魔法を戦国時代に持ち込んだら何か無双した
第84陣祈りの先の悪夢 前編
急遽イエヤスを安土で治療する事になり、その役割はやはり俺が担う事になった。
「ヒスイ様、無理だけはなさらない方が」
俺の事情を知っているノブナガさんが止めようとする。俺も無理なのは分かっていた。だけどこのまま無視する事なんて俺にはできない。
「たとえ敵でも、目の前で困っている人がいたら無視できないんですよ」
それはこの世界に限った事ではない。敵だろうがてきじゃなかろうが誰かが困っていれば、その手を差し伸べる。それをモットーに俺はここまで生きてきた。
「多少無理する事になるかもしれません。しかしやらなければいけないと俺は思います」
「でもヒスイ様の身体が……」
「大丈夫です。俺はこのくらいでへばったりしませんから」
とは言うが、やはり魔力の消費には気をつけたい。かつて同じ事をして寝込んでしまった事もある。それにもしマルガーテが攻めてきたら、その時はどうすればいい。ら
 
「安全性を考慮して、今回は城の地下にある部屋で治療しましょう。その方が何か起きたら誰でも助けに向かえますから」
「城の地下?」
牢獄以外になにかあったっけ?
◼︎◻︎◼︎◻︎◼︎◻︎
「滅多に使うことがないんですけど、今回は特別に使いましょう」
ノブナガさんに連れられてやって来たのは、城の地下にあるかなりの大きさの部屋。中には何もないが、ここで何か大掛かりな作業をするなら、純分の広さだ。
「城にこんなところがあったんですね。でもどうしてヒデヨシの時に使わなかったんですか?」
「その時はまだなかったんですよ、ここ。最近になって、非常時のために作りました」
「なるほど」
とりあえず部屋の真ん中にイエヤスを寝かす。床が硬いので、一応敷物は敷いてある。
「さてと、やるか」
「ヒスイ様、先ほども言いましたけど、決して無理だけはしないでください」
「心配しないでください。無理はしませんから」
「では私は一度この辺で。何かあったら見張りをつけておきましたのでその方に声をかけてください」
ノブナガさんはそう言い残して、部屋を出て行く。二人だけになった俺は、早速準備に取り掛かる。
(無理をしようとしているのは、俺も分かっている。だけど、それでも俺はやらなければならない)
共に旅をしたリアラがそうしてきた様に、俺もやらなければならない。
それが俺の使命でもあるのだから。
◼︎◻︎◼︎◻︎◼︎◻︎
「では見張りお願いしますね」
ヒスイ様とイエヤスを部屋に残し、兵を二人見張りにつかせて地下を出た私は、その場で座り込んだ。
「はぁ〜」
まさかイエヤスがヒデヨシさんと同じものにかかってしまうだなんて、想像できなかった。ここを訪ねてきたのも自分のを治してもらいたかったからなのかもしれない。
(敵に助けを求めるほど、徳川家はピンチなのですかね)
そんな事を考えると、どうも他人事だとは思えなくなってきた。
「それに将軍を心配して、コソコソついてくる方もいますからね」
「っ!?」
誰もいない空間に、わざと声をかける。イエヤスがここに来てから、ヒッソリ彼女が付いてきていたのは、とっくにお見通しだった。
「心配なのは分かりますけど、そんなストーカーまがいな事をしなくてもいいんじゃないですか? 忍者さん」
「わ、分かっていの? ボクが最初からいたのを」
「勿論ですよ」
スッと姿を現したのは、徳川の忍。ヒスイ様はボクっ娘とか呼んでいたけど、実の所私も名前は知らない。
「イエヤス様が敵陣に一人で向かうと聞いて、ボクは心配だったんだよ。イエヤス様のお身体が悪いのも知っていたから……」
「だったらどうして、二人が戦うのを止めなかったのですか? その場にいたなら私は止めますけど」
「止められなかったんだよ。二人もそれを承知していたみたいだし」
「お互い守りたいものがあるから、ですか?」
「そうだよ。イエヤス様は自分の兵がこうなってしまった事に責任を感じているんだよ。織田さんにも分かるでしょ?」
「勿論分かります。私にだって守りたいものがありますから」
ヒスイ様が守ろうとしているように、私にも守りたいものがある。もう二度と、同じ過ちを犯さないためにも。
「でもボクが止めていれば、イエヤス様が倒れる事もなかった。だから責任は感じているよ」
「戦わなかったにしろ、恐らくイエヤスは倒れていましたよ。本当は倒れそうなくらいギリギリだったはずですから」
「それに気付けなかったボクは、少し情けないよ」
それからしばしの沈黙が流れ、時間が少しずつ進んでいく。
一時間
二時間
何か大きな報告はないので、事件は起きていないと思うけど、私は心配だった。ヒスイ様は残りの命が少ないと分かっていても、イエヤスを助けようとしている。それを私は外から待つことしかできない。
(待たないと……信じて待たないと)
だけど何もする事ができない私は、イエヤスを心配する忍者さんと共にひたすら無事を祈って待つことしかできなかった。
そして……。
その二つの祈りは、無惨にも悲しい結果を引き起こすことになるなんて思ってもいなかった。
「ヒスイ様!」
「い、イエヤス様」
それは二人が地下に入ってから、五時間が経過した頃の事である。
「ヒスイ様、無理だけはなさらない方が」
俺の事情を知っているノブナガさんが止めようとする。俺も無理なのは分かっていた。だけどこのまま無視する事なんて俺にはできない。
「たとえ敵でも、目の前で困っている人がいたら無視できないんですよ」
それはこの世界に限った事ではない。敵だろうがてきじゃなかろうが誰かが困っていれば、その手を差し伸べる。それをモットーに俺はここまで生きてきた。
「多少無理する事になるかもしれません。しかしやらなければいけないと俺は思います」
「でもヒスイ様の身体が……」
「大丈夫です。俺はこのくらいでへばったりしませんから」
とは言うが、やはり魔力の消費には気をつけたい。かつて同じ事をして寝込んでしまった事もある。それにもしマルガーテが攻めてきたら、その時はどうすればいい。ら
 
「安全性を考慮して、今回は城の地下にある部屋で治療しましょう。その方が何か起きたら誰でも助けに向かえますから」
「城の地下?」
牢獄以外になにかあったっけ?
