魔法を戦国時代に持ち込んだら何か無双した

りょう

第112陣二つの隠し事

 そして夜になる頃に安土城へと帰還。ノブナガさん達にリアラの事やヒデヨシの事を説明すると、皆かなり驚いていた。
 それを知った上で治療は師匠がしてくれるという事で、全て任せて俺は一人自分の部屋で何もせずにボーッとしていた。

「救えなかった人達の無念、か」

 なんだかんだでリアラは、初期の頃から一緒に旅をしていたので思い出が多い。それらが全て頭をよぎっていく。出会った頃から彼女は誰かの命を救う事に力を入れていた。
 世界中の人を救う為に旅をしていたくらいなのだから、その意思はよほど高かったのだろう。

(そうだよな、皆強い意思を持って戦っていたんだよな)

 他の仲間だってそうだった。それなのに俺はどうだ。何か強い意思を持っていたか?

(いや、俺には何もなかった……)

 ただ世界を救いたい。魔法を使って悪を滅ぼしたい。そんな事ばかりを考えていた。それが間違っているとも、正しいとも言えないけど、もし、もっと俺に強い意思があれば変われたのだろうか? 

(そんな事誰にも分からないよな)

 どちらにせよ、俺はまた一つ大切なものを失ってしまった。もう涙も出てこない。ただ放心状態で、何かをするような気も起きなかった。

「翡翠、大丈夫?」

 そんな俺に、いつの間に部屋に入ってきたのか桜が声をかけてきた。

「大丈夫そうに見えるか?」

「全然。私も正直何が起きたのか分からなくて頭が混乱しているの」

「最近ずっとこんな事ばかり起きていたからな」

 本来混じり合うはずのない異世界で、俺と桜は今日まで数え切れないくらいの危険に晒されてきた。地球でももっと色々あったけど、今の方がもっと……。

「ねえ翡翠、私ずっと聞こうと思っていた事があるんだけど」

「どうした?」

「このまま戦い続けたら、翡翠が死ぬかもしれないって本当?」

「え?」

 どうしてその話を……。
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 本当は知っていたくせに、ずっと言えなかった。

 最初は信じられなかったけど、何度か影でその話を耳にしての疑惑は、確信へと変わっていった。

「このまま戦い続けたら、翡翠が死ぬかもしれないって本当?」

 だから今日私は本人の前でその言葉を発する事ができた。これからもっと辛い戦いに出向くであろう彼を、何としても止めたいという気持ちで。

「そ、そんな訳ないだろ」

「私何度かその話を翡翠が誰かとしているのを耳にしているの。悪く言えば盗み聞きだけど、その話が嘘だって私は信じてたから。でもその反応を見ると、やっぱり本当なんだ」

 本当はこんな話をする事に抵抗を感じていた。だけどここ数日、色々な事が起きすぎていて、これからの彼の事が心配になってしまった。
 私はまだ戦う事も出きない立場の癖に。

「ねえ翡翠、帰ろう。もう全部忘れて。そうすれば誰も傷つかないから」

「なっ、そんな事できる訳ないだろ」

「でもそうすれば、翡翠だって死ぬ事はない! 世界を捨てるのも辛いけど、それよりも私は目の前のあなたが死ぬ方が辛い」

「桜……」

 もういい大人の癖に泣きじゃくる私。こんな辛い現実ばかりを見るのは嫌になった。私をかばって傷ついた人もいる。それがこの先も続くくらいなら、今すぐ逃げて平和に暮らしたい。

「ねえお願い翡翠、もう戦うのを止めて! そして私達のいる世界に戻って、平和に暮らそうよ二人で!」

 その心が言葉になって湧き出る。それが私の生まれて初めての翡翠への、告白だった。

 ◼︎◻︎◼︎◻︎◼︎◻︎
「平和に暮らそうよ二人で!」

 泣きながら彼女が言った言葉が、告白だって気づくのに数秒かかった。だけど二人でって言葉でそれがらようやく理解できた。

「い、いきなり何を言うんだよ。二人でって、それだとまるで……」

「まるでじゃなくて、本当の気持ちなの。だから翡翠には分かってほしい」

 頬を赤らめながら言う桜。泣いたり恥ずかしくなったり、色々忙しいなお前は。

(師匠もそうだけど、どうしたんだよいきなり)

 こうも立て続けに告白されるなんて、人生で初めての経験なので、色々と動揺が隠せない。けれど俺の気持ちは一人にしか決まっていないので、返答に困る。
 というか、今はそれよりも話すべき事がある。

「さ、桜。とりあえずその話はまた後にしてくれないか。それよりも大事な話があるし」

「あ、ご、ごめん。私つい……」

「いいんだよ。でもそれより、俺はやっぱり戦う事を止める事はできないかな」

「どうして? そんなに早く死にたいの?」

「違う。そうじゃないんだ。ただ俺は、ノブナガさん達を見捨てる事なんてできないんだよ」

「それが自らの危険を犯すことになっても?」

「ああ」

 それは最初から決めていた。何があってもこの世界を捨てる事なんてできないと。それにここまで触れていなかったけど、ノブナガさんはこのままだと……。

「ヒスイ、大変!」

 そんな事を考えているとら突然ネネが、かなり慌てた様子で部屋に入ってきた。

「どうしたネネ、そんなに慌てて」

「ノブナガ様が、倒れた!」

「え?」

 この世界で再会した時ノブナガさんは二度倒れている。その原因をただの疲労だと誤魔化していたノブナガさんは、頑なにその事を隠していた。でも俺はとっくに気付いてしまっていたんだ。

 原因は分からないけど、ノブナガさんの身体はもう長くはもたないって。

 その事をノブナガさんは、あの時二人だけの秘密って隠していたけど、もうそれも……。

「ヒスイ、早く!」

「ああ、今行く」

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