最も美しい楽器とは……
那岐の決意
一応3LDKの空き部屋に布団を持っていき、そこに滞在するようにと雅臣は那岐に告げる。
その部屋は雅臣の今までの仕事の資料や台本、DVD、ゲームなどが置いてある。
一応自分でもゲームをして、違和感はないかなど確認する。
一種の仕事部屋である。
他は自室と、友人や両親の泊まる部屋、そしてリビングダイニングである。
言葉のない那岐に、
「お前の進路が決まるまではここにいることだ。一応、進路や仕事が決まったら、家を探してやる」
「……そんなお金ねえもん。俺、田舎暮らしだし、ジュース代と駄菓子代、帰りのタクシー代位だし」
「……帰りタクシーって、今時の高校生……」
光流に、那岐がきっと睨む。
「仕方ねえじゃん!俺ん所、こういうところとか思うなよ。俺の住んでた家は、山にへばりつくように細い坂が伸びててその奥にあるんだよ!過疎の町とも言えない集落だ。で、朝は一応俺たちよりも奥の集落から、中学校と高校の為のスクールバスが出る。でも、夕方は部活動とかで皆バラバラだからないんだよ。電車もバスも何にもない。自転車通学してもいいけど、坂がきつくてその上途中からJRで二駅分!中学の時は家から走って20分のところだったから、走って帰ってた。途中、近所のおじさんが拾ってくれるんだ。高校は遠いから、近くの駅に降りてそこからタクシーだよ。親父達が町に出てたら迎えに来てくれるけど、俺と兄貴、穐斗や幼馴染と乗り合わせて帰るんだ。過疎の集落や島に住んでる奴らなんて、一応中学までは家にいるけど、高校になったら親戚の家に下宿とか、一人暮らしだ。でも、俺たちは普通の家で、親の給料だって、俺の家が普通じゃないだけで、俺の親父や祐也おじさん、醍醐おじさん、風遊叔母さん達が近所のじいちゃんばあちゃんを車に乗せて、街の大型スーパーに買い物だ。大原のじいちゃんや、こっちに赴任した祐次にいちゃんがいるから医者の問題はなんとかなってるけど、都市部だけだよ。楽なのはさ」
「……祐次、元気か?」
「あぁ。もうすぐ30。女の子が生まれたって大喜びだよ。医者になるのも大変だよな……6年、それに研修2年……。現役で受かっても26だもんな……。兄貴もよく選んだよな……」
「穐斗を治すんだと言っていたらしい」
「だろうね。兄貴。恋愛どころか、モテるのに『穐斗、穐斗』俺が穐斗いじめたら、即、ボッコボコだったもん。さすがは不知火のじいちゃんの一番弟子……」
思い出したのか顎をさする。
「モテてたのに全部お断り。でも、穐斗は女の子に可愛がられてたから、いじめられたりはなかったけどさ」
「お前がいじめて、集中砲火というのは聞いた」
「……知らなかったんだから、仕方ねえじゃん」
拗ねる那岐に、光流が、
「ねぇ、臣さん、この那岐って……自覚症状なし?」
「何がだよ」
「……お兄さんは、自覚してたんだろうね。自分が、その穐斗って子好きだって」
「はぁぁ!俺の兄貴は変な趣味はねぇ!俺が買ってきたエロ本見つけて……『そんなの買う暇があるなら勉強しろ、馬鹿。穐斗をいじめる暇があれば、学年一位取れ!愚弟!』って、エロ本、お袋に持っていった……」
「はぁぁ?お母さんに?」
叫ぶが、那岐は頭を抱えた。
「お袋に渡すぐらいなら、親父に渡して欲しかった!お袋、なんであんなにずれてんだよ!臣兄!悲鳴あげて、親父にいうかと思って、ビクビクしてたら、数日後机の上にメモが貼ってある本が置かれてて、『那岐ちゃんへ。ママね、ほーちゃんや風遊さんや、柚月さんや、おじいちゃん達と皆で見たの〜。付箋のピンクの女の子がママがお気に入り〜。でも、話は面白くないです。もっと面白いというか激しい小説は、ネットの『***』にあるからね。ママが登録して置いたから、ID、PWはこれだから。ちなみに、女の子が書いてるのよ〜』って……もう、落ち込んだ。親父に殴られた方が良かった」
