異世界で魔法兵になったら、素質がありすぎた。

きのえだ

魔法の世界。

「なっ、なんだよ! この化け物?!」
 カザトたちの目の前に突如現れた、巨大なモンスター。五メートルを優に超える。人間で太刀打ちできるとは思えない。
「何で、何でこんなところにコイツが……」
 アカリがモンスターを睨みつける。今まで、アカリが言ってたモンスターとは、このようなヤツらのことだろう。しかし、決して弱そうには見えない。

「どうすのこれ?! 絶対死ぬって!」
 カザトは、目の前の状況を全く、理解できない。
「どうするって、戦うに決まってるじゃない!」
「そんな……」
 カザトが言おうとした言葉をかき消して、アカリが叫んだ。
「テレポート!」
 すると、先程まで何も持っていなかったアカリの手に弓が現れる。まるで、────

「エンチャント! アタッカー!」
 さらに、叫ぶと同時に弓が紅く光る。そして、弦を引き、矢をモンスターに向かって放つ。すると、矢は、弓と同じ、否、それ以上の紅い光をまとってモンスターへ真っ直ぐ向かっていく。
「おい! 何やってんだよ! 逃げた方がいいだろ!」
「それでも! 私は戦わなくちゃ。この先にグラントリスタがある! あなたは逃げて」
 そう言って、アカリは、二本目の矢を取り出し、構えて撃つ。それから三本目、四本目、五本目と、次々に撃っていく。
 しかし、モンスターに当たっては、弾き返されるか、ほんの少しだけ刺さるぐらいだった。これじゃ、いくらたっても勝てないだろう。

「グロォォォォォォォォォオ!」
 モンスターが叫んで、アカリに視線を向ける。まるで、蟻を見るかのような目で。
「ガァァ!」
 咆哮とともに、アカリに向かって、モンスターの鋭い爪が振り下ろされる。しかも、図体に似合わず、とても素早い。アカリは、避けようと後退を試みるが、モンスターの方が速い。

 そして、アカリの頭上まで爪が来た瞬間、
「だらぁぁぁ!」
 アカリの体が強引にモンスターの攻撃範囲から投げ出される。
「何やってるの?! カザト!」
 寸前のところでアカリを助けたのは、カザトだった。
「逃げろって……」
「女が一人で戦ってて、男が尻尾巻いて逃げたりできない!」
 カザトもアカリの言葉を遮り、叫ぶ。
 先程、攻撃を外したモンスターは、いかにも不服そうに、こちらに向き直る。明らかに怒っていた。

「さぁ、どうする? 取り敢えず、俺は逃げたい」
「随分と素直なのね……でも、その通りね。今の私じゃ勝てない……」
 気がつくと、目の前にモンスターが、迫っていた。次は逃すまいと目を光らせている。そして、腕を上ではなく、横に振りかざす。
「横回転って、キツすぎんだろ!」
 モンスターの目がカザトたちを捉え、高速で振り回す。確実に当てられる。すると、アカリがカザトの腕を強引につかむ。
「テレポート」
 アカリが呟くと同時に、カザトの目には、モンスターが目の前から消えていた。今は、百メートル近く遠くに見える。
「さっき助けてくれたでしょ? 私も今、あなたを助けた。だから、これで貸し借りはなしね」
「そうゆうの別に気にしてねぇよ! ってか、今のすげぇな! どうやったんだ? その魔法みたいなの!」
 カザトが興奮して問いかけるが、アカリは不思議そうに首をかしげる。
「何言ってるの? 魔法みたいじゃなくて、
「へっ?いや、そん────どわぁ!」

 カザトが何か言おうとしたが、アカリの耳には届かず、手を引っ張られる。
「ほら、モンスターがこっちに気づい! 早く、早く走るわよ! 王都はすぐそこなんだから!」
 カザトとアカリは、王都の方向へと猛ダッシュする。後ろからは、モンスターの雄叫びが聞こえる。その数秒後、なにかの足音が聞こえる。二人には、確認する必要がない。
「おいおいおいおい、追っかけてきてるよな?! これ!」
「だから、もっと急いで!」

 モンスターのスピードは、とてつもない。当然、このまま走り続けても、逃げ切ることはできない。王都に着く前に、確実に斬り殺される。アカリもそれを十分に理解していたが、打開策が思い浮かばない。なので、今はこうやって、少しでも時間を稼ぐしかないのだ。
「やべぇ、俺もうヤバい……」
 カザトが、バテてスピードが少し落ちた時、それを狙っていたと言わんばかりに、モンスターが全速力で走り出す。さっきの走りとは比にならない速さで。

「あいつ、ズリぃ! あぁぁぁ!」
 モンスターがカザトの真後ろまで迫る。
「カザト!」
 まるで、虫を踏み潰そうとするように、モンスターが前足を浮かせる。

 やべぇよ! このままじゃ、ペチャンコじゃねぇか! こんな訳わかんねぇ死に方があってたまるか!

 カザトの頭上に、モンスターの前足が振り下ろされる。
 そして────




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