魔術学園に響かせよ

Raise

10話 学園入学⑤

合格という吉報を携えてエルトファレンツ領に帰ったイドラを待っていたのは、領民からの盛大な祝福だった。

それもそのはず。
学園と言えば、前述した通り同世代のほんの一握りしか入学を許されていないエリート中のエリート校だ。
そこに我らが領主の息子が入学したと言うのだから領民が喜ぶのも無理はない。

それから入学までの期間のイドラは修羅の如く鍛錬に励んだ。

今まで疎かにしていた魔術を基礎から徹底的に叩き込み、自らの能力「波形操作」をより使いこなすための知識、技術の習得、修練。
これにより、練習していた「ソナー」が使えるようになり、離れたところにいる敵を簡単に察知できるようになった。
それから、基礎体力の底上げ。
ドナーテに入学試験前に作ってもらった二刀流剣シュバルツを用いた剣術の独学による開発、修練。

朝から晩まで、時には夜中に閃いたことを試すために殆ど寝ずに朝を迎えたことすらある。
入学までの僅かな期間さえも決して無駄にすまいと日々鍛錬に明け暮れた。
齢14にして。

元からではあったが領地の同世代からはイドラは遥か遠くのかけ離れた存在になり始めていた。

そんなこんなで月日は流れ、ようやく入学するその日を迎えた。



入学試験以来に王都フリンへと降り立ったイドラは、合格発表の日と同じ目をしていた。
イドラの隣に父のイルトはおらず、イルトは領地で見送るだけであった。
というのも、これだけ瞳に覚悟を宿した息子を見れば、自分自身に任せる方が良いと思うのも何もおかしくは無いだろう。

目はそのままにして中身ははっきり言って全くの別人に近いような能力になっており、現在、総合評価C++あと少しでBに差し掛かろうかと言ったレベルである。

まだイドラの知らないことではあるが、成人の儀においてB+を叩き出したエドワード第三皇子が入学試験時B++でもってSクラスに悠々合格したことを鑑みれば、BとなるとAクラスにおいても上位が狙えるレベルでさえある。
これを見ればイドラがこの短期間をどれだけ修練に注ぎ込んだかが伺えるだろう。

正直、このレベルの伸び具合と言うのは極めて珍しく、偏にイドラのモチベーションの異様な高さによるものだろう。



さてさて、フリンに到着し、入学式を明日に控えたイドラはまず入学試験の時に泊まった所と同じ宿を取り、一休みした後、街を散策し、何より楽しみの一つであった冒険者ギルドへと向かった。

エルトファレンツ領がど田舎もど田舎であったが故に今まで殆ど触れる必要がなかったが、本来、どの地域でも魔物などの討伐依頼などを受ける冒険者ギルドがあるのだ。

田舎であることの何が魔物に関係するかと言うと、魔物というのは人間の密集地に人間を餌とするために寄ってくる習性があるため、田舎より大都市近辺に出没する傾向にあるのだ。

無論、エルトファレンツ領にも魔物は出没してはいたのだが、あまりに数が少なかったためにイルト一人で事足りていたのだ。

ギルドに着いたイドラは期待に胸を膨らませ一瞬、年相応に顔を崩し、すぐに気を引き締め直した。
そして中に入ると、聞いていた通り酒場が広がっており、屈強そうな男たちから魔法職と思われるか細そうな女性までさまざまな人達で賑わっていた。

イドラはそんな酒場の中を奥のカウンター目指して歩いて行き、受付嬢に話しかけた。

「すみません、冒険者登録したいのですけど...」
「登録ですね。畏まりました。ではまず、ここに必要事項を記入して下さい。」

そう言われて差し出された紙にイドラは年齢、所在地、メイン武器を書き込み受付嬢に返した。

「これで大丈夫ですか?」
「はい、大丈夫ですよ。それでは最後にこちらの水晶に手を触れてください。」

そう言われたイドラは右手を受付のテーブルに置いてある水晶に手を置くと水晶が光り、やがて光は消えた。

「はい、これで登録は完了しました。こちらがギルドカードになっています。決して失くさないようにして下さい。無くした場合再発行には結構な費用がかかりますので。今年から学園に入学される生徒さんですよね。」
「あ、はい。」

イドラは一瞬驚いたが、よくよく考えてみれば当たり前だ。
自分もギルドに行こうと思ったのだから、毎年のように入学生が登録に来るのだ。
道理で対応が慣れているなと思ったのだった。
無論、子供だからと言って絡んでくるような冒険者も居なかった。

「魔物との戦闘で経験を積むのも良いですが、よく考えて無理なものには手を出さないで下さいね。」
「分かりました。」

実はイドラと同じように登録をして調子に乗って魔物討伐に行き、死亡してしまうケースも稀にあり、一時期ギルド内では、登録できる年齢を制限するべきではとの声も上がったが、学園のSクラスの生徒などはすぐにでも戦えるような人材であるため、そういった生徒のことも配慮し、あくまで自己責任とすることにしている。

イドラは何となく魔物はまだ早いかと頭の片隅で思っていたため、別に特段気にすることでもなかった。

ちなみにギルドカードの裏にはステータスが本人にだけ見えるように記載されており、現在のステータスは



イドラ=エルトファレンツ

年齢:14

性別:男

能力:波形操作

魔力総数:1000/1000

身体能力

筋力:550

敏捷:1050

防御:250

知能指数:120

総合評価:C++



イドラは知らないことだが、敏捷1050と言うのは14歳と言う年齢を考えれば天性の才を持たずしてなることは決してできない領域であり、この数値はエドワードをも凌駕していたりする。

ギルドカードを作ったイドラは、その日に依頼を受けることはせず、帰る前に例のごとく図書館に行き、宿に帰り修練をしてから明日の入学式に備えて寝床についた。

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