最も美しい楽器とは……

ノベルバユーザー173744

那岐の入学式と穐斗公表

 初日、入学式に集まった両親と何故か兄と穐斗あきとの家族に、那岐なぎが、

「な、何で、ここにいるんだ?母さんならともかく、止められなかった親父だけじゃなくてあ、兄貴……まで……」
「ん?那岐が成長したなぁって、な?穐斗。ほら、穐斗。言いたいことなかったのか?」

 2歳違いの兄弟だが、顔立ちはよく似ている。
 タレ目が兄の風早かざはや、全体的にがっしりしていて吊り目が那岐である。
 風早の腕を掴み、その後ろに隠れている二人よりも頭一つ以上小さい……、

「ご、ごめんなさい……う、うえぇぇん……那岐ちゃん……き、嫌いって、言って、ごめんなさい……」

 ミィミィ泣く、可愛い……。

「うわぁ、めっちゃ可愛い那岐のお兄さんの彼女?」
「違う」

 弟分の光流みつるをたしなめ、近づく。

「兄さん、姉さん、お久しぶりです。風早……大きくなったな」
「こらこら、穐斗と風早を見比べるな」

 腕を組んだ細身の男が見る。
 ちなみに、雅臣は182だが、彼も実はあまり変わりがない。

「兄さん……でっかくなりましたね〜」
「何故、兄の俺の頭を撫でる。嫌味か?……そこで笑うな、那岐!広辞苑をわざとらしく置いて出て言っただろう?持ってきてやったぞ」
「げっ!」
「全く……風早。背が伸びたなぁ。何年振りかな?」
「あ、兄さん。お久しぶりです。えっと、5年ですかね。兄さんが休暇の時は、俺は京都の予備校に行っていたので」

 にっこり笑う。
 那岐がやんちゃ坊主で、兄は真面目らしい。

「でも、20になったので、猟銃免許と二種免許取ったんですよ。本格的に診察できるまでは、バスで迎えに行こうと。それに、緊急の場合は診ると、理事長と祐次ゆうじ兄さんと話したんですよ」
「その上、医師か……よくやるなぁ……」
「と言うか、父さんや祐也ゆうや叔父さんには勝てないなぁ……ほら、穐斗」
「……お、お兄ちゃん……」

 明るい茶色のふわふわの髪と大きな茶色の瞳の、お人形のような顔。

「久しぶり、穐斗。可愛いなぁ?」
「可愛い?この子?」

 抱っこしていたものを差し出す。

「これは……パンダ?」
「うん!僕が作ったの。お兄ちゃんと、な、那岐ちゃんに……」
「な、俺……あだだ〜!」

 光流みつるが、後ろからつねる。
 甥の頭を叩き、雅臣は、

「ありがと。前に一緒に見に行ったよね?」

と声をかけると、ニコニコと嬉しそうに笑う。

「うんっ、そうなの!お兄ちゃん覚えててくれたの?えへへ」

 声がコロコロと可愛らしい。

「穐斗もお揃いのこいるの〜」
「器用だなぁ、穐斗は。それに優しい」
「あ、前に聞いてた、お兄ちゃんのファンの女の子にもお揃い〜。ほら〜リボンつけて見たの〜」

 小ぶりだが本格的に作られたテディベア……パンダが、次々と姿を見せる。

「こーら、穐斗。緊張する時と、嬉しい時の暴走は誰に似たんだ……」
「誰だろうね〜?あきちゃん。お顔はママに似てるけど」
「お前だ、お前。ほたる
「えぇぇ?ゆーやぁ?違うよー、ねぇ?あきちゃん」
「パパ、穐斗。ママにそんなに似てないもん!パパに似てるの」

 瓜二つの親子が顔を見合わせ、ウンウン頷く。

「ほーちゃん、あきちゃん……認めましょうね。顔もそっくり、性格もそっくりの親子だって。その点、うちのこは、ひなちゃんに似て、私似の子はいないもの……」
「……スゥ。顔は似てないが、スゥのように何をしでかすか分からない息子ならいるが?」
「あら?風早?」
「姉さん……風早は、祐也兄さんと兄さんに似てる。那岐だよ」

 雅臣の指摘に親子は嫌そうな顔になる。

「嫌よ〜、だって、那岐ちゃん、暑苦しいもの。もっと可愛い子が良かった!もう一人産んでおけば……」
「俺の負担が増えて、過労死まっしぐらだな」

 横で真顔で突っ込む日向に、風早が、

「やめてくださいよ、父さん。俺一人じゃ、母さんと那岐の世話に育児無理。もう、醍醐叔父さんに面倒は押し付けて、隠居してください!良いですよ。俺、田舎いないから」
「……いないからと簡単に言うな!あの馬鹿!風遊さんのいないところで、何をしでかすか……。それに、子育てほとんど祐也に押し付けて、何やってんだ!自分の年考えろ!一番上の娘は、穐斗と同じ年だぞ!6人も娘がいるのに、息子欲しいって……臣、醍醐を止める手立てを考えてくれ!」
「えっと……お若くてイイデスネ」
「俺と同じ年だ!馬鹿!標野さんのところに2人目が息子だからと、自分もって、アホか!」
「お母さん、もう無理って言ってるのにね〜?」

蛍が頰に手を当ててため息をつく。

「それに、欲しいのがあきちゃんみたいな可愛い娘やって。6人とも、お義父さんや、京都のおばあちゃまそっくりの美形顔やけんねぇ……お義父さんの遺伝子しかなさそう」
「あぁ、ないな。風遊さんに似たら、もっとおっとりしとるわ。その点、祐也と蛍の子供は蛍に似た穐斗に、祐也に似た杏樹、風遊さんに似た結愛ゆめ……本当に、親子やなぁ」