◼︎◻︎◼︎◻︎◼︎◻︎
「滅多に使うことがないんですけど、今回は特別に使いましょう」
ノブナガさんに連れられてやって来たのは、城の地下にあるかなりの大きさの部屋。中には何もないが、ここで何か大掛かりな作業をするなら、純分の広さだ。
「城にこんなところがあったんですね。でもどうしてヒデヨシの時に使わなかったんですか?」
「その時はまだなかったんですよ、ここ。最近になって、非常時のために作りました」
「なるほど」
とりあえず部屋の真ん中にイエヤスを寝かす。床が硬いので、一応敷物は敷いてある。
「さてと、やるか」
「ヒスイ様、先ほども言いましたけど、決して無理だけはしないでください」
「心配しないでください。無理はしませんから」
「では私は一度この辺で。何かあったら見張りをつけておきましたのでその方に声をかけてください」
ノブナガさんはそう言い残して、部屋を出て行く。二人だけになった俺は、早速準備に取り掛かる。
(無理をしようとしているのは、俺も分かっている。だけど、それでも俺はやらなければならない)
共に旅をしたリアラがそうしてきた様に、俺もやらなければならない。
それが俺の使命でもあるのだから。
◼︎◻︎◼︎◻︎◼︎◻︎
「では見張りお願いしますね」
ヒスイ様とイエヤスを部屋に残し、兵を二人見張りにつかせて地下を出た私は、その場で座り込んだ。
「はぁ〜」
まさかイエヤスがヒデヨシさんと同じものにかかってしまうだなんて、想像できなかった。ここを訪ねてきたのも自分のを治してもらいたかったからなのかもしれない。
(敵に助けを求めるほど、徳川家はピンチなのですかね)
そんな事を考えると、どうも他人事だとは思えなくなってきた。
「それに将軍を心配して、コソコソついてくる方もいますからね」
「っ!?」
誰もいない空間に、わざと声をかける。イエヤスがここに来てから、ヒッソリ彼女が付いてきていたのは、とっくにお見通しだった。
「心配なのは分かりますけど、そんなストーカーまがいな事をしなくてもいいんじゃないですか? 忍者さん」
「わ、分かっていの? ボクが最初からいたのを」
「勿論ですよ」
スッと姿を現したのは、徳川の忍。ヒスイ様はボクっ娘とか呼んでいたけど、実の所私も名前は知らない。
「イエヤス様が敵陣に一人で向かうと聞いて、ボクは心配だったんだよ。イエヤス様のお身体が悪いのも知っていたから……」
「だったらどうして、二人が戦うのを止めなかったのですか? その場にいたなら私は止めますけど」
「止められなかったんだよ。二人もそれを承知していたみたいだし」
「お互い守りたいものがあるから、ですか?」
「そうだよ。イエヤス様は自分の兵がこうなってしまった事に責任を感じているんだよ。織田さんにも分かるでしょ?」
「勿論分かります。私にだって守りたいものがありますから」
ヒスイ様が守ろうとしているように、私にも守りたいものがある。もう二度と、同じ過ちを犯さないためにも。
「でもボクが止めていれば、イエヤス様が倒れる事もなかった。だから責任は感じているよ」
「戦わなかったにしろ、恐らくイエヤスは倒れていましたよ。本当は倒れそうなくらいギリギリだったはずですから」
「それに気付けなかったボクは、少し情けないよ」
それからしばしの沈黙が流れ、時間が少しずつ進んでいく。
一時間
二時間
何か大きな報告はないので、事件は起きていないと思うけど、私は心配だった。ヒスイ様は残りの命が少ないと分かっていても、イエヤスを助けようとしている。それを私は外から待つことしかできない。
(待たないと……信じて待たないと)
だけど何もする事ができない私は、イエヤスを心配する忍者さんと共にひたすら無事を祈って待つことしかできなかった。
そして……。
その二つの祈りは、無惨にも悲しい結果を引き起こすことになるなんて思ってもいなかった。
「ヒスイ様!」
「い、イエヤス様」
それは二人が地下に入ってから、五時間が経過した頃の事である。
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