魔法を戦国時代に持ち込んだら何か無双した

りょう

第50陣最初で最後の感謝の言葉

『本当サッキーは、何でもかんでも忘れるんだから』

 サクラの呆れた声が聞こえる。だがどこを見てもその姿は見えない。

「馬鹿、これでも一応忘れはしなかったんだぞ」

『嘘ばっかり。さっきだって、私の偽物に騙されかけていたくせに』

「あ、あれは……てか、見てたのかよ!」

『当たり前じゃない。私はいつもサッキーの側にいるんだから』

「そっか。ありがとうな」

 声しか聞こえないけど、また彼女の声が聞こえて嬉しかった。だからなのかもしれない。

「なあサクラ」

『ん? 何サッキー』

「俺……そろそろサクラの事卒業しようと思う」

 サクラという女の子から卒業しようと思ったのは。

 サクラからの卒業。

 それはつまり、サクラの死を乗り越えて、新しい人生をまた踏み出すことだった。果たしてそれが俺にできるのかは分からない。けど、もう不安は消えていた。今の俺にはノブナガさん達がいる。そして姿が見えなくても、すぐそこにサクラがいる。

 だからもう、怖くない。

『そっか。サッキーもやっと卒業か……』

「今まで迷惑かけて悪かった。でもいつまでも未練たらたらに生きて行くのも格好悪いだろ」

『うん。そうだね。それがサッキーらしいよ』

(俺らしい、か)

 これが自分らしさというのなら、それもいいのかもしれない。

『さてと、そろそろお目覚めの時間だよサッキー』

「やば、そういえばあれから意識を失ったままだった」

『偽物に騙されるから悪いんでしょ。ほら、しっかりしてね!』

 背中が叩かれる感触がする。彼女が本当に触れられたのか不確かだが、それを感じられただけで、俺は元気が湧いてきた。

「よし、まだやる事もあるし頑張らないと」

『頑張ってねサッキー。私応援しているから』

「ありがとう」

 それはもう二度と言うことができないであろう、俺からサクラへの感謝の言葉。今まで側にいてくれたこと、そしてこれからもいてくれることへの感謝。

「じゃあな、サクラ」

『バイバイ、サッキー』

 けどそれは、もう二度と言葉を交わすことができない、別れも意味していた。

(本当に今までありがとう、そしてさようなら。サクラ)

 最後に心の中でそう呟いたところで俺の意識は戻ってきた。目に映ったのは心配そうに俺を見ているノブナガさんの顔。

「ノブナガ……さん?」

「ヒスイ様!」

 ◼︎◻︎◼︎◻︎◼︎◻︎
 あれから数日が経った。あそこでサクラと出会って以来、あの夢を見ることはなくなったが、もう俺はあの日の事を忘れることはない。

「まだ痛むなぁ……」

「槍で貫かれているんですから、簡単には治りませんよ。しばらくは安静にしていてくださいね」

「分かっていますよ」

 そして俺はあの日を境に、少しずつではあるけど感情が変化していた。別に誰かが好きになった、というわけではないけど。

「でも本当に何があったんですか? 突然姿が消えるだなんて」

「多分義元が、あの空間を作り出してそこに俺を誘ったんだと思います」

「その空間とは、ヒスイ様の魔法と似たようなものなのでしょうか?」

「恐らくは」

 忘れていたがあれと似たようなものを一度見たことがある。もし先日のあれがそれと一致するなら、果たして今川義元、いやそれとは違う別の誰かは、何者なのだろうか? 何故サクラをを知っていて、彼女の事情まで知っているのか、ますます疑問が深まる。

「でも、その人物がヒッシーと関係があるなら、確実にこの世界の人間じゃないって事だよね?」

 そんな会話にヒデヨシが入ってくる。

「多分な。そして恐らくではあるけど、俺がここに来てしまった事と、直接的ではないにしろ関係していると思う」

「でも私そんな話聞いたことないよ? 特にそういう話は」

「そうですね。今川家は今までも存在していましたから」

「それは分かっているんですけどね……」

 そう、別に今川義元は特別な存在ではない。戦国時代を生き抜いた一人の武将。関ヶ原の戦いで敗戦するが、それ以外に大きな問題はない。

 では彼女は本当に何者なのだろうか?

 謎だけは残り続ける。

「そういえばヒスイ様、少し前にお話しした件、考えてくれましたか?」

「少し前の話?」

 少し前の話というと、誰かと付き合ってトラウマを解消しようって話だろうか?

「ああ、あれなら、もう必要なくなりました」

「それはどういう意味でしょうか」

「俺、サクラの事は吹っ切れたんです。夢だったのかもしれませんが、意識を失っている間に彼女と話ができました」

「亡くなられた方と話すってあり得るんでしょうか?」

「それはちょっと分かりませんけど、でも俺はそこで彼女の声を聞けたんです。そして気がつきました、サクラはずっと俺の側にいたことを。だからもう、俺は迷わないって決めたんです。他の誰の為でもない、自分の為に。サクラから卒業しようって」

「そうですか。よかったですね」

「え?」

「これでまた誰かを好きになれるじゃないですか」

「ま、まあそうですけど」

 そう簡単になれるものかな?

「これで私達も一安心です」

「ひ、一安心? 何がですか」

 何か意味深なことを言うので恐る恐る尋ねる。

「だってこれで、ヒスイ様に誰が告白しても、受け入れてくれるんですよね」

「い、いやそこまでは言ってないですけど」

 そんなことを言われ、俺は更に困惑する俺。それに対してノブナガさんは、

「楽しみにしていますからね、ヒスイさん」

 優しく微笑みながら、そう告げるのであった。

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