魔法を戦国時代に持ち込んだら何か無双した
第30陣止まない雨 晴れない心 前編
突然の解任に、俺は戸惑いを隠せなった。
「な、何で急にそんなことを言うんですか?」
  
「今ハッキリしたんですよ。ヒスイ様は、この先戦人として生き抜くことは不可能だと。城から追い出しはしませんが、これから一切の戦への出陣をさせない事にします」
「だからどうしてですか」
「どうしてもなにも、今のヒスイ様の言葉は、到底戦人としては思えない言葉だったからです。いいですか? 私達は常に死と隣り合わせの中で生きています。いつ何が起きるか分からないのはヒスイ様自身も知っているはずです。ですから、一々苦しんでいては駄目なんですよ。何度でも乗り越えて、その先に進まなければいけないんです」
前もノブナガさんは同じことを言っていた。確かにこの時代を生き抜くには大切なのかもしれない。先日の戦だって、ノブナガさんが来なかったら何か悪いことが起きていたのかもしれない。
それは俺も分かっていた。
だからこそ思い出してしまったのだ。あの時の事を。自分のせいで誰かが死んでしまうことが怖くなったから。
でも俺は、それを乗り越えることなんて……できない。
「何が……変なんですか?」
「え?」
「助けられず、後悔して、苦しんで、何が変なんですか? 好きだった人を目の前で亡くして、それで傷ついて、苦しんで何が変なんですか!」
「ヒスイ様?」
抑えられない。言ってはいけないと分かっているのに、気持ちが抑えられない。
「死を乗り越えられなくて何が悪いんだよ! 俺はそもそも戦人でもない、普通の人間だ。だから苦しんだっていいだろ! 俺は人の命を軽くにはできない!」
「ヒスイ様!」
気がついたら部屋を飛び出していた。どこへ行くかなんて決まってない。部屋を飛び出して、城を出て、とにかく走った。頭からずっと離れないある想いを振り払いたくて、ひたすら走った。
◼︎◻︎◼︎◻︎◼︎◻︎
ようやくその足を止めたのは、部屋を飛び出してかなりの時間が経った後だった。どこにいるのかは分からない。
「何やっているんだ俺……」
前に一度、同じことを言われた時には、こんなに胸が苦しくはならなかった。けど昨日の一件と、今朝の夢が俺の心を揺らした。魔法使いとしてあの世界にいた頃も、常に何かが起きていた。戦いだって絶えなかったし、平和を手に入れるまでかなりの時間をかけた。
そしてその長い時間の中で、多くの仲間を失った。
でも弱音は一々吐いている場合ではなかった。毎日のように魔王の手下と戦って、傷つきながらも自分の使命を果たした。後になってそれがどれだけ悲しい事なのか、気づいてしまった時には、俺はほとんどの物を失っていた。
だからせめて、守り通したかった。彼女を。それなのに……。
「何で今日に限って、雨なんだよ……」
土砂降りの雨が俺の体を濡らす。傘なんてない。雨宿りする場所もない。俺は今ここで一人ぼっち。
(もう戻れないのかな、俺……)
その雨は、まるで俺の心を表しているかのように、止むことはなかった。
◼︎◻︎◼︎◻︎◼︎◻︎
「ヒスイ様……」
翡翠が去った後、部屋に取り残された信長は、先程の自分の発言を、激しく後悔していた。
(流石に言い過ぎですよね……。私何も知らない癖に……)
でもあの言葉は事実だった。少しでも心が弱いと、いつか絶対に命を落としてしまう。ここはそういう世の中なのだ。それを彼に分かってほしかったが為に、あのような言い方をしてしまった。おまけに隊長の任を解くだなんて、普通では考えられない。
「ヒッシー、いる?」
そんな時、ヒデヨシが部屋を訪ねてきた。恐らく先程の事に関して、ちゃんと話したかったのだろう。だが、今はその彼がどこかへ行ってしまった。
「って、あれ? どうしてノブナガ様がヒッシーの部屋に?」
翡翠がいると思っていた彼女は、驚いた反応を見せる。今いるのは部屋の真ん中でうずくまるノブナガ一人。驚くのも当然の反応だろう。
「ヒスイ様は、行ってしまいました」
「行ってしまったって、どこにですか?」
「分かりません。恐らく城の外に出て行ってしまったと思います」
「城の外? どうしてですか?」
「私が彼を……彼を傷つけてしまったからです」
「え? それはどういう……」
ノブナガは全てをヒデヨシに話した。
「そんな……どうしてそんな事を言ったんですか?」
「ヒスイ様には分かってほしかったんです。ここはそういう場所で、私達はそういう人なんだって。そしたらヒスイ様は、こう言いました。『俺は戦人でもない。普通の人間だ』と。確かにそうですよね。ヒスイ様は私達とは違うんですよね」
「そんな事はないです! 私達だってヒッシーと同じ普通の人間じゃないですか。確かにちょっと特殊な環境かもしれませんけど、今こうして話をしているのは普通の人間だからじゃないんですか?」
「ヒデヨシさん……」
「私ヒッシーを探してきます。絶対に連れて返ってきます!」
そう言うと、ヒデヨシは部屋を出ていく。
「待ってください、ヒデヨシさん。私も……私も連れて行ってください!」
その後をノブナガは慌てて追うのであった。
