魔法を戦国時代に持ち込んだら何か無双した

りょう

第90陣祭壇の下に眠る涙

 この里の本当の闇を見つけ出した俺は、一度床を閉じてどうするか考える事にした。

(下に降りるのはいいけど、これだと間違いなく戻れないよな)

 かなりの高さがあったので、戻れない可能性が非常に高い。おまけにあそこに何があるのかも分からないし、油断はできない。でももし、この先に秘密があるのなら、それを解き明かしたい。無念に死んでいった人達のためにも、俺は今そうすべきなのかもしれない。

(奴らに気がつかれない為にも、今やるしかないか)

 決心した俺は、再びその扉に手をかける。

(絶対無事で帰ってくるからな、ノブナガさん、サクラ)

 扉を開ききった俺は、未知なる世界ヘと足を踏み入れるのであった。

 ◼︎◻︎◼︎◻︎◼︎◻︎
 ボクっ娘忍者の協力を得て、私達は忍びの里がある場所から少し離れた場所へとたどり着いた。

「正面から入るのは難しそうだね」

 万全の準備を整えるためにその場所に作戦基地を構え、突入するタイミングを伺う中、一度偵察に向かってくれたボクっ娘が報告しに帰ってきた。彼女なら里の人間なので、的確な情報を得られると踏んでのことだった。

「やっぱりそうでしたか」

「それにヒスイはもう祭壇に閉じ込められちゃってるみたいだよ」

「え? でもまだ祭りは明日のはず」

「その前に動きを封じたいんだってさ。そうなると厄介な事になるんだけどね」

「厄介な事?」

「里の者の一部の忍びしか祭壇の場所が分からないんですよ。だから私も勿論知りません」

 私の疑問にネネさんが答える。つまり祭壇の場所が分からない限り、大きく動けないということらしい。極力戦闘も避けたいので、尚のこと難しさは増す。

「どうしましょうか。人数も多くないから二手に分けることもできませんし」

 ちなみに今回、城の安全も考慮して、私とネネさんとボクっ娘の三人で作戦を遂行する形になっている。他の人も連れてきてもよったのだけど、被害を抑えるためにもこれが安全だと私は思っている。

「一応この里には抜け道というのがあるけど、それを使うのもリスクがあるし、どうしようか」

「リスク?」

「抜け道は一本道になっていて、挟み撃ちもしくはどちらかの入口を塞がれると、確実に身動きが取れなくなるんだ。だから見つからないように行動しないといけないけど、大丈夫?」

「一応私は忍びですから、大丈夫ですわよ。ノブナガさんは?」

「二人についていけば何とかなると思います」

「じゃあ里への入り方は、抜け道を使うって事で。問題は」

「里に入ってからですよね」

 先程ボクっ娘とネネさんが言っていた通り、祭壇の場所が分からない限り、こちらも動き出す事ができない。
 潜入してから探してもいいのだけれど、時間もかかる上にリスクも高い。戦うにしても大人数の忍びに対して、こちらは三人。不利なのは見て取れる。 

「でも時間もありませんし、動くしかないと私は思うんですけど」

「ボクはあまり戦いは避けたいんだけどなぁ」

「全てを相手にしろとまでは言いません。なるべく早い時間で祭壇とヒスイ様を見つけ出して、脱出しましょう。それが今回の作戦の唯一の内容です」

 迷いはないとは言えない。それでもやらなければならないと私は気を引き締める。今まで私達が救われてきた分、今度は私達が彼を救う番だ。

「じゃあ作戦内容も決まりましたし、行きますよ。ヒスイ様救出作戦、開始です」

 ◼︎◻︎◼︎◻︎◼︎◻︎
 祭壇の床の扉から、下へ降りた俺は、漂う異臭に思わず気絶しそうになった。

(処理されてないから臭うのは分かっていたけど、ここまでとは)

 全ての亡骸が白骨化しているとはいえ、ここまで臭うとは思っていなかった。とりあえず周りに何かないか探索してみる。

(思っていた通り、墓場だから扉とかはないんだな)

 その空間は一面白い壁に覆われていて、扉がどこかにあるとは思えない。つまりここに落ちたら最後という事だ。

(それにしても何でこんな事を)

 惨状を目の当たりにして怒りだけがこみ上げてくる。ここの人達が一体何をして殺されなければならなかったのか、俺には理解できなかった。だからこそ怒りが湧いてくる。

『……誰?』

 更に探索を続けていると、突然声がどこからか聞こえてくる。

「誰かいるのか?」

 辺りを見回すが、人はいない。

『……あなたも罪人?』

「別に俺は罪を犯してない。それより誰かいるなら、姿を見せてくれないか?」

『……それはできない。私はもう魂だけだから』

「あ、そっか。悪い」

 こんな場所で生き残りがいたら驚きだけど、流石にそれはなかった。それにしてもこの声の子、まだ若い年の子だっったのかもしれない。少し声が幼いところが見える。

「俺は翡翠って名前なんだけど、君は?」
  
『……名前もう忘れちゃった。何百年も前の名前だし』

「そっか。じゃあ何て呼ぶ?」

『……任せる』

「じゃあ適当にミミとでも呼ぶよ」

 名前を忘れてしまっているようなので、命名してあげる。ちょっと適当かもしれないけど、そこは気にしないって事で。

『それでヒスイは、どうしてここにいるの? ここに来た人は既に死んでいる人ばかりなのに』

「ちょっと色々あってな。それよりやっぱりここは墓場みたいなものなのか?」

『うん。百年祭りで殺された人ばかりが生贄と題して捨てられている場所なの』

「殺された人? ここに落ちて死ぬんじゃないのか?」

『違う。皆身勝手な理由で殺された人ばかりなの。生贄なんて嘘で、祭と称して処刑された人がここに埋められる。私もそうだったように』

「そんな……それじゃあ本当にここは」

『忍びじゃなくて、殺人鬼ばかりが住む里。それがここの正体』

 その後ミミの口から語られたのは、この里の闇の部分、決して表に出してはいけない部分だった。
 その被害者の一人が、こんなまだ幼い少女(なのかは分からないけど)だという真実は、俺の怒りを爆発させるには充分の内容だった。

「なあミミ、お前は悔しいか?」

 彼女に問う。こんな目にあって悔しくはないのかと。

『悔しいに決まっている。何で殺されなきゃいけなかったのか、今でも分からないもん』

 それに対して彼女はそう答えた。

「そうだよな、悔しいよな」

 その答えが聞けただけで充分だった。これでもうやる事は決まった。

『ヒスイ……私を……私達を……助けて』

「当たり前だ。絶対にお前達の魂を開放してやる。そして、こんなふざけた事、絶対に終わらせてやる!」

 こんなふざけた里の、ふざけた伝統をこの手で終わらせる、それが今の俺のやるべき事だ。

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