挑んできたことに免じて、見逃してあげましょう。まあ、次があるかは分かりませんが」

 目の前に敵がいるのに、私が気絶していると油断して背をめけている敵がいるのに、体が動かない。このすぐ手の届く距離に敵がいるのに、時間を稼がないといけないのに。

 動け。

 動け私の体。

 この後どうなってもいい。

 とにかく動け私。

 このハンマーで目の前の敵を……。

「ま……だ……終わっていない」

 叩け!

「どうやら次を望んでいないみたいですね。いいでしょう、これで次こそ終わりにしてあげます」

「……え?」

 まるで私が最後に動くことまで読んでいた可能に、こちらを向くマルガーテ。そして彼女から放たれる、ゼロ距離の魔法。

(避けられな……)

 その瞬間私は死を覚悟した。
 リアラちゃんが命を懸けて守ってくれたこの命ももう終わる。結局彼女が与えてくれた力を使えないまま。彼女の無念をこの敵にぶつけられないまま。

 全てが終わる。

 何もかもが全て。

 本当にそれでいいの?

 ここで諦めていいの?

 ヒッシーを、ノブナガ様を守れなくていいの私。

「そんなの!」

 いいわけがない!

「な、ゼロ距離で魔法を避けた?」

「喰らえぇぇ!」

 私は今ある力と、沢山の人が受けた傷を力に変えて、マルガーテにぶつけた。

「ぎゃぁぁ」

 いつの間にか私の体は軽くなっていた。今までの傷がまるでなかったかのように体が軽い。

(そういえば私……)

 自分の傷が勝手に癒えるようになっていたんだっけ。

「馬鹿な、ただの人間が私に傷を与えるだなんて。ましてや、その傷がいえる力、まさか不死鳥の魔法を」


「魔法とか難しい事は分からないけど、これはあなたを倒すために与えられた魔法だよマルガーテ。今まであなたが与えた苦しみや痛みを全て受け入れて、二度と誰も傷つける……な」

 何かが全身を駆け抜けた。その直後には体が動かなくなる。

「甘い、甘い! 私がこんな事でやられるとでも思ったら、大間違い! たとえ不死鳥でも、絶対的悪の私を倒す事なんてできない!」

 マルガーテは今度こそ私に止めを刺そうと、今まで以上に大きな魔法を私に放つ。体を動かせない私は、それを避ける事などできずに直撃をするのを待つことしかできない。

(あと一歩だったのに……)

 結局私は誰の役にも立てない駄目ない人間なんだ。

「そんな事ないぞヒデヨシ」

 全てを覚悟したその時、私の目の前に一閃、太刀筋が放たれたと思った次の瞬間、マルガーテが放った魔法は消し飛んだ。

「な、私の魔法が」

「この声……」

「ヒデヨシさん!」

 聞きなれた声が私に駆け寄って来てくれる。

「よくここまで頑張ってくれたなヒデヨシ」

 そしてもう一つ、私がずっと聞きたかった声。

「遅いよヒッシー……」

 ■□■□■□
「だから動いちゃ駄目ですって、ヒスイ」

「休んでいる場合じゃないんですよ。今この瞬間建て、ヒデヨシは頑張っているのに無視できるわけないじゃないですか!」

「その体じゃ死ににいくようなものですよ?!」


「分かっています、それでも」

 俺はヒデヨシを助けに行くことを諦められなかった。ノブナガさんが何を俺に言って雇用が、この体が使えなくなろうが諦める事は出来ない。

「それでも俺は、あいつとは決着をつけないといけないんです」

「ならせめてその傷を少しでも癒してからにしてください。ヒデヨシさんはそこまでならきっと耐えてくれますから」

「……」

 本当は今すぐにでも向かいたい。でもノブナガさんが涙をまた流し始めてしまったので、俺は流石にためらってしまう。ヒデヨシを信じられないわけではない。ただ、力の差が激しすぎる。ヒデヨシが時間を稼ぐのだって、きっと長くはない。

「それに忘れましたか? 今のヒデヨシさんには新しい力がある事を。ヒスイが教えてくれたじゃないですか」

「リアラが与えてくれた力ですか? でもあれはあくまで」

 不死鳥の名の通り自分の傷が癒せるのと、癒した分だけ力に変える事ができる力だ。つまり彼女が傷を受ける前提でないとそれは通用しないわけで……。


(いや、逆にそれの方が……)

 時間を稼ぐことくらいはできるかもしれない。マルガーテはその事をまだ知らないし、うまく活用すれば……。

「とにかく今は信じましょう。一旦私達は城に戻って、ノアさんに回復を計ってもらいましょう」

「心配ではあるんですけど、分かりました」


 俺とノブナガさんはその後敵を潜り抜けて一度城へと戻る。戻るとすぐに、支障を見つけ、現状の報告と無事に帰還したことを報告した。

「言いたいことは沢山ありますが、よく戻って来てくれましたねヒスイ。そのあなたに最後の力を与えようと思います」

「最後の力?」

「師から弟子に教えられる本当に最後の教えです」

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