魔法を戦国時代に持ち込んだら何か無双した

りょう

第116陣桜と翡翠 後編

 師匠の言う通り、怪我はある程度治ってはいるが未だに桜は苦しそうだった。今夜が山場という事は、そういう事を示しているのだろう。

「とりあえず無事でよかったよ」

「翡翠の師匠の……おかげだよ。でも……まだ苦しい」

「今夜が山場って師匠も言っていたから、明日には苦しいのもなくなるだろ」

「そうだといいけど……」

 一旦会話が止まる。久しぶりに二人きりになったからなのか、どうも話す事がない。ましてや桜は今怪我人だ。話す事なんて簡単には見つからない。

「ねえ翡翠」

「ん?」

「翡翠は……全部終わっても……この世界に残るの?」

「何か前にもそんな事聞いたな。それはまだ分からないし、正直お前の事もあるから悩んでいる」

「そっか……。私の事も考えてくれているんだ」

「当たり前だろ。お前は俺にとって大切な人の一人なんだから」

「なんか嬉しい……。でも、それはつまりこの前の告白は、ノーという事になるのかな……」

「それは……」

 なんとも言えなかった。桜の気持ちはすごく嬉しいし、もしこの世界に来てなければ、その気持ちを受けてとっていたかもしれない。

 だから自分の中の本心が分からなかった。

 ノブナガさんの事が好きなのはハッキリしているのに、何故か俺の心は揺れ動いている。

「私ねいつかはこの想いを告げたいなって思っていたの。……その後 でも翡翠は、何度も私の目の前からいなくなって……その機会が全然なかった……」」

「それは何か悪い事をしたな。俺も一度ならず二度も異世界に飛ばされるなんて思ってもいなかったからさ」

「それが翡翠らしいところも……あるけどね……」

 会話していく内に、桜の声が徐々に薄れていく。

「桜?」

「あれ……どうしてかな……。声が出なく……」

「おい、桜!」

 慌てて桜の方に寄り、手を握る。しかし彼女の手の力は徐々に弱り始めていた。

「……ごめん……翡翠……私……」

「桜、駄目だ! お前までいなくなったら俺はどうすればいい」

「大丈夫……翡翠には……仲間がいるんだから…………」

 ゆっくりとその瞳を閉じる桜。まだ呼吸はしている。なら、間に合う可能性はある。


「待ってろ、今師匠を呼んでくるから!」

 俺は一度彼女の手を床に置き、急いで師匠を呼びに行く。

(頼むから……間に合ってくれ)

 桜まで失う事になったら俺は……もうどうすればいいか分からなくなる。だから頼むからあと少しだけ……我慢してくれ桜。


 徐々に心臓の鼓動が弱まってくるのを感じる。目を開ける力も湧いてこない。

(駄目だな私……)

 今翡翠は彼の師匠を呼びに向かっている。もう一度彼がもどってくるまでは、この命はもってほしい。

(そうしないと私……)

 翡翠にちゃんとお別れできていない。だからせめてあと一分だけでも……。

「桜! 今師匠をよ呼んできたからな」

 翡翠の声が聞こえる。きっと私の耳に届く最後の声だろう。私も何かを言わないと……。

「…………ありがとう、翡翠……」

 ◼︎◻︎◼︎◻︎◼︎◻︎
 夜が明けて朝がやってくる。

 ずっと暗かった部屋に外からの明かりが灯る。

「もう朝か……」

 夜が明けたことに気がついた俺は、ゆっくりと体を起こす。身体には誰かがかけてくれたであろう布団が一枚かかっていた。

 そして横を見るとそこには 桜が眠っていた。

「…… 桜」

 名前を呼ぶが、当然起きてくる様子はない。もうそんなのとっくに分かっている。彼女は昨日の夜、師匠の治療も間に合わずにその命を落とした。彼女が最後に残したのは、

 ありがとう、翡翠。

 ただその一言だけだった。

(最後に感謝の言葉なんて、お前らしいよ)

 桜が亡くなったことが確認されてから、ずっと泣いていたからか目がまだ痛い。

「翡翠様、起きていますか?」

 外からノブナガさんの声がする。

『起きていますよ……ノブナガさん」

「よかった。皆さん心配していますよ、翡翠様の事」

「心配されるほど弱くないですよ俺も。ただ……もう少しだけ俺に時間をくれませんか? まだ整理がつかなくて」

「分かりました。でもちゃんと皆さんの前に顔を出してくださいね、決して危険な事だけはしないでください」

「はい」

 去っていく足音が聞こえる。どうやらノブナガさんはそれだけを伝えに来たようだ。

(ごめんなさうノブナガさん、俺やっぱり……)

 リアラや桜を失い、俺の精神はいよいよ限界に来ている。

(もう我慢の限界だ)

 今すぐにでもマルガーテをこの手で倒しに行く。

『あなたは何度も私に敗れています。それでも私に挑むというなら、それは無駄だと思いますよ」

 そう考えたと同時に、桜が眠っているさっきまでの部屋が、いつか見たような異空間へと変貌する。

「まさかそっちからきてくれるとはな、マルガーテ!」

 それに気づいた俺は、迷う事なくマルガーテへと立ち向かう。武器はなくても俺には魔法ともう一つの力がある。これなら今度こそマルガーテを。

「だから無駄だと、私は何度も警告しているはずですが」

 今にもマルガーテに触れようとしたその時、俺の身体はあの異空間ではなくて、城の外へと投げ出されていた。

「な、んだと」

「これで本当に終わりです、魔導師さん」

 投げ出されたのは城の天守閣の外。つまり地面までの距離はかなりあるわけで……。

「うそ、だろ」

 突然の力に抗う事はできず、俺はそのまま地面へと落下していくのであった。

「魔法を戦国時代に持ち込んだら何か無双した」を読んでいる人はこの作品も読んでいます

「恋愛」の人気作品

コメント

コメントを書く