魔法を戦国時代に持ち込んだら何か無双した

りょう

第61陣ただ一つの答え

 ヒデヨシを救うにあたって、俺はかなりの魔力を消耗する事を予想していた。何せ慣れていない治癒魔法だし失敗もできない。ヒデヨシの身体がどれほどの時間もつかも分からないので時間もかけられない。その中で俺は確実に成功させる。ヒデヨシの為に、皆の為に。

「俺も頑張るから、お前も頑張ってくれよ」

 丁度昼の十二時、俺の初めての命を賭けた戦いが幕を開けた。
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「ノブナガさん、お姉様の事をヒスイに任せて本当に大丈夫ですよね」

 ヒスイ様がヒデヨシさんを連れて山へと向かって少しした後、ネネさんが私の部屋を訪ねてきた。彼女は恐らく不安なのだろう。彼に命を託す事を。だけどそれ以外に選択肢はないので、私達はそれを信じて待つしかない。

「今更何を言っているんですか、ネネさん。あなたも彼を信じたから見送ったんじゃないですか」

「そうですけど。それでも私はもしもの事を考えてしまうと、とても怖いです。私の目の前からお姉様がいなくなってしまいそうで」

 隠しきれない不安を吐露するネネさん。そんな彼女の頭を、私は優しく撫でてあげた。

「もしもの事を考えるから駄目なんですよ。ただ信じて待つだけでいいじゃないですか」

「ノブナガさん……」

 本当は誰だって不安だ。だけど、それを掻き消すのは簡単な事だ。

 ただ信じて待てばいい。

 もしも何て考えないで、ただ信じればいい。それが私が今思っていることだ。

「ノブナガさんは怖くないんですか? お姉様がいなくなってしまうかもしれない事を」

「私は怖くないです。ヒスイ様ならきっと、いえ絶対やってくれると思っていますから」

「すごいですね。どうしてそこまで言えるんですか?」

「愛、ですかね」

「あ、愛って。ノブナガさんも随分と大胆な発言しますね」

「毎日お姉様、お姉様と言っているネネさんよりはマシかと」

「そ、それこそ私のお姉様への愛ですから!」

 ついついからかってしまった私に、ツッコミを入れるネネさんは元気を取り戻していた。どうやら彼女の不安も無事に取り除けたようだ。

(それにしても、愛だなんて随分な発言をするようになりましたね。私も)

 これも全部彼のせいなのかな?

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「はぁ……はぁ……」

 慣れない作業を始めてからもうすぐ四時間が経つ。色々な行程等は終了し、あとは俺の魔力を使って彼女の闇触を消し去っていく作業だけなのだが、これがかなりの時間を要する。その為俺の体力も少しずつではあるが、衰え始めてきていた。

「ヒスイさん、そろそろ休んだほうがぁ」

 長時間この作業をしている俺を見かねたリキュウさんが声をかけてくる。心配なのは無理もないが、少しでも油断できないので、俺はその申し出は断った。

「マルガーテの事だから、ちょっとやそっとで終わるような事をしてないと思うんだです。だから気が抜けません」

「でもぉ、このままだとヒスイさんまでもがぁ」

「心配しないでくださいリキュウさん。そんなやわな事は起きませんから」

 少し強がってみるが、疲労が蓄積しているのは確実だ。でもこれは俺が起こしてしまった事だから、俺に責任がある。

「そんな事をしても無駄だと分かっているのに、よくやれますねサクラギヒスイ」

 そんな時少し遠くから声が聞こえる。嘘だろこんな時に……。

「マルガーテ、どうしてここが」

「影で監視さえしてれば、見つけるのなんて簡単な話ですよ。それよりも自分の身を案じた方がよいのでは?」

 一歩一歩近づく音が聞こえる。くそっ、こんな時にどうすれば……。

「ヒスイさんに手を出そうと言うなら、私がお相手いたしましょうか?」

 その間に立ち塞がるかのようにリキュウさんが立ちはだかったのを声で感じ取る。マズイこれだと、リキュウさんまでもが。

「初めて見る顔ですが、私の邪魔をするならもちろん死んでもらいますよ」

「上等です! 彼を守れるなら命の一つや二つくらい」

「リキュウ……さん! やめてください!」

 俺は一瞬だけ作業を止めて、リキュウさんを止めに入る。こんな所でまた誰かを失うなんて、そんなの御免だ。

「ヒスイさん!」

「かなりの魔力を消費しているはずなのに、私に挑むとは……。今度こそ死んでもらいますよサクラギヒスイ!」

 その俺を見るなりマルガーテは即座に魔法を唱え、そして俺に……ではなく魔法陣の上で眠るヒデヨシ目掛けて、闇の槍を放った。

「なっ、しまった……」

 それに数秒遅れて俺は反応する。もう間に合わない。

(俺はここでまた、誰かを失うのか)

 手を伸ばしてももう届かないそれは、確実にヒデヨシの元へ向かい、そして……。

 貫いた。
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「っ!?」

「ノブナガさん?」

 あれから約五時間。まだ良い知らせが来ない事を心配していると、私は一瞬だけ空気の流れが変わったのを感じた。この感じ、まさか……。

「ネネさん、少し城の留守をお願いします。私、今から山の方へ向かってきます」

「え? あ、ちょっとノブナガさん!」

 何かの予感がした私は、すぐに馬を走らせあの場所へと向かった。
 十分後、慌てて到着した私を待ち受けていたのは、

「ヒスイ様!」

 先日見たばかりの光景。魔王の娘と呼ばれる者とリキュウさんと、ヒスイ様とヒデヨシさん。そしてヒデヨシさんを守るかのように、槍に貫かれている、いや正確には自分に刺さるギリギリのところで、それを受け止めている、

「し、師匠……?」

 一人の大人びいた女性がそこにはいた。

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