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4-15 ハヤトの苦悩

 事は三年前。もう既にサヨリは魔法を極め、それだけでなく王女として王国を動かしていた。そんな中、ハルカとハヤトはそれをただ眺めていることしか出来なかった。

「ねぇ、ハヤト。お姉ちゃんってやっぱりかっこいいよね!」

 この頃、サヨリは王国の統制を整えるために様々なことをした。中でも一番大きな事はスラム街の整地。無職でのたうち回っている人達にサヨリ本人が直接向かい、仕事を与えていったという。サヨリは誰にでも優しく、皆に希望を与えるまさに太陽のような人だった。

 そんな姉に憧れたハルカ、そしてその才能を妬んだのがハヤトだった。

「ほら、お二人様。王女様ばかり見てないで魔法の練習を再開しましょう」

 私たち二人に魔法を教えてくれている先生にそう言われ、ハルカは練習に腰を入れる。しかし

「本当に……魔法なんかできるようになんのかよ……」

 ハヤトは全くやる気にならなかった。

「ハヤトどうしたの?頑張ってお姉ちゃんに追いつかないと」

 少しもハヤトはやる気にならない。

「お前はまだいいよ。頑張れば魔法で石の剣を生み出せるようになったんだろ?それに対して俺なんか、なーんにもできない。どうしようもねぇよ……」

 自分を卑下するような言い方をするが、魔法の先生はこう言う。

「ハヤト様。貴方は«原石»なのですよ。それに産まれ持って属性が決まっていないという異例中の異例!!貴方ならどんな魔法だって使いこなせますよ」

 先生はハヤトの頭を優しく撫で、練習を再開しようとする。

「頑張ろ、ハヤト!!どっちが先にお姉ちゃんに近づけるか勝負よ」




 しかし、一ヶ月が経ってもハヤトに魔法は全く使えなかった。

「ふ……ふざけんなよ……何が原石だ……全然魔法なんかできねぇじゃねぇか……」

 魔法の練習が嫌になったハヤトは城を抜け出し、王国の外の森へと逃げてきていた。どんな魔法でも使えるということは、適当に練習をしていつかできるようになることではなかった。ちゃんと使いたい魔法をイメージしていなければ何も生まれない。

「俺は……どんな魔法をイメージすればいいんだろう……」

 呟いた。姉は火属性を持っていた。そしてハルカは土属性。

(属性を被らせたら優越がハッキリつく。もしそれで俺が劣っていたら……)

 となればのこる水か風か、傍また特殊な属性を選ぶかになる。

(四大元素エレメントでも駄目だ。あのサヨねぇを超えるんだったら……そんな在り来りな方法じゃ絶対に無理だ……なら……どうすればいい……)

「その感情そのものを魔法に変えてしまえばいい」

 心の声を読んだかのように、そんな答えが帰ってきた。

「……誰だ」

 警戒し、周囲を見渡す。すると目の前に二人の男が立っていた。

「異世界から来たもの……とでも名乗れば良いか……」
「何の用だ」
「お前の抱いているその感情、なんだと思うか?」
「は……?」
「嫉妬だよ」

 二人の男は答えも聞かぬまま話を進める。

「それがどうしたってんだ」
「姉より……第一王女より優れた人間になりたくないか?そいつを手駒にできるほどに」
「どういうことだ?」

 二人のうち一人が手を大きく広げて答える。

「闇属性だよ」
「……!?」

 聞いたことがある。光と闇、最強と呼ばれる属性。

「お前が闇の力を得れれば第一王女の能力を越すどころの話ではない。王国転覆だってできる。それに今のお前ならイメージだって容易だろう。今お前が抱いている感情こそが闇の力だからな」
「な、なるほどな。だが、なぜそこまで言いきれる?あの王国最強の男、アツシを倒せるやつなんかいるわけがねぇ」

 馬鹿を見るような目で二人の男を見つめる。しかしそれを見越したかのように男達はニヤリと笑う。

「丁度いい霊装を持っててな」

 そう言って男は箱のような物を持ってきて、ハヤトの前で開ける。その中には禍々しい剣のようなものが見えた。

「魔素の災薬。これを人の体に刺すとその人間に闇のオーラを注入できる。五滴入れればお前を主と慕う忠実な下僕へと、十滴入れれば災害級のモンスターに変化する。もちろんお前に忠実な奴にだ。だが、この霊装を使えるのは闇属性の術者だけだ」

 ハヤトは頭をかいて二人に質問する。

「メリットは分かった。信用はしてないがな。それでお前らの目的はなんだ?」

 その問いに一人が微笑みながら答える。

「俺たちもお前と同じ。あいつが嫌いなんだよ」




 この時の俺はなんといったんだ……?

 俺は……別にサヨねぇの事が嫌いだった訳では無い。ただ、俺だってできるって言いたかった。

  俺を認めて欲しかっ……た……だ……け

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