魔法を戦国時代に持ち込んだら何か無双した

りょう

第27陣三つ巴の戦いー絶望の袋小路ー

 翡翠がヨシモトと戦っている最中、別行動をしているヒデヨシはある違和感を感じていた。先程から自分が進んでいる道には、徳川軍はおろか上杉軍すら見当たらない。

(道間違えたのかな)

 しかし彼女が進んできたのは一本道。間違えるはずなどなかった。だとしたら何故……。

「答えはこういう事じゃ。豊臣秀吉」

「え?」

 どこからか声がしたかと思うと、前方と後方から敵兵が一斉に沸いて出てきた。そしてその集団を率いていたのは、ネネを連れた徳川軍総大将徳川家康。そう、ヒデヨシは徳川軍に包囲されてしまったのだ。

「なっ、どうして」

「お主なら確実にこの娘を追ってくると思っていたからのう。罠を張らせてもらった」

「お姉様、私に構わず逃げてください!」

「心配しなくていいよネネ。私が絶対に助けるから」

「お姉様!」

 こんな絶体絶命な状況でも、彼女は逃げようだなんて思わなかった。敵に背を向けるだなんて、戦人として格好悪い。それにネネを助けると決めた以上、ここで退けない。

(ヒッシーだって頑張っている。だから私だって負けられない)

 相棒のハンマーをしっかりと握りしめ、そしてヒデヨシは敵兵の中へと突っ込んで行った。

 ◼︎◻︎◼︎◻︎◼︎◻︎
「ヒデヨシ?」

 あまりにしつこいヨシモトを相手にしている最中、何故か一瞬だけヒデヨシの声が聞こえたような気がした。何か悪い予感がする。

「どこを見ているんですか。敵はこっちですよ」

「あーもう、しつこい! 頼むからヨシモト、ここを通してくれ」

「そうは行きません。ここで会ったら百年目。決着が着くまで私は終わりません」

「ここで会ったら一週間だって。お前に構っている暇はないんだよ!」

 太刀にまた新たな力を宿す。今度は雷の魔法。これを与えれば、しばらくは動けなくなるはず!

「雷・一の太刀!」

「きゃあ」

 雷を纏った一撃をヨシモトに与える。これは痺れ効果を伴った攻撃なので、直撃したら最後、身体が痺れて動けなくなる。

「か、身体が、動かない。どうして?」

「悪いなヨシモト。決着はお預けだ」

 元通った道を急いで引き返していく。今は上杉軍よりもヒデヨシの方が大切だ。せめてこの悪い予感だけは消えて欲しいのだが……。

「な、何だこれ」

 そして引き返すこと五分。俺は道を塞ぐ大量の兵達と出くわした。この鎧、間違いなく徳川の物だ(さっき見て、見分けをつけた)。

「まさか」

 俺は不意打ちと言わんばかりに、大量の徳川の兵に向けて風の魔法を使って吹き飛ばす。

「な、なんじゃ」

 聞き覚えのない声が遠くから聞こえる。徳川の兵をあらかた片付けると、少し間隔を開けて第二陣が見えた。そこには先程の声の主と、それに捕らえられているネネと、ボロボロになって倒れているヒデヨシの姿があった。

「ヒデヨシ!」

「ヒッ……シー……?」

「何じゃお主」

 当たってしまった。俺の嫌な予感が。若干相手の陣形が崩れているのは、恐らくヒデヨシが崩してくれたのだろう。だがあれだけの数を一人で相手するのは、高難度の物だ。

「大丈夫かヒデヨシ」

 俺は慌ててヒデヨシに駆け寄る。酷い怪我を負っているようだが、どうやら命に別状はないらしく、こきゅうはしっかりしていた。

「ごめんヒッシー……私……」

「喋るな、今はゆっくり休んでてくれ」

「ヒッシー……は?」

「ネネを助ける」

 ヒデヨシを一度安全な場所に移動させ、俺は徳川軍と向き直る。

「よくもヒデヨシやネネを傷つけてくれたな」

「誰じゃお主は。妾の兵を何故一瞬で倒せた」

「俺は織田軍第一攻撃隊隊長、桜木翡翠。お前は?」

「妾は天下人徳川家康じゃ。織田の兵ならば、ここで討たせてもらおう」

「それはこっちのセリフだ。ヒデヨシとネネを傷つけた分の借り、きっちり返させてもらう」

「かかってくるがよい!」

『いざ、勝負!』

 ◼︎◻︎◼︎◻︎◼︎◻︎
「はぁ……はぁ……」

 戦いは一方的な物になってしまった。ここまでにかなりの魔力を使ってきてしまったため、底をつき始めていた。その為か、家康に圧倒されて俺の体力も限界に来ていた。

「どうした、先程までの威勢はどこへ行ったのじゃ」

「ヒスイ!」

 ネネが俺の名前を呼ぶ声が聞こえる。彼女が俺の名前を呼んだのは、初めてな気がする。

「まだ……終わってない!」

 残り僅かな力を太刀に込め、至近距離からの一閃。それは確実にイエヤスを捉えたはずだった。だが、

「まだまだ甘いのう!」

「なっ!」

 イエヤスは傷一つついた素振りも見せずに、彼女の得意とする中国拳法で俺に一撃を加える。その威力の大きさに、ついに俺は地面に倒れてしまった。

「何じゃ面白くないのう」

「くっ……そ」

「これでお終いかのう」

 イエヤスは俺にトドメと言わんばかりに、頭を踏み潰し、もう一度足を上げて、かなりの勢いをつけて俺を踏みつけた。身体が動かない俺は、まともにそれをくらい、地面に頭がめり込んでしまう。

「が……は……」

 意識が遠のく。俺は助けられなかった。ネネを。守れなかった、この城を。

(ノブナガさん……)

「ヒスイ様ー!」

「……え?」

「何じゃ?」

 二日ぶりに聞いたその声に、遠のいていた意識がほんの少しだけ戻ってくる。

「ノブ……ナガ……さん?」

 だがそれも僅か数秒の話。その声の主を確認する直前に、俺は再び意識を失うのであった。

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