異世界で魔法兵になったら、素質がありすぎた。
妹のいる世界と妹似のいる世界。
 「んー。ふぅ、今日は……金曜日かぁ」
六時半、雨宮風斗の毎日決まった時間での起床だ。冬の朝ほど、ベッドから出たくないものは無い。中学三年の二月、志望校の私立高校に受かり、最近は少し、ダレぎみだ。
「あと5分ぐらいなら……もっかい寝よ」
そう言って、布団にもぐり直し、もう一度寝ようとすると、突然、風斗の布団が剥ぎ取られる。
「寒ぅぅぅぅぅ! おい、彩音だろ! マイ布団をかえしやがれ!」
ふとんを風斗から奪ったのは、妹の雨宮彩音だった。
「おにぃがずっと起きないからでしょ? 何がもっかい寝よ、よ!」
彩音からの攻撃。これは、威力が高い。
「妹よ、あまり冬の朝の寒さを舐めるなよ? 俺という死人が出るぞ!」
風斗もすかさず反撃。
「馬鹿なこと言ってないで、早く下に降りて朝ごはん食べて!」
しかし、妹には威力が弱すぎて、通用しない。彩音のカウンターで彩音の完全勝利。
こうして、朝の兄弟喧嘩は、幕を閉じた。
風斗は、ベッドから起き上がり、階段を降りて一階へ向かった。風斗たちの住む家は、二階建てで、そこそこの大きさがある家だ。一階では、彩音がご飯を並べて、準備をしていた。
「早く食べて。すぐに洗っちゃうから」
「おぉ」
二人の両親は、共働きで朝から家にいない。その代わりに、毎日、彩音が朝食を作り、風斗が夕食を作ることになっていた。
「「いただきます」」
二人で朝食を食べ始める。食事中は、学校のことや、友達のことなど、主に彩音が喋り、風斗が聞くという事が当たり前だった。二人は、食べ終わると、食器を台所へ持っていき、彩音が洗う。風斗は、学校の準備をしに二階へ戻る。
「受験が終わると、勉強のやる気の削がれ方が半端じゃねぇな」
そう呟きながら、教科書をカバンに入れていく。全て入れ終わると、制服に着替え、準備完了だ。
やる事が無くなった風斗は、部屋の隅においてある、木刀に手を伸ばした。昔、風斗が剣道をしていた時に使っていたものだ。
「懐かしいな。っと、さすがに家の中じゃ無理か」
そう言って、風斗は、玄関に向かう。
「え? おにぃ、もう行くの?」
台所から彩音の声が聞こえる。
「いやいや、ちょと、体動かしてくるだけだよ」
 風斗が、ドアノブに手をかけ、庭へ出る。制服のままだったので、少し動きづらいが、それ以上に寒さにやられる。
「寒すぎる……ふぅ」
深呼吸をして、ひとつひとつ型を思い出す。かなり、小さい頃にやっていたが、体が覚えていた。
「はっ! やっ!」
久しぶりで少しぎこちないが、風斗自身の自己評価は高かった。七つほど、終えたところで切り上げ、家に戻った。
「おにぃ、何してたの?」
彩音は、食器を洗い終わり、学校の準備をしていた。
「んー、あぁ、ちょっと懐かしいのがあってね、何となく、って感じだな」
風斗にも、答えが分からない。何故、急にしたくなったのか。
「木刀? あっ、剣道? 懐かしいね。おにぃ、一生懸命だったもんね。私も振り回してたっけ」
彩音は、風斗の手から木刀を受け取ると、「あはは」笑ながら、刀身を眺める。
すると、風斗があることに気付いた。
「はっ、彩音! 時間!」
時刻は、七時四十四分。いつもは、生徒会の仕事があり、風斗より早く、四十五分に家を出るのだが、今日はまだ、準備が終わっていない。
「やば! 急がないと!」
そう言って、彩音が階段を駆け上がる。しかし、途中で足を止める。何か、しばらく考え、ニヤニヤしながら、風斗を見下ろす。
「おにぃ、今日、一緒に行こー!」
そのまま、ゆっくり、階段を上がっていった。
「へっ?」
彩音の不思議な言動に、風斗の口から変な声が漏れる。
「えっ? やっ、何言って?」
自室から、出てきた彩音に問う。
「せっかくだし、今日はおにぃと行く」
困惑状態の風斗にさらなる追撃。
「は? 何言ってんの?! 生徒会の仕事は?」
今まで、こんなことは一度もなかったので、風斗は、素早く対応出来ない。
「だいじょーぶ。別に生徒会は、私一人じゃないんだしー」
 この年頃で兄と一緒に登校とか友達に見られたら嫌じゃないんだろうか? 