「な、何で急にそんなことを言うんですか?」
  
「今ハッキリしたんですよ。ヒスイ様は、この先戦人として生き抜くことは不可能だと。城から追い出しはしませんが、これから一切の戦への出陣をさせない事にします」
「だからどうしてですか」
「どうしてもなにも、今のヒスイ様の言葉は、到底戦人としては思えない言葉だったからです。いいですか? 私達は常に死と隣り合わせの中で生きています。いつ何が起きるか分からないのはヒスイ様自身も知っているはずです。ですから、一々苦しんでいては駄目なんですよ。何度でも乗り越えて、その先に進まなければいけないんです」
前もノブナガさんは同じことを言っていた。確かにこの時代を生き抜くには大切なのかもしれない。先日の戦だって、ノブナガさんが来なかったら何か悪いことが起きていたのかもしれない。
それは俺も分かっていた。
だからこそ思い出してしまったのだ。あの時の事を。自分のせいで誰かが死んでしまうことが怖くなったから。
でも俺は、それを乗り越えることなんて……できない。
「何が……変なんですか?」
「え?」
「助けられず、後悔して、苦しんで、何が変なんですか? 好きだった人を目の前で亡くして、それで傷ついて、苦しんで何が変なんですか!」
「ヒスイ様?」
抑えられない。言ってはいけないと分かっているのに、気持ちが抑えられない。
「死を乗り越えられなくて何が悪いんだよ! 俺はそもそも戦人でもない、普通の人間だ。だから苦しんだっていいだろ! 俺は人の命を軽くにはできない!」
「ヒスイ様!」
気がついたら部屋を飛び出していた。どこへ行くかなんて決まってない。部屋を飛び出して、城を出て、とにかく走った。頭からずっと離れないある想いを振り払いたくて、ひたすら走った。
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ようやくその足を止めたのは、部屋を飛び出してかなりの時間が経った後だった。どこにいるのかは分からない。
「何やっているんだ俺……」
前に一度、同じことを言われた時には、こんなに胸が苦しくはならなかった。けど昨日の一件と、今朝の夢が俺の心を揺らした。魔法使いとしてあの世界にいた頃も、常に何かが起きていた。戦いだって絶えなかったし、平和を手に入れるまでかなりの時間をかけた。
そしてその長い時間の中で、多くの仲間を失った。
でも弱音は一々吐いている場合ではなかった。毎日のように魔王の手下と戦って、傷つきながらも自分の使命を果たした。後になってそれがどれだけ悲しい事なのか、気づいてしまった時には、俺はほとんどの物を失っていた。
だからせめて、守り通したかった。彼女を。それなのに……。
「何で今日に限って、雨なんだよ……」
土砂降りの雨が俺の体を濡らす。傘なんてない。雨宿りする場所もない。俺は今ここで一人ぼっち。
(もう戻れないのかな、俺……)
その雨は、まるで俺の心を表しているかのように、止むことはなかった。
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「ヒスイ様……」
翡翠が去った後、部屋に取り残された信長は、先程の自分の発言を、激しく後悔していた。
(流石に言い過ぎですよね……。私何も知らない癖に……)
でもあの言葉は事実だった。少しでも心が弱いと、いつか絶対に命を落としてしまう。ここはそういう世の中なのだ。それを彼に分かってほしかったが為に、あのような言い方をしてしまった。おまけに隊長の任を解くだなんて、普通では考えられない。
「ヒッシー、いる?」
そんな時、ヒデヨシが部屋を訪ねてきた。恐らく先程の事に関して、ちゃんと話したかったのだろう。だが、今はその彼がどこかへ行ってしまった。
「って、あれ? どうしてノブナガ様がヒッシーの部屋に?」
翡翠がいると思っていた彼女は、驚いた反応を見せる。今いるのは部屋の真ん中でうずくまるノブナガ一人。驚くのも当然の反応だろう。
「ヒスイ様は、行ってしまいました」
「行ってしまったって、どこにですか?」
「分かりません。恐らく城の外に出て行ってしまったと思います」
「城の外? どうしてですか?」
「私が彼を……彼を傷つけてしまったからです」
「え? それはどういう……」
ノブナガは全てをヒデヨシに話した。
「そんな……どうしてそんな事を言ったんですか?」
「ヒスイ様には分かってほしかったんです。ここはそういう場所で、私達はそういう人なんだって。そしたらヒスイ様は、こう言いました。『俺は戦人でもない。普通の人間だ』と。確かにそうですよね。ヒスイ様は私達とは違うんですよね」
「そんな事はないです! 私達だってヒッシーと同じ普通の人間じゃないですか。確かにちょっと特殊な環境かもしれませんけど、今こうして話をしているのは普通の人間だからじゃないんですか?」
「ヒデヨシさん……」
「私ヒッシーを探してきます。絶対に連れて返ってきます!」
そう言うと、ヒデヨシは部屋を出ていく。
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