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5-6 王国徘徊

 割と無理やりハルカに連れられ、穂乃香はサヨリと共に街に出ていた。

「なにこれ……凄い……」

 今まで見てきた異世界の街も特徴的で驚きの連続だったが、ここはそんなものは比較にならないほど凄かった。まず人が物凄く多い。王国と名乗る程のことはある。そして、見る所々で物の売買がされている。ここは市場なのだろうか。

「おおーっ!王女様だっ!!」

 そんなことを考えていると、ふとそんな叫びが聞こえてきた。

「あっ!コウジさん!!!!!」

 そしてサヨリは叫びが聞こえてきた方へと走り出す。叫んだのは魚屋の店主だった。

「ひっさしぶりだなぁ。大丈夫だったかぁ?ハヤト様がとち狂ったって聞いたがぁ」
「私はもう平気よ!」

 そんな何気ない会話が始まった。その会話がきっかけで周りにいた人もサヨリに気付く。

「あ、あれ、王女様?!」
「王女様だっ!」
「帰ってきたんだっ!!!!!」
「俺たちの……王女様!」

 そんな声が聞こえた時にはもうサヨリの姿は見えなくなっていた。とりあえず、穂乃香はハルカに聞いてみる。

「えっと……あの魚屋さんの人は……知り合いなの?」
「知り合いねぇ……お姉ちゃんにとっちゃ知り合いなんて枠組みはないわ」

 穂乃香はよく分からなかったので聞き返す。

「つまり、お姉ちゃんには知り合いで留まる相手はいないってこと。国民全員の名前と顔、それから何やってるかとか趣味までは完璧に覚えてるんじゃない?」
「へぇー……って、ええ???」

 一瞬聞き流してしまいそうになった。国民全員の名前を覚えている、ということは少なくとも数万人以上の人の顔と名前が一致しているということだ。

「勿論、この国だけでなくて各国の主要人物からはたまた人間を通り越して魔物の種類から属性までなんでも覚えてるのよ。本当にどうなってんだか……」
「完全記憶能力……とか?」
「それが体質って訳じゃないみたいなのよね。本人割とド忘れするタイプだし。きっと要領がいいのと、努力の結晶だと思うわ」

 話が壮大すぎていまいちつかみ取れない。サヨリにとっては街で歩いているそこら辺の人も名前が分かるってことだろうか。

「そういえばハルカちゃんには人がよってこないね。本当にお姫様なの?」

 グサッと何かが刺さるような音とともにハルカが倒れる。

「ま、まぁ……お姉ちゃんと比べたら私なんか……ね?皆の名前覚えているわけでもないし」

 穂乃香もちょっと言いすぎたかな、と反省する。しかし、その直後ハルカの肩を後ろから叩く者が現れる。

「いや、わではハルカ様を推すぞ」
「ヒロさん!」

 ハルカが振り向き、名前を呼ぶ。

「なんたって俺は貧乳派だからな」
「あ?ぶっ飛ばす」

 その言葉を言い切る前にヒロさんと呼ばれた人は宙に浮いていた。ハルカの綺麗なアッパーがヒロさんの顎を直撃していたからだ。

「ぐふぁっ……相変わらずだな。その容赦のなさも……胸の大きさも……」
「もう一回殴ってやろうかしら」

 穂乃香は突然の喧嘩(?)に困惑する。

「ハルカちゃん、知り合い?」
「まぁね。この人は私でも覚えてるわ。魔法屋のヒロさん。会う度に貧乳貧乳って馬鹿にしてくるのよ」
「うっ……」

 貧乳関係の話は穂乃香にとっても他人事ではない。自分の胸を撫で下ろし、そっとため息を吐く。

「ハルカ様、今日は一人じゃねぇんですな」
「ええ。この子は穂乃香よ。ほら、演説でも言ってた例の異世界人よ」

 ハルカが特に警戒することも無くノリでそのことを言って少し驚いたが、考えてみればもう王国を取り戻したので隠す必要もない。

「ほえぇー。本当に異世界人なんでいるんだなぁ。サインくれよぉ」
「あんた、有名人かなんかと勘違いしてない?」

 そんなハルカの呆れを無視してヒロさんという人は話を続ける。

「そういや異世界ってば魔法が無いんじゃろ?そんならうちの店来てくんろ?ぜってぇ楽しいから!」
「お店?」

 そういえばさっきハルカがこの人は魔法屋を営んでいると言っていた。一体何を売っているのだろうか。

「まぁ、行ってみたら分かるわ。せっかくだし、行きましょ」




 そして街の中心街から歩いて十分くらいだろうか。路地を進んだ先にその店はあった。

「ここが魔法屋……?」

 確かに、看板が出ていたりとお店ということは何となくわかったが、外装だけでは何の店かよく分からない。

「何が売ってあるんですか?」
「とりあえず、入ってくんろ!」

 ヒロさんに言われるまま、店に入る。踏み抜いた床がギシギシと音を立てる。

「え……綺麗……」

 しかし、そんなおんぼろ建物でも思わず穂乃香は見とれてしまった。そこには大小様々な大きさの光の粒が浮かんでいた。その粒が萎んだり、膨らんだり……まるで蛍のように部屋の中を漂っていた。

「おおっと、これはうちの店の名物。光の粉ライトパウダーだぜ。振り撒くと一定時間辺りを優しく照らしてくれるスグレモノぞ?世界線が違うから持たせても回避率が上がるこたねぇがな」

 今は昼間なのでそんなに暗くない。しかし、それでもこの光は美しかった。是非、夜の天空城の湖で使ってみたいものだ。

「じゃけん、何故振り撒いて使う光の粉ライトパウダーが散乱しとるんや……?」

 ヒロさんが首を傾げると、店の奥から5歳くらいの子供が出てきた。

「まさか……ごらぁ!マサキ!!てめぇ売り物勝手に使ってどないすんねん!!」
「げっ!?親父ィ……帰ってくんの早かっ!!」
「あれ?貴方子供いたの?」

 ハルカが怪しげな目でヒロさんを見つめる。

「そこけぇ……そういや二年間この街にいなかったんだったがやな。結婚した奴が子持ちだっただけさ」

 ふーんと興味無さそうに話を流す。

「捕まってたまっか!」
「こら!まて!!」

 怒られると察してか子供が外に逃げ出そうとする。しかし

「捕まえた!」

 丁度、ドアの前にいた穂乃香が捕まえる。

「ナイス!穂乃香!!」

 穂乃香は、そのまま子供を持ち上げ、ヒロさんの方へ向かせる。

「ほら、えっと……マサキ君だっけ。一緒に謝ろっか?」

 しかし子供は必死に抵抗してくる。

「離せっ!このまな板貧乳野郎!!」
「ひにゅぶっ」

 穂乃香には効果抜群だ。

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