そんなことを考えながら、風斗は、一瞬、戸惑ったが、
「まぁ、たまにはいいかもな」
仕方なく、一緒に行ってやることにした。風斗がいつも、家を出る時間は、彩音より十分遅い。七時五十五分、風斗が家を出る時間。
「彩音、そろそろ行こっか」
通学路を二人で歩くのは、何年ぶりだろう?
二人は、学校へと通学路を歩いて行く。すると、五分ぐらいたったところで、
「よォ~! おっはようさん! かーざーと、あーやねちゃん」
見境守が後ろから、肩を叩いてくる。
「なんだ、守か。おはよ」
「見境先輩、おはようございます」
風斗は、そっけない挨拶で返した。
「何だよ、朝から兄妹登校ですか? このヤロー」
守がケラケラ笑ながらからかう。それに対して、彩音は「あはは」愛想笑いをする。
正直に言うと、朝からこのテンションに構うはキツい……
そんな成り行きで、三人で歩いていると、風斗は、自分の異変に気づいた。否、気付いていた。木刀を握った時からだろうか? 
苦しい────
微かだが、胸に苦しみを覚えていた。しかし、今は、その苦しみも、微かではない。かなり、我慢しているところがあった。足取りも重くなる。頭痛も、目眩も。目の前がだんだん、見にくくなってくる。まるで、世界が変わっていくように。
次の瞬間、風斗は力無く、地面に倒れ落ちる。
彩音たちも風斗の異変に気づき、倒れ込む風斗を、守が受け止める。
「おい、風斗? どうした? 大丈夫か! しっかりしろ!」
「おにぃ?」
二人の声が、風斗の耳に入って来る。しかし、今の風斗は、それすら、まともに聞き取れない。
意識が遠のいていく────
風斗は、ゆっくり瞼を閉じる────こと無く、寸前で、意識が覚醒した。
「わっ! あっ、あれ? どうなって……」
次の瞬間、風斗は沈黙した。周りの景色に、自分の置かれた状況下に。
「どこ……だ? ここは」
風斗がいたのは、木がまだらに生えている果てしない草原だった。
「ねぇねぇ、君、大丈夫? モンスターが少ないからって、流石に寝る人は見たことないなぁ~」
後ろから女性に声をかけられる。とても聞き覚えのある声。
「ん? って、おい、ここってどこだよ? 彩音」
聞きなれた妹の声、しかし────
「えっーと、その、私たち、初対面何だけど……」
「は?」
風斗が驚いて振り返る。そこにいたのは、どこから見ても、紛うことなき彩音の姿だった。
六時半、雨宮風斗の毎日決まった時間での起床だ。冬の朝ほど、ベッドから出たくないものは無い。中学三年の二月、志望校の私立高校に受かり、最近は少し、ダレぎみだ。
「あと5分ぐらいなら……もっかい寝よ」
そう言って、布団にもぐり直し、もう一度寝ようとすると、突然、風斗の布団が剥ぎ取られる。
「寒ぅぅぅぅぅ! おい、彩音だろ! マイ布団をかえしやがれ!」
ふとんを風斗から奪ったのは、妹の雨宮彩音だった。
「おにぃがずっと起きないからでしょ? 何がもっかい寝よ、よ!」
彩音からの攻撃。これは、威力が高い。
「妹よ、あまり冬の朝の寒さを舐めるなよ? 俺という死人が出るぞ!」
風斗もすかさず反撃。
「馬鹿なこと言ってないで、早く下に降りて朝ごはん食べて!」
しかし、妹には威力が弱すぎて、通用しない。彩音のカウンターで彩音の完全勝利。
こうして、朝の兄弟喧嘩は、幕を閉じた。
風斗は、ベッドから起き上がり、階段を降りて一階へ向かった。風斗たちの住む家は、二階建てで、そこそこの大きさがある家だ。一階では、彩音がご飯を並べて、準備をしていた。
「早く食べて。すぐに洗っちゃうから」
「おぉ」
二人の両親は、共働きで朝から家にいない。その代わりに、毎日、彩音が朝食を作り、風斗が夕食を作ることになっていた。
「「いただきます」」
二人で朝食を食べ始める。食事中は、学校のことや、友達のことなど、主に彩音が喋り、風斗が聞くという事が当たり前だった。二人は、食べ終わると、食器を台所へ持っていき、彩音が洗う。風斗は、学校の準備をしに二階へ戻る。
「受験が終わると、勉強のやる気の削がれ方が半端じゃねぇな」
そう呟きながら、教科書をカバンに入れていく。全て入れ終わると、制服に着替え、準備完了だ。
やる事が無くなった風斗は、部屋の隅においてある、木刀に手を伸ばした。昔、風斗が剣道をしていた時に使っていたものだ。
「懐かしいな。っと、さすがに家の中じゃ無理か」
そう言って、風斗は、玄関に向かう。
