最も美しい楽器とは……

ノベルバユーザー173744

映画……。

 映画は次々に事件が生まれる。



 一般の大学生だった和也が、あの突っかかった行為で、退学処分になり、それに納得のいかなかったメンバーが揃って自主退学。
 彼らは秋良あきらの実家に身を寄せた。



 パンフレットによると、秋良の実家は、秋良のモデルになった少年の実家で撮影され、その地域の人々がエキストラとして出ていた。



 本当に田舎である。
 のどかで、玄関に鍵もかけない。
 お風呂は薪で焚くのだが、町生まれの日向ひゅうがと大樹は全く火の起こし方が分からず、秋良がやってみせるが、秋良も鈍臭く、昔ながらのマッチと、薪の横に置いてあった新聞紙や枯れ草、枯れ枝を取りに行き、やすやすと火を起こしたのは和也である。

「えぇぇ〜何で?和也。すごい!」
「言うか、秋良、何でうまくつけられないんだ?」
「い、いつもは大丈夫だもん!」
「はいはい。ほら、薪。で、火をつけたから、秋良のじいちゃんに沸く頃に来てやって言ってこいよ」
「あ、うん!あ、先輩たちも行こう!母屋に」

 秋良は先に母屋に挨拶に行ったはちすの後を追うと、

「おじいちゃん。和也が火をつけてくれたよ〜!いい時に入ってだって」
「おぉ。秋良、またうまくいかんかったんか〜?料理とかは上手いのにのー?」
「僕だって泣きたいよ〜おじいちゃん」

三和土たたきをのぼり、掘りごたつにはいると、

「先輩たちも入って入って〜ぬくいよ〜?」

と振り返ると、台所から秋良の祖母と母がお茶とお菓子を持って出てくる。

「ようきたなぁ。大樹くん、日向くん」
「お茶でもお飲みや」

 ニコニコと笑うのは、

「えぇぇ!あの女優……」

雅臣は驚く。
 30代半ばの童顔の美少女顔の女優、大谷一果おおたにいちかである。

「冬実さん、こんにちは。急にすみません。お邪魔します」
「嫌やなぁ。二人……すぅちゃんも和也くんも秋良の大事な友達、家族やわ。あぁ、和也くん、お入りや」
「あ、はい……」
「どうしたん?携帯握って……お家に連絡できたん?」

 青ざめた顔で立っていた和也が、笑顔を作り、

「はい、兄貴が『俺も行ってもええかなぁ』って言ってましたが、後ろで母さんが、怒ってました」
「また挨拶せないかんなぁ」

和也は携帯をポケットにしまい、秋良の横に座ったが、手が震えていたのを秋良はおかしいなぁと思ったのだった。



 その後、二転三転し、秋良と和也の出生の秘密や、そして秋良の原因不明の病気を調べに和也と日向が秋良の生まれたイングランドに向かったのだが……。

「きゃぁぁぁ!」
「えぇぇぇ!」

の合った悲鳴が響く。

 映像には、長い間の旅で疲れ果てた和也たちに近づく、ラフな格好……と言うよりも、野暮ったい眼鏡をかけ、着古したジャケットに穴の空いたデニム……これはファッションとしてわざと開けたものではないとわかる格好で一人の青年が近づく。

「こんにちは。君たちが秋良の言っていた和也と日向だよね。私はガウェイン・ルーサー・ウェイン。秋良の甥だよ。よろしく」

 流暢な日本語で話すが、すぐに、

「ごめんよ〜僕。めんどいの嫌だから。あぁ、堅苦しくなくていいよ。普通に喋って〜ウェインって呼んでよ。よろしくね」
「……王子が……ランスロットが、壊れていく……」

日向の呟きに、

「あれは役柄だからだよ〜ほらいくよ」

帽子を深く被り、歩き出す。
 しかし、格好は田舎の青年だが、優雅な動きである。

「……で、その格好だけど、どこにいくんだ?」
「ん?確か和也だっけ?街じゃどうしようもないし、僕の領地の荘園に案内するよ。母もいるし。母の方が詳しいと思うから」
「ウェインのお母さん……秋良のお姉さんだよな?」
「うん、当然、母親は違うよ。でも、僕の母は冬実と仲良しだよ。それと母は『cunningカニング womanウーマン』なんだ」
「『cunning woman』……カンニングする人?」

 日向の呟きに、和也は、

「違いますよ。『賢い人、賢者』と言うような意味で、日本では『白魔女』と訳します。よく見るのが一種のハーブなどを用いて傷を癒す人ですね。『cunning folkフォーク』と総称されているはずです。日本の英語は誤った使い方をされていることが多いから……俺も大変だった」
「俺もって、和也は留学してたの?」

