魔法を戦国時代に持ち込んだら何か無双した

りょう

第83陣それぞれが守るべきもの

 事が動いたのはこの二日後。ヒデヨシも少しずつ落ち着き始めて、いよいよ打倒マルガーテの為に動き出した頃だった。

「え? イエヤスが?」

「はい。どうやらヒスイ様にお話があるらしいんですよ」

 それは徳川家康本人による安土城への来訪。しかも俺に直接話があるらしい。

(計画への第一歩になるといいけど、イエヤス自身が俺に話ってなんだろ)

 一年前の包囲網突破作戦以来の顔合わせになるが、正直俺は会う事に躊躇いを感じていた。一年前俺は彼女との一対一に勝ちはしたものの、あれが勝ちとは呼べるものではなかった。だからいつかはリベンジしたいと思っていたし、イエヤスにはボクっ娘の件も含めて会いたくない節がある。

「でももう、すでに通しちゃっているんですよね」

「はい。ですからヒスイ様、ここはあなたに任せます。ただし」

「争いになるような事だけは避けろ、ですよね」

「はい。これはある意味でチャンスなので」

「分かりました」

 ここに来てしまっている以上、会う以外ないので俺はイエヤスを通してある部屋へと向かった。

「お久しぶりじゃのう、織田の新入り」

「俺はもう新入りなんかじゃないよ」

 部屋に入ると俺を見つけるなり、そう挨拶をする。見た所敵対心はなさそうだけど、まだ何が起きるかは分からない。

「すまぬのう。わざわざ時間を作ってもらって」

「別に時間はあったから構わない。それより俺に話ってなんだよ」

「実はのう、お主に一つ頼みごとをしたくてのう」

「頼み事?」

 敵でもある俺にか?

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「なるほどな。それはちょっと気になる」

 一通りイエヤスの話を聞いた俺は、そう結論付けた。

「おかしな話じゃろ?前から起きていたならともかく、それはここ数日の内に起きている事じゃ。妾がどうにかできるか考えてみたのじゃが、いくら考えてもその方法が思いつかぬ」

「だろうな」

 イエヤスの話はこういうものだった。
 ここ数日徳川の兵が突然倒れ、命を落とすという謎の現象が起きているらしい。今イエヤスも言ったが、解決方法を模索してみたものの、全く原因が掴めず、どうすればいいかと俺を頼ったらしい。

(やっぱり影響が出始めているな)

 ヒデヨシの件や、その他色々な事でマルガーテが姿を現している。それは決してこの世界に存在してはいけないもの。更に彼女は魔族の娘である為、異常な量の瘴気を発している。もしかしたらそれが影響しているのではないかと俺は考えた。

「なあイエヤス、一つ聞いていいか?」

「何じゃ」

「俺はその原因はなんとなく分った。でもそれを解明するためには俺やノブナガさん達の手だけじゃ足りない。だから協力してほしいと頼んだら、協力してくれるか? たとえ敵でも」

「勿論じゃ。じゃが、ただでとはいかぬ」

「出来る限りの条件は飲むつもりだけど、何だ」

「織田のところにおる、ネネをこちらに返してもらいたい。勿論この件が片付いてからで構わぬ」

「それはつまり、協力してほしければなかまをうれってことか?」

「売れとまでは言わぬ。ただ、妾にだって天下統一を目指すなりのプライドかある」

 分かってはいたけど、やはり簡単にいくような話じゃなかった。確かにネネは元徳川の忍びだってことは皆が知っている。
 だけどそれを協力してもらうために売るだなんて行為は、俺にはできないし、そんなのネネだって納得しないだろう。勿論ノブナガさんや皆も反対だ。なら、どうすればいい。

「それは飲めない条件だな」

「じゃあ交渉決裂という事じゃな」

 そう言うと突然イエヤスは刀を取り出し、それを俺に向けた。

「妾にも守らなければならぬものがある。その為ならどんな手でも使わせてもらう」

「やっぱり最初からその気だったか」

 こうなってしまった以上は、もう後には退けない。俺も太刀を取り出す。お互い刃を向け合うが、それより一つ気になることが。

「なあイエヤス」

「何じゃ。気が変わったのか?」

「いや、そうじゃない。ただ単に、ここで戦うのはどうかと思うんだが」

「……」

 流石に六条間くらいしかないこの部屋で、戦ったらノブナガさんに怒られそうだ。

 ◼︎◻︎◼︎◻︎◼︎◻︎
 城を出たところにあるいつもの闘技場で、イエヤスと決着をつける事になり、闘技場へやって来た俺とイエヤス。

「まさかまたお前と戦えることにかなるなんてな」

「これで刃を交えるのは三度目になるかのう。一度はお主に負けておるが、今度はこちらも本気でいかせてもらう」

 お互い構え、いよいよ戦いを始めようとしたその時だった。

「うっ……」

 突然イエヤスが手から刀を落として、蹲ってしまったのだ。

「イエヤス?」

 何が起きたのかと慌てて駆け寄って、俺はある事に気がついた。

「お前、これ……」

 それはかつてヒデヨシの身体にも見られたもの。それと同じものが、イエヤスの身体にあった。

「最初は気にならなかったのじゃが、やはり身体が持たぬか」

「最初からこれを治してもないたかったんじゃ……」

「すまぬ新入り、いやヒスイと言ったか。徳川を……」

 そこまで言ってイエヤスは気を失ってしまう。

「イエヤス!」

 何で彼女までこんな目に……。

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