「え? おにぃ、もう行くの?」
台所から彩音の声が聞こえる。
「いやいや、ちょと、体動かしてくるだけだよ」
 風斗が、ドアノブに手をかけ、庭へ出る。制服のままだったので、少し動きづらいが、それ以上に寒さにやられる。
「寒すぎる……ふぅ」
深呼吸をして、ひとつひとつ型を思い出す。かなり、小さい頃にやっていたが、体が覚えていた。
「はっ! やっ!」
久しぶりで少しぎこちないが、風斗自身の自己評価は高かった。七つほど、終えたところで切り上げ、家に戻った。
「おにぃ、何してたの?」
彩音は、食器を洗い終わり、学校の準備をしていた。
「んー、あぁ、ちょっと懐かしいのがあってね、何となく、って感じだな」
風斗にも、答えが分からない。何故、急にしたくなったのか。
「木刀? あっ、剣道? 懐かしいね。おにぃ、一生懸命だったもんね。私も振り回してたっけ」
彩音は、風斗の手から木刀を受け取ると、「あはは」笑ながら、刀身を眺める。
すると、風斗があることに気付いた。
「はっ、彩音! 時間!」
時刻は、七時四十四分。いつもは、生徒会の仕事があり、風斗より早く、四十五分に家を出るのだが、今日はまだ、準備が終わっていない。
「やば! 急がないと!」
そう言って、彩音が階段を駆け上がる。しかし、途中で足を止める。何か、しばらく考え、ニヤニヤしながら、風斗を見下ろす。
「おにぃ、今日、一緒に行こー!」
そのまま、ゆっくり、階段を上がっていった。
「へっ?」
彩音の不思議な言動に、風斗の口から変な声が漏れる。
「えっ? やっ、何言って?」
自室から、出てきた彩音に問う。
「せっかくだし、今日はおにぃと行く」
困惑状態の風斗にさらなる追撃。
「は? 何言ってんの?! 生徒会の仕事は?」
今まで、こんなことは一度もなかったので、風斗は、素早く対応出来ない。
「だいじょーぶ。別に生徒会は、私一人じゃないんだしー」
 この年頃で兄と一緒に登校とか友達に見られたら嫌じゃないんだろうか? 
そんなことを考えながら、風斗は、一瞬、戸惑ったが、
「まぁ、たまにはいいかもな」
仕方なく、一緒に行ってやることにした。風斗がいつも、家を出る時間は、彩音より十分遅い。七時五十五分、風斗が家を出る時間。
「彩音、そろそろ行こっか」
通学路を二人で歩くのは、何年ぶりだろう?
二人は、学校へと通学路を歩いて行く。すると、五分ぐらいたったところで、
「よォ~! おっはようさん! かーざーと、あーやねちゃん」
見境守が後ろから、肩を叩いてくる。
「なんだ、守か。おはよ」
「見境先輩、おはようございます」
風斗は、そっけない挨拶で返した。
「何だよ、朝から兄妹登校ですか? このヤロー」
守がケラケラ笑ながらからかう。それに対して、彩音は「あはは」愛想笑いをする。
正直に言うと、朝からこのテンションに構うはキツい……
そんな成り行きで、三人で歩いていると、風斗は、自分の異変に気づいた。否、気付いていた。木刀を握った時からだろうか? 
苦しい────
微かだが、胸に苦しみを覚えていた。しかし、今は、その苦しみも、微かではない。かなり、我慢しているところがあった。足取りも重くなる。頭痛も、目眩も。目の前がだんだん、見にくくなってくる。まるで、世界が変わっていくように。
次の瞬間、風斗は力無く、地面に倒れ落ちる。
彩音たちも風斗の異変に気づき、倒れ込む風斗を、守が受け止める。
「おい、風斗? どうした? 大丈夫か! しっかりしろ!」
「おにぃ?」
二人の声が、風斗の耳に入って来る。しかし、今の風斗は、それすら、まともに聞き取れない。
意識が遠のいていく────
風斗は、ゆっくり瞼を閉じる────こと無く、寸前で、意識が覚醒した。
「わっ! あっ、あれ? どうなって……」
次の瞬間、風斗は沈黙した。周りの景色に、自分の置かれた状況下に。
「どこ……だ? ここは」
風斗がいたのは、木がまだらに生えている果てしない草原だった。
「ねぇねぇ、君、大丈夫? モンスターが少ないからって、流石に寝る人は見たことないなぁ~」
後ろから女性に声をかけられる。とても聞き覚えのある声。
「ん? って、おい、ここってどこだよ? 彩音」
聞きなれた妹の声、しかし────
「えっーと、その、私たち、初対面何だけど……」
「は?」
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