古い車に案内し、荷物を後ろに入れ乗り込むと、ウェインが問いかける。
 ハッとしたように、和也が、

「……あ、うん、留学じゃなくて、俺はカナダで生まれて、転々としてて……カナダからドイツ、イタリア……中国上海……で、オーストラリア。で、日本に帰ったんだ」
「は?お前の父さんは、動物園の獣医だろう?」

日向の言葉に、助手席に乗っていた和也は目を外に向け、

「……今の両親は、俺の実母の兄夫婦なんです。俺の実父の父……爺さんは、あの、前に日向さんが言ってた『世界に出したくない下品な男』と言っている政治家です。その息子と田舎で育った母が首都圏の大学で知り合って恋に落ちて……親の反対を押し切って結婚して、男について行ったんですよ。でも、そんな結婚は続くはずがない……。甘やかされたお坊ちゃんの男は、親からもらう金で遊び歩いていたのに、それも結婚で取り上げられて、母に暴力を。俺がお腹にいた時にも『俺の子じゃない』と……仕事が終わると遊び歩く夫に、貯金を崩しながら生活していて、最後に離婚。子供を連れて帰ろうとしたら奪われて、泣く泣く日本に帰ったんです。俺は、再婚した父や義理の母、兄弟に殴られて、食事も与えられず、外にもほとんど出してもらえず育ったんです」
「……!」
「10歳の時、もう耐えられないと家を飛び出し、ヒッチハイクして西に逃げました。日本語喋れないし、母さんの連絡先も、名前も分からなかったから……。その頃に、俺と連絡がつかないと心配してた母さんの代わりに父が来て、俺が行方不明って事で、大騒ぎになったんだ。俺……父さんに引き取られて……」

ポケットから携帯を出す。

「先輩……ウェイン……助けて……!実の父親から……どうやってか、電話番号を知られて……かかってくるんだ……。着信拒否にしても、別の番号から……。もう、嫌なんだ……怖いんだ……。秋良のことも……どうしよう……俺は……」

 受け取った携帯から番号を、ノートパソコンに打ち込んだ日向は、

「弁護士の太田さんに送る。それに、お前の父親ってこれか?」
「そう……です」
「なんで、早めに教えてくれなかったんだ。いくら秋良が心配でも、俺の弟分は秋良とお前だろ?」

日向が助手席の背を叩く。

「ほら、泣くなら今のうちだ。俺とウェインしかいないぞ」



 車の音と共にすすり泣く声……。
 車から映像が切り替わり向かう方角へと遠くを見つめていた。



 ウェインたちが一旦荘園について、数日後、ウェインに俳優としての仕事が入る。
 と言っても幼馴染のチャリティーパーティに顔を見せるのである。

「本当は派手な事好きじゃないんだけど、幼馴染はボランティアに熱心で、僕も自分では本業があるから、時々こう言った場に参加させてもらってるんだ」

 本業は荘園の領主代理、副業が俳優と言い張る。

「見た目は温厚だけど、こう言ったところは頑固なの」

と、ウェインの母モルガーナ……実は初の公式公開である。

 ウェインの父ガラハッドが一目惚れして、結婚した最愛の妻を、人前に出したくないと頑固に言い張るのを、今回モルガーナ本人が出たいと言い張ったのである。

「和也が行くの?」
「はい。先輩は書物を読んでいますし」
「と言うか、お前の方が古い本を多く読んでいるだろう?俺は、あまり印刷じゃない文字は難しい」
「でも、先輩のおかげで、パソコンに打ち込まれて残されているでしょう?」
「スゥの仕事に……使うさ」

 打ち込みつつ、日向は和也を見る。

「気をつけろ。無理はするなよ」
「えぇ……って、先輩……それ、俺の携帯じゃ……」
「あぁ、電話かかって来たら、毒舌返ししてるんだ……あ、お前の妹のゆかりじゃないか」
「あっ」

 慌ててとると、

「かずにーちゃーん!元気〜?」
「おい、紫!お前、何突然電話……」
「あのね〜?かずにーちゃん。あたしね?今ロンドンにいるの〜。ここどこ?かずにーちゃん、ヘルプミー!」
「はぁぁ?なんで?」

呆気にとられる和也の電話の向こうから、

「えっとねぇ〜?あたしね〜えっと、帽子を被ったクマさんのいる駅にいるの〜。えっと、ぱ、パディントン?パティントン?」
「パディントン!パディントン・ステーション!だな?分かった!……すみません!俺、急いで回収しに行ってきます!ウェイン!ウェイン!」

 出て行った和也を見送り、モルガーナは微笑む。

「元気になったようね。良かったわ」

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