「……姉さんならやる……」
「俺、見る気なくなって、風呂を沸かす時の焚き物にしたんだ……で、お袋に頼まれた親父がそのサイト、俺のパソコンに登録入力してた……『お前、そういうサイト見るのか?意外だな……』って見るかよ!」
光流は吹き出した。
「めちゃくちゃなお母さん……って、あれ?臣さんのお姉さん?」
「かなり変わり者なのは認める……でも、周囲の姉さん達……居た堪れなかっただろうなぁ……それに、無邪気な蛍姉さんが、穐斗に見せたり……してないといいな?」
「してたよ……それに、六花姉とか『よっ!勇者』って」
光流は我慢しきれず笑い転げる。
「勇者!」
「まさに勇者だな。那岐。それよりもお前、あんなに昔から皆知ってたのに、自覚なしか?」
「何が?」
「風早とお前、穐斗取り合ってただろ?お前、穐斗好きだったんだろ?」
「……はぁぁ?」
硬直する那岐に、光流は、
「はーい、臣さん。その穐斗ってどんな子ですか?」
「そこ。祐也兄さんが抱き上げてるのが穐斗、その横が、穐斗の母親で蛍姉さん、その反対側の黒髪の人が蛍姉さんのお母さんの風遊叔母さん」
「……えっ?女の子じゃないの?それに、髪と瞳以外姉妹みたいにそっくり……親子?嘘だ〜」
「ホントだよ。親子、穐斗は男。いっつもメソメソするんだよ。で、ついついからかって、兄貴や親父や伯父さんに容赦なく……」
「好きな子ほどいじめるんだよねー。で、いじめられた子は守ってくれる王子様が好きなんだよ」
「俺はそういう趣味はないし!それに……」
那岐は言い返していたが黙り込む。
「大嫌い……って言われたことない……泣くけど……穐斗、いつも『那岐ちゃん』って……でも、この前、初めて『那岐ちゃんなんか大嫌い』……って、睨まれた。ぼろぼろ泣きながらだけど……スッゲーショックだった。そのあと、穐斗、家から出てこなくなって……親父にでてけって……俺……好きだったのかな……穐斗……好きなのに、いじめてからかって……こっちを見て欲しかったのかな……?」
「……まぁ、そうだな」
「……で、でも……俺は……兄貴みたいに医者になるなんて、穐斗は目指してたけど、叔父さんがダメだって泣いてたのを、諦めるんだって、馬鹿にして……ほ、ほんとは俺自身、目標がなかったんだ……医者なんてなれっこない、大学進学も乗り気じゃない……まぁ、何とかなるって……でも、俺には時間がたくさんあるのに……あんなに夢を見てた穐斗には時間がない……なんで?なんで……不公平だ!俺みたいな馬鹿より、穐斗に未来があればいいのに……」
再びぼろぼと涙を流す那岐に、雅臣は、
「夕食の準備できたら呼ぶから、それまでここにいろ。寝ててもいいぞ」
と声をかけ、光流を促して部屋を出た。
そして、あり合わせのものを作り、扉を開けると、何故か雅臣の台本を見ていた。
「何しているんだ?那岐」
「……これ、台本だよね?すごい……」
「お前の母さんの小説の方がすごいさ」
「作品はすごいけど、母さんは本人があれだから……」
顔を上げると、那岐は叔父を見た。
「臣兄……俺、声優になりたい。ひねくれてて本当のこと言えない、馬鹿だから……でも、勉強して、ちゃんと向かい合えるようになりたいんだ。それに、俺じゃない自分を表現したい!だから!受験したい!」
「厳しいぞ。どこの学校に行くんだ?」
「臣兄の事務所の学校。厳しいんでしょ?それがいい。俺、甘ったれだから」
「……お前なぁ……俺の甥だってバレたら余計に肩身がせまいだろう。別のに行った方が……」
「それでなくても、俺、『あの日向糺の息子?』だけど?」
那岐は叔父を見つめ、呼びに来た光流は、話を聞いて賛成した。
「いいんじゃない?本人がやりたいって言ってるんだし。それよりもパスタ冷めるよ」
雅臣はため息をつき、甥をキッチンに連れていったのだった。
