魔法を戦国時代に持ち込んだら何か無双した

りょう

第55陣世界でたった二つの物

 一通り準備を整え、城を出るとノブナガさんが既に待っていた。

「すいません待たせてしまって」

「いえいえ。では行きましょう」

 ノブナガさんが歩き出したので、俺もそれについて行く。一体彼女は、俺をどこに連れて行く気なのだろうか?

「そういえばノブナガさん、俺どこへ行くのか聞いてないんですけど」

「実は今から向かう場所は、先ほどの話と関係がある場所です」

「さっきの話って事は、もしかして俺の世界の事と何か関係があるって事ですか?」

「あくまで私の予想なんですけどね」

 先程の勾玉の話といい、今からノブナガさんが連れて行ってくれる場所といい、もしそれらが俺の住む時代と何かしらの関係があるとしたら、それは一体何を示しているのだろうか?
 勾玉はもしかしたら誰かが意図的にやったのかもしれない。ただし、俺たちではない第三者の誰かが。そしてそれはヨシモトと名乗ったあの人物の可能性がある。あくまで可能性の話ではあるけど。

「到着しましたよヒスイ様」

「え? ノブナガさんここって……」

 歩くこと二十分。ノブナガさんがその足を止めた。彼女が連れてきたある場所、そこは。

「はい。ヒスイ様と私が初めて出会った場所です」

 そう、全ての始まりとなったあの場所。俺が倒れていてノブナガさんが拾ってくれたあの場所だった。

「ここに特に何かあるとは思わないんですけど」

「実はこれは、ヒスイ様にまだ話していないことなんですが」

 説明しながらその場を少し掘り始めるノブナガさん。

「あったあった、これです」

 そして何かを取り出す。それは……。

「ノブナガさん、これって……」

「ヒスイ様がこの世界に来た際に、一緒に落ちていた物です。そして私はこれと同じ物を一つ持っていました」

「もう一つ持っていたって、それはあり得ない話なんですけど」

「はい。そのもう一つも拾い物なんです。そしてその二つが揃ったことは、何か意味があるのかもしれないと思ったので隠しておいたんです。もしかしたらいつしか、この青年にこの事を聞く時に使うのではないかって思いまして」

「その言い方だとノブナガさんは、何かを知っているみたいですけどどうなんですか?」

「実はこのもう一つの物を落とした人物を私とヒスイ様はよく知っているんです。そして彼女もこの世界の人物ではないことも」

「その根拠がこのペンダントですか。異世界の人物の俺が持っているということは、もう一つを持っている人物も異世界の人物であるから、って事ですね」

「はい」

 この時代にも、俺の時代にも決してない、俺がかつて異世界を旅した際にもらった、世界でたった二つしかないとあるペンダントだった。

「ノブナガさん、そのペンダントを持っていた人物って、もしかして」

 そして俺は、そのペンダントとの片割れを持つもう一人の人物をよく知っていた。いや、忘れるはずがなかった。最近も会ったのだから。

「あの今川義元です」

 ◼︎◻︎◼︎◻︎◼︎◻︎
 魔王の退治の旅を終え、大切な物を失いボロボロの身体で俺は王国へと帰還した。誰もが慰めの言葉をかけてくれた。だけどその言葉はどれも俺にとっては辛い物ばかりで、早くもとの世界へ帰りたい気持ちにさせていた。

 でもそんな時でも俺に厳しかった人物が一人だけいる。

「外へ出てくださいヒスイさん」

「外へって……うわっ」

「男のくせにいつまでも落ち込んでいてどうするんですか!?」

 その人はどんな時でも厳しくて、

「サクラは俺のせいで……俺のせいで死んだんです。落ち込むのも当然じゃないですか!」

「そんなんで勇者様が喜ぶと思いますか? 何の為に勇者様はあなたに未来を託したんですか? あなたにこの先も強く生きてもらう為じゃないんですか」

 どんな時でも親身になってくれて、

「でも俺は強くなんて生きれません」

「今から始めればいいんですよ。そんなの」

「え?」

「勇者様を守れなかったぶん、これから強く生きてもっと沢山の命を守ればいいじゃないですか」

「もっと沢山の命……を?」

 どんな時でも優しくて、

「それまでは私も手伝います。だから頑張りましょうヒスイさん」

 どんな時でも心強かった。

「はい。師匠」


「じゃあこの片方は、そのヒスイ様の師匠の物なんですか?」

「はい。あの世界を去る時に一緒にもらったんです。師弟の証だって」

 それが今ここにあるということが一体何を示しているのか?  その答えは一つ。そしてその答えは、俺にはあまりに残酷で、そして信じられない物だった。

「失くしたと思ったら、そこにあったんですね」

 その答えを言おうとした瞬間、背後から声がする。そして同時に何かが俺の身体を掠めた感覚がした。

「ヒスイ様!」

 俺は即座に剣を構えて、背後の人物と対峙する。

「まさかこんなに早く再会するとは思っていなかったですよ。しかもこんな形で」

「それは私の言葉ですよ、ヒスイさん」

「久しぶりにその呼び名を聞きましたよ、ノア師匠」

 背後で槍を構えていたのは、今川義元、いや俺の師匠だった人、ノアさんだった。

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