魔法を戦国時代に持ち込んだら何か無双した

りょう

第122陣その光の名は希望

 気が付かない内にマルガーテとの戦いで、俺は沢山のものを失っていた。桜やミツヒデ、リアラ、他にも沢山大切なものを失った。

 守らなければならない立場だったのに、俺は何一つ守れていなかった。

「守れなかったものもありますが、守れてきたものもあるんじゃないですか?」

 ノブナガさんはそう言う。確かに守れたものだってある。だけど俺にとっては失ったものの方が多い。

「過去に縋るのを悪いとは言いません。しかしそれを力に変えて前に進むのが私達人間ではありませんか?」

 いつしかそんな事を彼女は言っていた。だけど俺にはその言葉を受け入れるのは難しかった。サクラをこの手にかけて、世界の救世主から悪者になって、俺はあの世界での存在価値がなくなって、逃げるように一度死んだ自分の世界に戻ってきた。

 あの過ちを強さに変える事は出来ない、

 そう思って今日まで生きてきた。だからその心の隙をマルガーテに付け込まれて、こんなどうしようもない自分になってしまった。きっと目を覚ました時、俺に残っている物は何もない。きっとノブナガさんだってこんな俺の事なんて……。

「ヒスイ様、戻ってきてください!」

 微かに彼女が俺を呼ぶ声がする。だけどその声に俺は答える事はできない。今俺を覆っているのは完全な闇。もうノブナガさんと話すことも、彼女の顔も見ることもできない。

 でもそれが己の罪ならば、甘んじて受けよう

(ノブナガさん、ごめん。俺は……もう止められない)

「駄目だよサッキー」

「え?」

 この声はサクラ? こんな闇の中で、彼女の声をまた聴けるなんて……。

「サッキーは私の光なんだよ? 世界を照らす光なんだよ。それなのに諦めたら駄目だよ」

「光? 俺がそんなわけ」

「じゃあ何で私はサッキーに託したんだと思う? 私はサッキーにこれからも長く生きてほしいからなんだよ。長く生きて沢山の人の光になってほしい。そう願ったの」

「だから俺にはそんな資格は」

「ある! 私がそれを断言する!」

 いつだってサクラは前向きだった。いくら俺がネガティブになっても常に彼女が前向きで、元気で、明るかったから俺も前を向けた。

 俺にとって彼女こそ光だった。

 その彼女が俺に託してくれた光。どんな暗闇だって道しるべとして照らしてくれる光。

(そうか、俺の中にはずっと)

 勇者サクラという光が灯り続けていたんだ。俺はその光を見失いかけていた。でも今一度彼女に叱咤されて、俺は今初めて気づいた。

 自分の中の光を。

 光という名の希望を。

「私はサッキーに全てを託した。だから頑張って。いつだって見守っているから」

「ああ、ありがとう。サクラ」

 もう俺はそろそろ卒業しなければならないようだ。過去の呪縛から。サクラから。

 そして出発しなければならない。

 未来へと。

 気が付けば俺を覆っていた闇は消え去り、俺を光が照らしていた。

 ■□■□■□
「はっ」

 意識が覚醒すると、目の前に仰向けで倒れているノブナガさんがいた。俺は何故か右手を振り上げている。

「ヒスイ……?」

「ノブナガ……さん?」

 俺は振り上げていた腕を下す。その様子を見たノブナガさんは、何も言わずに俺を見つめ続けている。そしてしばらくした後に、彼女は涙を流し始めた。

「元に戻ったんですね、ヒスイ」

「ノブナガさん、俺」

「よかった、本当によかった」

 俺は突然の事にどう反応すれば分からない。でも確実に分かっている事は、俺は暗闇の中から帰還したこと。そして過去と同じ過ちを犯してしまうところだったこと。もしあとほんの少しでも遅れてしまっていたら、彼女の涙も、彼女の声も全て失っていた。

 俺はたった今、過去を乗り越えたんだ。

「ごめんなさい、ノブナガさん、俺多分傷つけちゃいましたよね」

「いいんですよ、戻って来てくれたなら」

「でも……」

「ごちゃごちゃ言わないでください。私は何も気にしていませんから」

「ノブナガさん……」

 俺は力が抜けたかのように座り込む。ノブナガさんも大きな傷は負っていないからか、俺と入れ替わりで立ち上がった。

「それにまだ戦いは終わっていませんから。これからマルガーテを討ちに行きますよ」

「今マルガーテとは誰かが戦っているんですか?」

「はい。ヒデヨシさんが。本人が希望したのですが、長く持つかは分かりません」

「ヒデヨシが……なら、急がないと」

 いくらヒデヨシでも一人じゃ相手が悪すぎる。もし余計な事をマルガーテに吹き込まれていたらと考えると、大人しくしていられない。

「ヒスイ、無茶したら駄目ですよ。あなたの体はかなり傷ついているんですから」

「このくらいの傷は平気です。ノブナガさん達に与えた傷なんかよりもこのくらいの傷」

 ヒデヨシが戦っている場所に向かおうとするが、全身に強烈な痛みが走り、まともに歩けない。マルガーテとの事は俺の責任でもあるのに、こんなところで体が動けないなんて……。

「やっぱり休んでいてください。マルガーテとは私が決着付けてきますから」

「それじゃ駄目なんです。俺が……俺が決着を……」

 沢山の人の無念を晴らすためにも、俺が倒さないと。

 俺が……。


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