その部屋は雅臣の今までの仕事の資料や台本、DVD、ゲームなどが置いてある。
一応自分でもゲームをして、違和感はないかなど確認する。
一種の仕事部屋である。
他は自室と、友人や両親の泊まる部屋、そしてリビングダイニングである。
言葉のない那岐に、
「お前の進路が決まるまではここにいることだ。一応、進路や仕事が決まったら、家を探してやる」
「……そんなお金ねえもん。俺、田舎暮らしだし、ジュース代と駄菓子代、帰りのタクシー代位だし」
「……帰りタクシーって、今時の高校生……」
光流に、那岐がきっと睨む。
「仕方ねえじゃん!俺ん所、こういうところとか思うなよ。俺の住んでた家は、山にへばりつくように細い坂が伸びててその奥にあるんだよ!過疎の町とも言えない集落だ。で、朝は一応俺たちよりも奥の集落から、中学校と高校の為のスクールバスが出る。でも、夕方は部活動とかで皆バラバラだからないんだよ。電車もバスも何にもない。自転車通学してもいいけど、坂がきつくてその上途中からJRで二駅分!中学の時は家から走って20分のところだったから、走って帰ってた。途中、近所のおじさんが拾ってくれるんだ。高校は遠いから、近くの駅に降りてそこからタクシーだよ。親父達が町に出てたら迎えに来てくれるけど、俺と兄貴、穐斗や幼馴染と乗り合わせて帰るんだ。過疎の集落や島に住んでる奴らなんて、一応中学までは家にいるけど、高校になったら親戚の家に下宿とか、一人暮らしだ。でも、俺たちは普通の家で、親の給料だって、俺の家が普通じゃないだけで、俺の親父や祐也おじさん、醍醐おじさん、風遊叔母さん達が近所のじいちゃんばあちゃんを車に乗せて、街の大型スーパーに買い物だ。大原のじいちゃんや、こっちに赴任した祐次にいちゃんがいるから医者の問題はなんとかなってるけど、都市部だけだよ。楽なのはさ」
「……祐次、元気か?」
「あぁ。もうすぐ30。女の子が生まれたって大喜びだよ。医者になるのも大変だよな……6年、それに研修2年……。現役で受かっても26だもんな……。兄貴もよく選んだよな……」
「穐斗を治すんだと言っていたらしい」
「だろうね。兄貴。恋愛どころか、モテるのに『穐斗、穐斗』俺が穐斗いじめたら、即、ボッコボコだったもん。さすがは不知火のじいちゃんの一番弟子……」
思い出したのか顎をさする。
「モテてたのに全部お断り。でも、穐斗は女の子に可愛がられてたから、いじめられたりはなかったけどさ」
「お前がいじめて、集中砲火というのは聞いた」
「……知らなかったんだから、仕方ねえじゃん」
拗ねる那岐に、光流が、
「ねぇ、臣さん、この那岐って……自覚症状なし?」
「何がだよ」
「……お兄さんは、自覚してたんだろうね。自分が、その穐斗って子好きだって」
「はぁぁ!俺の兄貴は変な趣味はねぇ!俺が買ってきたエロ本見つけて……『そんなの買う暇があるなら勉強しろ、馬鹿。穐斗をいじめる暇があれば、学年一位取れ!愚弟!』って、エロ本、お袋に持っていった……」
「はぁぁ?お母さんに?」
叫ぶが、那岐は頭を抱えた。
「お袋に渡すぐらいなら、親父に渡して欲しかった!お袋、なんであんなにずれてんだよ!臣兄!悲鳴あげて、親父にいうかと思って、ビクビクしてたら、数日後机の上にメモが貼ってある本が置かれてて、『那岐ちゃんへ。ママね、ほーちゃんや風遊さんや、柚月さんや、おじいちゃん達と皆で見たの〜。付箋のピンクの女の子がママがお気に入り〜。でも、話は面白くないです。もっと面白いというか激しい小説は、ネットの『***』にあるからね。ママが登録して置いたから、ID、PWはこれだから。ちなみに、女の子が書いてるのよ〜』って……もう、落ち込んだ。親父に殴られた方が良かった」
「……姉さんならやる……」