 感心する兄。
 雅臣は甥同然の少年を抱き上げ、

「光流。紹介する。この子が一番可愛い、甥の穐斗。那岐より一つ上と言っても4月1日に生まれたんだ。で、こっちが、那岐の兄の風早。那岐より二つ上。で、那岐の両親で俺の兄と姉の、日向兄さんにただす姉さん。そして、穐斗の両親の祐也兄さんと、蛍姉さん。あ、そう言えば誕生日だよね。ようやく19……若いなぁ」
「叔父〜!何すんだ」
「那岐、デコピンがいい?ヘッドロック?」

光流の一言に、真顔で日向が、

「これが一番だ」

と出してきた広辞苑で頭を殴りつける。

「だぁぁ……」
「自分で直しておけ。お前が一番大事に使わない」
「親父が、一番荒っぽいんだ……」
「教育だ!」

 眼鏡を直し、ぼやく。

「全く……穐斗のように可愛い子がいれば……まだ」

 がっかり

と言いたげにぼやく。

「ひなちゃんパパ、ぎゅーする?」
「後でな?」
「ひなさん……穐斗を甘やかさないでくださいね。本当に」
「臣ちゃん。臣お兄ちゃん。穐斗ね?入学式の後はね、ひなちゃんパパが、ベアちゃん買ってくれるの〜!それと、お店に行くの!」

 ニコニコと臣を見上げる。

 それを聞いていなかった祐也は日向を睨むが、真顔で、

「穐斗が、『ひなちゃんパパ、テディベアのモヘアを買いに行きたいの。えっとね、住所はね……』って、モタモタ必死に調べようとするから、ネットで調べた。『ありがとう。行ったらね、一人で行くからね?』って、祐也。行かせられるか?」
「俺が連れて行きますよ」
「お前には蛍がおる。蛍も行きたいっていよったぞ?」
「ゆーやぁ。蛍も行きたい〜」
「……ひなさん。お願いします」
「よし」

先輩後輩というよりも兄弟に近い。
 その間にも、穐斗は無邪気な声で、

「あのね、臣お兄ちゃん。これ、ちゃんとラッピングしているからね。ファンの子に送ってあげてね?」
「あぁ、ありがとう。嬉しいよ」
「……臣のファン?幾つの子?」
「……早生まれだから、13歳になったばかりかな……。誕生日プレゼントを贈ってくれたから、何か返せないかなぁって……穐斗のおかげで素敵なプレゼントになったかな。自分でも選んだんだけど、女の子に似合うものって難しいね。遅れてごめんねって贈ろうかなって」
「13歳のファン……」

那岐と糺が見る。

「二年前から、可愛いファンが手紙を送ってくれるんだ。お父さんがね『アーサー王物語』を小さい頃見せてくれて、姉さんの作品や俺の出演している映画とか見ていたんだって。でも、まだ小学生で難しいから、『雅臣さん、私のわかるような作品に出て欲しいです』って。で、ゲームとか、読み聞かせとか仕事の幅を広げて見たんだ。そうしたら、喜んでくれて。誕生日にお揃いのペンを贈って貰ったからね……」

 頬が緩む。

「じゃぁ、パンダさんも喜んでくれるかなぁ?」
「あぁ、穐斗ありがとう。あ、そうだ。穐斗にお礼」

 お金を渡すのは良くないと思い、知り合いの伝手を頼り、作って貰ったのである。

「えぇぇ!これって……わぁぁ!いいの?いいのぉ?」
「ありがとう。お礼と、穐斗も誕生日だったよね」
「……え、えへへ……嬉しい……ありがとう、お兄ちゃん」
「なんのなんの。と言うか、穐斗。にこーは?写真撮りたいなぁ?その瞬ちゃんに贈ろうかなって」

と、兄に撮って貰う。



 そして式では、何故か家族席で、穐斗と風早と光流と並んで座り、色々と喋っていたところ、

「こらぁぁ!どこに座っとる!中堅!」
「出てこんかぁぁ!」

と怒鳴られ、

「すみません!可愛い甥と遊んでいるので、光流ともう一人の甥を貸します」
「こら!臣さん!」
「兄さん?何で?」
「余興はい、那岐と遊んできてくれ!穐斗。えっと、さっきの……」
「えっとね、こうして折ると喜んでくれるよ」

雅臣は甥と二人折り紙をしており、光流は先輩が怖いため、

「はい、那岐と余興をよろしく!風早」
「余興って……過疎地域の病院について、重要なことと、逆にこの人口の詰まった地域には救急車や消防車が入りきれない理由を説明しましょうか?」
「やめて。那岐が試験の時、歌ったあれ、トゥーランドットとかトレアドール、一緒にやれ!」
「すみません。俺、ここにきた意味わかりません……」
「兄貴。『清きアイーダ』やれ〜喜ぶぞ、彼女」

那岐の一言に、ダダダっと駆け寄った風早は、片腕で自分よりもガタイのでかい弟を片腕で掴み上げると、

「オラァァ!この愚弟!」

と、光流めがけて投げ飛ばす。
 ついでに、それを追いかけて光流の上に落ちた弟の首を絞め……、

「……那岐?今なんて言ったかなぁ?俺に」
「……すみませんでした。兄貴。俺の下で先輩潰れてるので、あとで……」
「そんなん良いんだよ。穐斗に被害がなければ……いいか?俺は、誰とも付き合った覚えはない!穐斗に嘘をつくな、次は殺すぞ!」
「ハイ!分かりました!兄貴!」
「……お前も彼女一人もいなかったくせに、よく言った。後で、覚えておけ。俺はしつこいぞ」

光流は、風早を怒らせるのはやめようと思ったのだった。

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