「俺、見る気なくなって、風呂を沸かす時の焚き物にしたんだ……で、お袋に頼まれた親父がそのサイト、俺のパソコンに登録入力してた……『お前、そういうサイト見るのか?意外だな……』って見るかよ!」
光流は吹き出した。
「めちゃくちゃなお母さん……って、あれ?臣さんのお姉さん?」
「かなり変わり者なのは認める……でも、周囲の姉さん達……居た堪れなかっただろうなぁ……それに、無邪気な蛍姉さんが、穐斗に見せたり……してないといいな?」
「してたよ……それに、六花姉とか『よっ!勇者』って」
光流は我慢しきれず笑い転げる。
「勇者!」
「まさに勇者だな。那岐。それよりもお前、あんなに昔から皆知ってたのに、自覚なしか?」
「何が?」
「風早とお前、穐斗取り合ってただろ?お前、穐斗好きだったんだろ?」
「……はぁぁ?」
硬直する那岐に、光流は、
「はーい、臣さん。その穐斗ってどんな子ですか?」
「そこ。祐也兄さんが抱き上げてるのが穐斗、その横が、穐斗の母親で蛍姉さん、その反対側の黒髪の人が蛍姉さんのお母さんの風遊叔母さん」
「……えっ?女の子じゃないの?それに、髪と瞳以外姉妹みたいにそっくり……親子?嘘だ〜」
「ホントだよ。親子、穐斗は男。いっつもメソメソするんだよ。で、ついついからかって、兄貴や親父や伯父さんに容赦なく……」
「好きな子ほどいじめるんだよねー。で、いじめられた子は守ってくれる王子様が好きなんだよ」
「俺はそういう趣味はないし!それに……」
那岐は言い返していたが黙り込む。
「大嫌い……って言われたことない……泣くけど……穐斗、いつも『那岐ちゃん』って……でも、この前、初めて『那岐ちゃんなんか大嫌い』……って、睨まれた。ぼろぼろ泣きながらだけど……スッゲーショックだった。そのあと、穐斗、家から出てこなくなって……親父にでてけって……俺……好きだったのかな……穐斗……好きなのに、いじめてからかって……こっちを見て欲しかったのかな……?」
「……まぁ、そうだな」
「……で、でも……俺は……兄貴みたいに医者になるなんて、穐斗は目指してたけど、叔父さんがダメだって泣いてたのを、諦めるんだって、馬鹿にして……ほ、ほんとは俺自身、目標がなかったんだ……医者なんてなれっこない、大学進学も乗り気じゃない……まぁ、何とかなるって……でも、俺には時間がたくさんあるのに……あんなに夢を見てた穐斗には時間がない……なんで?なんで……不公平だ!俺みたいな馬鹿より、穐斗に未来があればいいのに……」
再びぼろぼと涙を流す那岐に、雅臣は、
「夕食の準備できたら呼ぶから、それまでここにいろ。寝ててもいいぞ」
と声をかけ、光流を促して部屋を出た。
そして、あり合わせのものを作り、扉を開けると、何故か雅臣の台本を見ていた。
「何しているんだ?那岐」
「……これ、台本だよね?すごい……」
「お前の母さんの小説の方がすごいさ」
「作品はすごいけど、母さんは本人があれだから……」
顔を上げると、那岐は叔父を見た。
「臣兄……俺、声優になりたい。ひねくれてて本当のこと言えない、馬鹿だから……でも、勉強して、ちゃんと向かい合えるようになりたいんだ。それに、俺じゃない自分を表現したい!だから!受験したい!」
「厳しいぞ。どこの学校に行くんだ?」
「臣兄の事務所の学校。厳しいんでしょ?それがいい。俺、甘ったれだから」
「……お前なぁ……俺の甥だってバレたら余計に肩身がせまいだろう。別のに行った方が……」
「それでなくても、俺、『あの日向糺の息子?』だけど?」
那岐は叔父を見つめ、呼びに来た光流は、話を聞いて賛成した。
「いいんじゃない?本人がやりたいって言ってるんだし。それよりもパスタ冷めるよ」
雅臣はため息をつき、甥をキッチンに連れていったのだった。
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